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「妻にバットで殴られ、刃物で切られた」男のDV被害、“報道されない”実態を支援者が語る

日刊SPA! 2024年3月13日 8時51分

 一般的にDV加害者は男性で、女性は被害者と思われがちで、男性のDV被害が報道されることは少ない。だが、令和2(2020)年度の内閣府男女共同参画局の統計によると、<女性の約4人に1人、男性の約5人に1人は、配偶者から暴力を受けたことがある>とされている。
 筆者が「日刊SPA!」にて妻から夫への虚偽のDV申告についての記事を書いたところ、多くの男性から自分自身が妻からDVを受けていると連絡がきた。その内容は壮絶なものだった。

「妻から包丁で脅されたが警察がとりあってくれない」「妻から首を絞められ失神し、病院送りになったが、親権は妻に渡った」「妻から部屋に監禁された」など、どれも深刻なケースばかりだった。

 DVは男女どちらからも起こるものだ。DV加害者・被害者のケアにあたって30年、のべ9000件のカウンセリングをしてきた日本家族再生センターの代表である味沢道明氏(70歳)に話を聞いた。味沢氏は、大学卒業後、会社員を経て35歳で退職した後に支援の道へ進んだ。

◆男性の被害が軽く見られがちなワケ

 味沢氏は、日本家族再生センター代表としてさまざまな男性のDV被害のケースを目の当たりにしてきた。

「バットで殴られた、刃物で切られた、椅子で殴られたといったケースもありました。女性から男性へのDVは重篤にならないと発覚しません。また、女性が男性からのDVから逃げ込んだり、相談したりする場はありますが、男性にはないですよね。DVは誰かが介入しないと、男女ともにエスカレートしていきます。男性の被害は軽く見られがちです」

◆DV被害に遭っても助けを求められない男性

 女性の場合、警察に駆け込めば、DVシェルターに避難できたり、相談したりする場はいくらでもある。男性のそれはほとんどなく、味沢氏の相談所では男性のDVシェルターも設置している。

「男性は、女性からDV被害に遭うと、アイデンティティが揺らぎます。みっともないという気持ちがあって、なかなか相談しません。我慢してしまいます。刃物で20針切られた男性がいましたが、離婚裁判では、なぜか男性側が慰謝料を数百万円支払うように言われたケースもあります」

 冒頭に紹介した前回の記事で、家庭裁判所での審理では、妻からのDVの相談票や相談履歴のみで男性が加害者とされると書いたが、こういったケースは後を絶たないという。

◆DVの被害者・加害者になりやすい人とは?

 味沢氏によると、DVの被害者・加害者になりやすい人には一定の傾向があるという。

「成育段階で、親からコントロールを受けている人は男女問わず、被害者にも加害者にもなりやすいです。女性の場合は成育の段階で、女の子らしくしなさいなど、自己決定や自己主張をするトレーニングを受けていない人が加害者になりやすい。そういう女性は結婚後、夫に対し、言いたいことを言えないし、コントロールされることを望みます」

 夫婦2人の関係性ならば、それで済む。しかし「子どもが産まれるとそうはいきません」と語る。

「女性の加害者はいい妻・いい母になれないという役割意識から、自分を責めてしまい、ためこんでしまう。それがプツンときたときに暴力になります。また男性の加害者の場合は、逆にコントロールしようとします。女性に負けてはいけないという気持ちが働き、なんで妻は分からないのだという気持ちが暴力につながるのです」

◆包丁を出すにも理由がある

 過去にトラウマを与えた相手とは別の相手を目の前にしても、フラッシュバックし、目の前にいる相手にその気持ちをぶつけてしまう。味沢氏はそういった“痛み”を抱えた女性たちの悲痛な声に、深夜まで対応する。カウンセリング料金は、1回3000円だ。

「攻撃的になるのは自己防衛です。過去の“傷つき”や“痛み”からきています。カウンセリング料金を3000円にしたのは、臨床心理士などは話を聞くだけで1万円~1万5000円と高いので、お金がない人は続けられないからです。こちらは利益抜きで支援にあたっています」

◆男性がDV被害者になったらどうする?

「本来ならば支援をする場所があればいいけれど、少ないのが現状です。各地自体の男女共同参画センターは男性の相談も受けていますが、本格的な支援ではありません。男性の支援もしているというアリバイ作りになってしまっています。女性からのDVで『怖い』『つらいんだ』と相談し、逃げ場や支援先を見つけて行くしかありません。日本家族再生センターでもDVモラハラホットラインを設置しています」

 女性からのDVが始まったら、タイムアウトする・逃げるとしても男性用のシェルターはほとんどない。

「漫画喫茶やホテルに逃げて、距離を置くしかないですね。また、日ごろから、警察に相談しておくと警察も動きやすい。そうでないと(女性からのDVなんて)大したことねえだろうと思われてしまう。包括的にケアするには、心理学の知識だけではダメです。“社会を知る”ことが大切です。心理学では、貧困や差別などの社会病理は学びませんし、法律や司法の現実も学びません。また個々の家族の問題も教科書にはありません。家族の暴力は容易に連鎖するという生育の問題もあります」

◆法律では人の心は裁けない

 そんな味沢氏のDVセッションでは、内閣府はこれを禁止しているが、加害者も被害者も一緒に語り合う。

「今のDV支援は家族解体の方向でしか支援がないのが現実です。本来は、修復的な支援が必要なのです。離婚して家族が幸せなこともありますし、別居のまま幸せな家族もあります。家族の形は問題ではなく、相互扶助・相互理解ができればいいんです。弁護士は相互理解の邪魔になります。相互理解ができれば弁護士は不要になりますから、対立を煽る形になるのも当然で、お互いを傷つけて終わってしまう。法律では人の心は裁けません」

 味沢氏の支援を通じて、DV問題を抱えていた夫婦が再生するのは、ごく普通にあるという。こじれる前に繋がってほしいとのこと。男性の約5人に1人がDV被害者になる現代で、被害に遭った男性や加害女性への支援先作りは急務だ。

<取材・文/田口ゆう>

【田口ゆう】
ライター。webサイト「あいである広場」の編集長でもあり、社会的マイノリティ(障がい者、ひきこもり、性的マイノリティ、少数民族など)とその支援者や家族たちの生の声を取材し、お役立ち情報を発信している。著書に『認知症が見る世界 現役ヘルパーが描く介護現場の真実』(原作、吉田美紀子・漫画、バンブーコミックス エッセイセレクション)がある。X(旧ツイッター):@Thepowerofdive1

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