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新星登場!五輪メダル候補を破った、高校生ダンサーISSINの闘志

日刊SPA! 2024年2月29日 8時50分

 パリ五輪の新種目ブレイキン。日本には有力選手が多く、ブレイキン大国とも呼ばれているが、そんな期待が高まる戦いがオリンピックイヤーの今年、ますます盛り上がっている。
 今年のブレイキン「日本一」を決める、第5回全日本ブレイキン選手権の男子(BBOYと呼ばれる)の決戦では“下剋上”が起きた。絶対的エースでこれまで同大会3連覇中かつ大会4連覇が期待されたShigekix(本名:半井重幸)に、高校3年生のISSIN(本名:菱川一心)が勝利し、初優勝を遂げたのだ。

◆「殴り合わないボクシング」ブレイキン

 すでに日本唯一の五輪出場権を獲得しているShigekixは、現在世界ランキング1位。一方のISSINも同6位で、世界大会の経験を数多く重ねるトップ選手だ。そんな2人が、準決勝で激突した。「殴り合わないボクシング」とも呼ばれるブレイキン。その対決はバトルと呼ばれ、入場は赤と青のコーナーから各選手が入場する。

 ISSINは、入場からただ歩いて入ってくるのではなく、幕が開いた瞬間、ゲート奥の足場に横向きで座るポーズでキメていた。観客をあっと驚かせる。いわば“つかみ”から場を支配し、バトルの合間にも声援を煽ると、持ち味の独創的で爆発力のあるパワームーブを炸裂させ、絶対的エースのShigekixを下した。会場が大盛り上がりだったのは言うまでもない。

◆本番で大技を成功!ISSINの度肝を抜くパフォーマンス

「ぶちかましたい」「ここには優勝しに来ている」

 決戦前夜の予選からISSINの意気込みは溢れていた。「ぶちかます」は、ISSINが意気込みを明かすときのお馴染みのフレーズ。茶目っ気たっぷりにこう言ってはファンを魅了してきたが、この時は自嘲気味な笑みがこぼれた。

「ちょっと緊張しちゃって。ちゃんと自分のやりたいムーブを忘れないよう、身体もケアしてちゃんと精神統一したくて…精神統一しました。もちろん優勝が目標ですが、一番やりたいのは見ている人の記憶に残るようなダンスをすること。ラウンドロビン(予選)を勝ち上がらなきゃって、すごく考えたけれど、結果が出た時は楽しんでいた時だから、『大丈夫、大丈夫』って言い聞かせて、楽しむ気持ちを思い出していました」

 ステージを降りれば、どんな質問にも説明を尽くそうとする好青年。ISSINはその言葉どおり、勝負の決戦で人々の記憶に残るようなパフォーマンスを披露して、Shigekix以上に場内を沸かせた。また、その一つが新技の披露だった。大会後の会見で胸中を明かしている。

「名前はちょっとダサいんですけど、『足持ち肩キャッチ』っていいます。成功率の低い新技だったんですが、ちゃんとばっちり決まりました」

 成功率の低い大技を本番で披露するダンサーはあまりいない。失敗すれば減点されるリスクがあるからだ。だがISSINはShigekixに勝つには、新技を出すしかないと全3ラウンドの1ラウンド目から出したという。同技は、名前のとおり足を手で持ちながら肩で着地させつつ回る複雑でダイナミックな大技(パワームーブ)だ。

「正直、シゲキ君(Shigekix)対策はめっちゃ考えました。でも、もともと観客を巻き込む踊りをするのが大好き。一番お気に入りの大技も全部出して、出し尽くしました。大歓声も力になりました」

 大勢のメディアに囲まれながら、ISSINは無邪気な笑顔で語った。

◆同じく高校生、Hiro10と優勝をかけた決戦

 準決勝でShigekixを下したISSINの決勝戦の相手は、同じ高校生でともに切磋琢磨してきたHiro10(本名:大能寛飛)。彼も世界ランキング11位でISSINと同じくパリ五輪を目指し、今大会の優勝を目標に掲げてきた。Hiro10もダイナミックなパワームーブを武器にしている。

 感動的だったのは、決勝戦で音楽が鳴り始めてバトルがはじまった瞬間、ムーブを出す前にISSINがHiro10に近づいていって握手をした場面。ハイパフォーマンスディレクターを担う渡邊将広(Marrock)さんが明かしていた見どころである「バトル前後のリスペクト」のシーンだ。ステージから「共に全力を尽くして戦おう」という心意気が伝わり、またしても場内のエネルギーをISSINが吸収したかのように感じられた。
 事実上の決勝戦となったShigekixとの準決勝で、ISSINは大技や新技を出し切ったというが、その引き出しは多い。それらをISSINいわく「最高の熱量で、もっとフォーカスしてぶつけた」結果、Hiro10も「そういった差が出た」と認める優勝劇となった。

◆準決勝でまさかの敗退、エース・Shigekixのプライド

 驚くべきは、準決勝で敗れたShigekixが、その後の3位決定戦でさらに生き生きとしたパフォーマンスを披露したこと。準決勝で敗退し、4連覇がついえた直後の戦いにもかかわらず、見事に切り替えて圧巻の実力をみせつけたのだ。

精神的にも体力的にも最も厳しくなった局面。それらを一切感じさせることなく、楽しげな表情と無尽蔵のスタミナで、持ち味のミュージカリティをさらに発揮。見ている側が自然とリズムに乗ってしまうほど音楽との一体感あるムーブと、驚異のビタ止めフリーズをキメまくると、ISSINやHiro10と同世代で成長著しいTsukki(本名:飯沼月光)に圧勝し、文句なしの銅メダルを獲得した。

 その後の会見でもShigekixは「負けはには学ぶことが必ずある」とさらなる課題克服を誓っている。これを機に、さらに磨きをかけて強くなるのだろう。

 そんな絶対的エースに勝利したISSINは語る。

「シゲキ君はずっと前から世界で活躍していて、YouTubeで見て憧れていた存在。自分も頑張ってきて倒したい相手になったけれど、いつも負けていた。シゲキ君に勝ちたくて仕方なかった。やっと勝てました」

 とはいえ、5月からオリンピック予選シリーズがはじまる。代表切符を勝ち取るため、喜んでいる場合ではないとばかりに言う。

「今はめちゃめちゃ嬉しいけれど、時間がない。いま帰ってすぐにでも練習をして、また新しい動きを開発したいです」

 優勝した直後にして「すぐに練習したい」という。日本のトップ選手たちの飽くなき探究心と切磋琢磨は止まらない。今年のオリンピックでのメダル獲得にも期待が高まるわけなのだ。

取材・文/松山ようこ

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