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年1億2000万円を売り上げる77歳営業マン。営業未経験でもトップ成績を収める“高齢者ならではの強み”とは

日刊SPA! 2024年2月26日 8時54分

 世界に先駆けて超高齢社会を迎える日本。内閣府が公表している「令和5年版高齢社会白書」によれば、2025年には日本人口の約3人に1人が65歳以上に達するとされている。定年の引き上げに踏み切る企業が増えるなか、“人生100年時代”を見据えたキャリア設計を考えていく必要があるだろう。
 こうしたなか、77歳という高齢ながら“年商1.2億円”を売り上げる敏腕シニア営業マンがいる。

 東京都町田市で都内最大級の樹木葬を手がける「町田いずみ浄苑」に勤務する高田敏彦さん(仮名)は、2019年に派遣社員として同社へ入社した。

 定年後、それまでに築き上げたキャリアを捨てて、“新人”としてイチからスタートするのは大きな不安がつきまとう。しかし高田さんは、営業未経験だったにもかかわらず、営業部ではトップの成績を収めるまでに成長したという。定年後も生涯現役で仕事をしていく心得や原動力について高田さんに伺った。

◆人生の節目に携れる仕事に魅力を感じた

 樹木葬は、故人の遺骨を墓石へ埋葬する代わりに樹木や花壇をシンボルとして供養する埋葬方法だ。

 永代供養(遺族ではなく霊園や墓地の管理者が遺骨を管理すること)の一つであり、墓石を購入する費用を抑えられるため、昨今においては注目度が高まっている。

 こうしたなか、町田いずみ浄苑では2005年に認定NPO法人エンディングセンターの企画で会員の墓地として樹木葬墓地「En21」を造り、墓埋法に則った数多くの樹木葬を提供してきた。

 高田さんが町田いずみ浄苑へ入社したのは、シニア人材に特化した派遣会社からのオファーがきっかけになっているとのこと。

「私は定年を迎える60歳まで、総合商社で海外拠点の経理業務に従事していました。その後、商社時代の知人が運営する病院の事務長に誘われ、72歳まで働いていました。

 病院を辞めた後は、これまで経験したことのなかった職に就きたいと思って、高齢者向けの人材派遣に登録し、町田いずみ浄苑を紹介してもらったんです。仕事の内容が、まさに人の“人生そのもの”と言える『お墓を売る』仕事で、お客様の気持ちに寄り添いながらお話できることにやりがいを感じ、入社を決めました」(高田さん、以下同)

◆未経験から始めた営業「最初はお墓に立ちっぱなしだった」

 現在、高田さんは週5日、9時〜17時の間で働いているという。

 はじめは派遣社員からのスタートだったが、軒並み好成績を収め続けたことで、給与アップを反映しやすい契約社員へと雇用形態が変わったとか。

 今まで経理や事務の仕事をメインにしてきた高田さんにとって、営業の仕事は未経験。なぜ、そこから成果を出せるようになったのか。

「私の場合は、ひたすら現場で覚えていきました」

 高田さんは、自身の営業スタイルについてこう語る。

「当初は町田いずみ浄苑が運営する4ヶ所の樹木葬のうち、1ヶ所だけを担当させてもらい、事前にアポのない墓参りに来られたお客様へ説明する仕事を中心に行っていましたね。そんなに数は多くなく、1週間に3〜4件こなす程度でした。

 心がけていたのは、管理事務所の中で待っているのではなく、お墓の前に立って待っていることです。出勤して午前中は2時間、お昼休憩を挟んで午後も3時間近くはずっとお墓の周りにいて、お客様から質問があればいつでも答えられるように準備していました」

◆“人生の先輩”として聞き役に徹し、後追い営業はしない

 72歳で“新人”の高田さんは、契約書の使用約款に記載されている埋葬料の説明を怠り、お客様から叱責されたミスもあったそうだが、わからないことは周囲の人へ聞いたり、現場で接客したりしていくうちに要領をつかんでいったとのこと。

 営業トークでは「お客様第一で、できる限り要望を聞く姿勢」を心がけていたそうで、お客様の自主性を尊重し、“しつこい”と思われないような人当たりと、寛容な接し方を意識した結果、自然と受注につながったという。

「お墓を売るという特殊は商品を扱う職場であるにもかかわらず、未経験の私が何とかここまでやってこれたのは、町田いずみ浄苑のスタッフ全員がシニアの私を暖かく受け入れてくれて、陰に陽に私を助けてくれたからであり、深く感謝しています。本当に良い職場に恵まれて良かった」

 契約社員となった現在は、会社から割り振られたアポを1日に2〜3件こなし、成果を出すために奮闘する高田さん。

 その成約率は約7割というから驚きだ。

 どのような営業のコツがあるのか尋ねたところ、「シニアだからこそ、お客様に信頼してもらえる存在になり、売ることに対して執着しないこと」だと説明する。

「樹木葬は墓石よりも安いぶん『売りたい』という執着心が強いと、お客様から嫌がられてしまいます。私の場合は物を売る感覚ではなく、“人生の先輩”として雑談を交えながら、樹木葬の特徴や種類、管理費や維持費がかからない点などをお伝えしていきます。

 そのなかで大切にしていたのは『お客様への傾聴』です。お客様は、いろいろなご意見、お考えをお持ちです、まずはじっくりとお話に耳を傾ける。お墓を購入するには必ず理由があり、差し支えない範囲でお聞きしながら、信頼関係を構築できるように努めていますね」

◆元気に働くシニアの姿は会社の「アイコン」になっている

 特に最後のクロージングも意識せず、メールやフォロー架電といった後追い営業もやらないスタイルで結果を残せるのは、「シニアならではの『安心感』と『アイコン的要素』があるからだと、高田さんは続ける。

「アポでお会いしたお客様とは、基本的に1度だけしかお話しません。その際に必ずお伝えするのが『他の霊園もご見学され、十分にご検討した上でもし当苑の樹木葬に興味を持たれたら、お気兼ねなくご連絡ください』ということです。それ以外は一切の営業活動をしていないのですが、だいたい3〜6ヶ月くらい後になって連絡が入り、正式に契約へと進むケースが多いですね」

 今後、少子化高齢化や独身人口の増加など、さらに樹木葬のニーズが高まっていくことが予測されるが、「社会的な背景から樹木葬への関心が高まっていくなかで、自分がその一端を担う仕事に関われるのが大きなモチベーションになる」と高田さんは展望を述べる。

「お客様から、『高田さんに樹木葬をすすめられたから契約した』と言ってもらえるのが嬉しいんですよ。また、高齢なのに元気に働いている姿を見て『とても勇気をもらった』というお声もいただくことがあり、それが自分の原動力にもつながっているんです」

 年齢に関係なく、仕事へ取り組んで成果を出す。75歳を超える後期高齢者の活躍ぶりは、人生100年時代における働き方を考える上で、希望の光となるのではないだろうか。

<取材・文・撮影/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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