あなたがとても大切にしているものが盗まれた。なんと盗んだ相手は友人だったことが判明。あなたはその友人宅に忍び込み、盗まれた物を奪い返す。実はこの行為、自力救済と呼ばれ、民事法上禁止されている。自力救済とはある権利を持つ者が、その権利を何者かに侵害され、法的な手段を取らずに、自らの力で権利の回復を行うことを言う。盗まれた自転車を発見して、そのまま乗って帰る行為も自力救済の一つとして禁止されている。そこで今回は自力救済の過去の判例について井上義之弁護士に話を伺った。
■「自力救済は禁止」のきっかけとなった最高裁判例
まずは民事事件において、自力救済が禁止とされるきっかけとなった判例を伺った。
「最高裁判例(最三小判昭40.12.7)をご紹介します。『私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない』。私力による権利の実現は原則として禁止であることを示した最高裁判例です。自力救済に関する民事事件はこの判例に沿って判断されています」(井上義之弁護士)
判例には法的手段を取らない実力行使は原則禁止であると書かれている。しかし、その一方で法的手段をとっても権利の回復が非常に難しく、緊急でやむを得ない事情があれば、自力救済も例外的に認められるとも書かれている。
■「家賃滞納した場合は無許可でも立ち入り可能」と入居者から同意を得ていてもダメ!
先ほどの最高裁判例には、例外的に自力救済も認めると書かれているが、実際はどうなのだろうか。
「自力救済が例外的に許されるとした裁判例もありますが、裁判例の傾向は、自力救済を容易に認めないと言ってよいと思います。例えば、東京地裁平成18年5月30日判決は、賃貸人と賃借人との間で、『家賃滞納の場合に賃貸人が賃借人の承諾を得ずに建物に立ち入り、適当な処置をとることができる』旨の特約があり、マンションの管理会社が室内に立ち入るなどした事案でしたが、上記最高裁判例と同じ枠組みで判断し、自力救済を認めませんでした」(井上義之弁護士)
そもそも、家賃を滞納すれば立ち退き等のために無断で入ることは許されるような気がする。しかしそれを敢えて賃貸契約書等に明記し借主の同意を得ていた。しかしそのような契約を交わしていたとしても、無断で入った貸主の自力救済を認めなかったという。
「『権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情』がない限り、当事者間に予め特約があっても当該特約は公序良俗に反して無効であり、原則通り自力救済は許されないと判断したものです」(井上義之弁護士)
■自力救済はダメ!しかし法的な手続きを経ることのデメリットやコストも重要
それでは最後に自力救済が認められた例をご紹介する。
マンション前に3ヶ月間、車が放置されていた。マンションの住人が再三移動するように、車の持ち主に働きかけた。しかし車の持ち主は移動しなかった。故意であると判断した住人は車を処分した。すると持ち主が損害賠償を請求してきた。
裁判所は「やむを得ない特別の事情」として請求を認めなかったという。(横浜地裁昭和63年2月4日判決)
自力救済は原則認められていない。もしも権利の回復を願うならば必ず法的な手続きを取ることを忘れてはならない。ただし、その権利を回復することによって得られるメリットと、法的な手続きをとることのデメリットやコストはしっかり検討する必要があるだろう。
■「自力救済は禁止」のきっかけとなった最高裁判例
まずは民事事件において、自力救済が禁止とされるきっかけとなった判例を伺った。
「最高裁判例(最三小判昭40.12.7)をご紹介します。『私力の行使は、原則として法の禁止するところであるが、法律に定める手続によつたのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許されるものと解することを妨げない』。私力による権利の実現は原則として禁止であることを示した最高裁判例です。自力救済に関する民事事件はこの判例に沿って判断されています」(井上義之弁護士)
判例には法的手段を取らない実力行使は原則禁止であると書かれている。しかし、その一方で法的手段をとっても権利の回復が非常に難しく、緊急でやむを得ない事情があれば、自力救済も例外的に認められるとも書かれている。
■「家賃滞納した場合は無許可でも立ち入り可能」と入居者から同意を得ていてもダメ!
先ほどの最高裁判例には、例外的に自力救済も認めると書かれているが、実際はどうなのだろうか。
「自力救済が例外的に許されるとした裁判例もありますが、裁判例の傾向は、自力救済を容易に認めないと言ってよいと思います。例えば、東京地裁平成18年5月30日判決は、賃貸人と賃借人との間で、『家賃滞納の場合に賃貸人が賃借人の承諾を得ずに建物に立ち入り、適当な処置をとることができる』旨の特約があり、マンションの管理会社が室内に立ち入るなどした事案でしたが、上記最高裁判例と同じ枠組みで判断し、自力救済を認めませんでした」(井上義之弁護士)
そもそも、家賃を滞納すれば立ち退き等のために無断で入ることは許されるような気がする。しかしそれを敢えて賃貸契約書等に明記し借主の同意を得ていた。しかしそのような契約を交わしていたとしても、無断で入った貸主の自力救済を認めなかったという。
「『権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情』がない限り、当事者間に予め特約があっても当該特約は公序良俗に反して無効であり、原則通り自力救済は許されないと判断したものです」(井上義之弁護士)
■自力救済はダメ!しかし法的な手続きを経ることのデメリットやコストも重要
それでは最後に自力救済が認められた例をご紹介する。
マンション前に3ヶ月間、車が放置されていた。マンションの住人が再三移動するように、車の持ち主に働きかけた。しかし車の持ち主は移動しなかった。故意であると判断した住人は車を処分した。すると持ち主が損害賠償を請求してきた。
裁判所は「やむを得ない特別の事情」として請求を認めなかったという。(横浜地裁昭和63年2月4日判決)
自力救済は原則認められていない。もしも権利の回復を願うならば必ず法的な手続きを取ることを忘れてはならない。ただし、その権利を回復することによって得られるメリットと、法的な手続きをとることのデメリットやコストはしっかり検討する必要があるだろう。