「老害=高齢者」はもう古い。年齢に関係なしに、その予備軍たる「老害グレーゾーン」は職場にはびこっている。自分は果たして違うのか? 実例を元に考えてみた。
◆相談に乗るつもりで誘ったらアルハラ?
「期待の若手が、契約を取れずに悩んでいたんです。それで自分の20代の頃に重ねてしまい、『相談に乗ってやるから飲みに行くか!』と誘ったんですよ。それからも事あるたびに『頑張れよ!』とハッパもかけましたがそれが間違いだったとは……」
そう話すのは、広告会社課長の添田健二さん(仮名・45歳)。半年後、その若手は会社を辞めてしまい、上層部から次のように告げられたという。
「『飲み会という会社外の付き合いを求められ、さらに過度の期待もされてプレッシャーが苦しかった……』と言っていたそうです。自分としてはかわいがったつもりが完全に仇になったんです」
会社からは口頭での厳重注意で済んだが、部署内では同僚から距離を置かれるように。今では仕事以外で話しかけてくることはほぼないという。
◆社内では“要注意人物”に…
「期待の若手を気にかけたつもりでした」
もともと部下と飲みに行くことはそれほど多くなかったが、この一件以降は自分から誘うことはしなくなった。
「つらいのは社内で自分より若い人を退職に追い込んだ“要注意人物”と見られてしまったこと。今は年下たちを“フラットな目線”で見るように心がけていますが、正直何がOKで、どう接すればいいのか戸惑いはあります」
中間管理職のソフト老害化は、どの企業にとっても珍しいことではないのだ。
◆ソフト老害化を防ぐアップデート術
会社員たるもの、どうしても年下に教育や指導する場面は訪れる。この八方塞がりな状況で、ソフト老害に思われない方法はないか? ここからは『#言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でコピーライターの小竹海広氏に、ソフト老害化を防ぐための「言葉の使い方」について聞いた。
◆大きな主語から小さな主語へ
「言葉のアップデートというのは、言葉そのものだけでなく、思考のアップデートとしても語れるんです。ちょっとした意識と言葉の違いで、年下社員が受け取るイメージは大きく変わります」
では、手始めにどんな意識から変えていくべきだろうか。
「まず、指導や注意でやりがちなのが、“主語を大きくすること”。『会社的に~』『普通は~』『みんなが〜』など、さも世論的であるかのような表現は、ただの個人の意見を過度に一般化するだけのズルい言い方です。なので、『私はこうしていました』と一人称へシフトしてみましょう」
注意をしたいときは、主語を大きくしない
BEFORE 普通はこうしない?
AFTER 私はこうしていました
◆問題は「ヒト」ではなく「コト」として捉える
さらに、「罪を憎んで人を憎まず」とは孔子の教えだが、小竹氏も相手を責めるのではなく、現象が起きた“シチュエーション(背景・状況)”に寄り添うすべきだと強調する。
「失敗をヒューマンエラーではなく、仕組みの問題として捉えて、ミスを起こした『ヒト』をコントロールしようとするのではなく、起きてしまった『コト』について、『こういう背景があるよね』『だからこうしないといけないよね』とコンテキストへ変換する。すると、建設的な解決策を模索がしやすくなるはずです」
失敗しているときは、相手を責めない
BEFORE 何で間違えたの?
AFTER 解決策を整理しよう
◆年下からアプローチをさせる「プル型」に誘導する
また、物事を提案したいときは、年上からの「プッシュ型」ではなく、年下からアプローチをさせる「プル型」にうまく誘導するのが大事とも。
「どうしても年上の意見はプレッシャーになりがち。押し付けに加えて、自分に配慮がない内容だと、『この人に相談しても意味がない』となってしまう。それこそソフト老害です。困っている相手がいたら、『なにかあったら聞いてね』と上手く誘導する」
相手が困っているときは、聞かれるまで待つ
BEFORE もっとテキパキやってよ
AFTER なにかあったら聞いてね
◆昔話は“失敗マウンティング”で
また、ついつい部下や後輩に過去の自分の経験を元に助言をしたくなってしまうのも、「ソフト老害」的なムーブです。これには2つの対策があると小竹氏。
「どうしても昔話をしたい場合には、正真正銘の失敗談を語る“失敗マウンティング”なら親しみやすさが生まれるかもしれません。僕自身も免許をうっかり失効して、一から教習所に通った話から、過去にSNSで炎上した話まで、さまざまな失敗を経験してきましたが、失敗談を“自己開示”することで、むしろ周囲との距離がたしかに縮まった瞬間がたくさんありました。自ら『隙』を見せると、『好き』になってもらいやすいです」
もしくは過去の経験を「資料化してしまうのもアリ」だと言うが、資料化とは一体どういう意味なのか。
「自分の実績や、過去の担当案件の書類などをまとめておけば、部下や後輩は参考にしたいときに見ることができます。加えて、資料であれば受け取るも受け取らないも自由なので、彼らにとっても負担があまりありません。自ら銛で突きに行くのではなく(プッシュ)、置き網漁のように資料を用意しておいて、食いついてくれたならば(プル)、向こうから昔話を聞いてくれるはずですから」
昔話をしたいときは、失敗でマウンティングする
BEFORE 俺の若い頃はね……
AFTER これは本当に大失敗だったんだけど……
◆理想の上司・先輩像は「フリーザ様」
そして、何より大切なのが、ポジティブなフィードバックを散りばめること。
「実は『ドラゴンボール』のフリーザ様が理想的。たしかに彼は冷酷なキャラクターではありますが、部下に対しても敬語を使ううえに説明が丁寧で論理的。さらに、ドラゴンボールを集めた部下には『すばらしいですよ』『あなたたちを呼びよせたかいがありましたね』と具体的に褒めています」
さらに、小竹氏が『理想の上司・先輩』と考えるキャラクターはフリーザ様だけにはとどまらない。下記参考に、ソフト老害化を防ぐためのロールモデルとして心に止めても良さそうだ。
●フリーザ(『ドラゴンボール』)
……誰に対しても敬語で、具体的に褒めてねぎらう
●リヴァイ兵長(『進撃の巨人』)
……目線を合わせて是々非々(ニュートラルな視点)で判断する
(ただの虚勢では見透かされる可能性もあるので要注意)
●マーヴェリック(映画『トップガン マーヴェリック』)
……自ら汗をかくことをやめない姿勢。口で語るより、背中で語る
●葛城ミサト(『新世紀エヴァンゲリオン』)
……実力があるけど勇気がないだけの人には、挑ませる
「誰かに仕事を振る立場にある人であれば、誰もがソフト老害になり得るという、大変な時代になってきているなと思います。しかしながら、強い言葉も時には必要です。言葉のアクセルとブレーキの両方を使って、時代を前に進めていきましょう」
時代の変化に臆することなく、固定観念に縛られず、働き方と言葉を更新して、同僚からの印象もアップデートさせたいところだ。
【小竹海広氏プロフィール】
おだけみひろ●コピーライター。外資系広告代理店のコピーライターを経て、現在は都内広告会社でクリエイティブディレクターに。著書に『言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)がある
取材・文/週刊SPA!編集部
―[[老害グレーゾーン]の実態]―
◆相談に乗るつもりで誘ったらアルハラ?
「期待の若手が、契約を取れずに悩んでいたんです。それで自分の20代の頃に重ねてしまい、『相談に乗ってやるから飲みに行くか!』と誘ったんですよ。それからも事あるたびに『頑張れよ!』とハッパもかけましたがそれが間違いだったとは……」
そう話すのは、広告会社課長の添田健二さん(仮名・45歳)。半年後、その若手は会社を辞めてしまい、上層部から次のように告げられたという。
「『飲み会という会社外の付き合いを求められ、さらに過度の期待もされてプレッシャーが苦しかった……』と言っていたそうです。自分としてはかわいがったつもりが完全に仇になったんです」
会社からは口頭での厳重注意で済んだが、部署内では同僚から距離を置かれるように。今では仕事以外で話しかけてくることはほぼないという。
◆社内では“要注意人物”に…
「期待の若手を気にかけたつもりでした」
もともと部下と飲みに行くことはそれほど多くなかったが、この一件以降は自分から誘うことはしなくなった。
「つらいのは社内で自分より若い人を退職に追い込んだ“要注意人物”と見られてしまったこと。今は年下たちを“フラットな目線”で見るように心がけていますが、正直何がOKで、どう接すればいいのか戸惑いはあります」
中間管理職のソフト老害化は、どの企業にとっても珍しいことではないのだ。
◆ソフト老害化を防ぐアップデート術
会社員たるもの、どうしても年下に教育や指導する場面は訪れる。この八方塞がりな状況で、ソフト老害に思われない方法はないか? ここからは『#言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でコピーライターの小竹海広氏に、ソフト老害化を防ぐための「言葉の使い方」について聞いた。
◆大きな主語から小さな主語へ
「言葉のアップデートというのは、言葉そのものだけでなく、思考のアップデートとしても語れるんです。ちょっとした意識と言葉の違いで、年下社員が受け取るイメージは大きく変わります」
では、手始めにどんな意識から変えていくべきだろうか。
「まず、指導や注意でやりがちなのが、“主語を大きくすること”。『会社的に~』『普通は~』『みんなが〜』など、さも世論的であるかのような表現は、ただの個人の意見を過度に一般化するだけのズルい言い方です。なので、『私はこうしていました』と一人称へシフトしてみましょう」
注意をしたいときは、主語を大きくしない
BEFORE 普通はこうしない?
AFTER 私はこうしていました
◆問題は「ヒト」ではなく「コト」として捉える
さらに、「罪を憎んで人を憎まず」とは孔子の教えだが、小竹氏も相手を責めるのではなく、現象が起きた“シチュエーション(背景・状況)”に寄り添うすべきだと強調する。
「失敗をヒューマンエラーではなく、仕組みの問題として捉えて、ミスを起こした『ヒト』をコントロールしようとするのではなく、起きてしまった『コト』について、『こういう背景があるよね』『だからこうしないといけないよね』とコンテキストへ変換する。すると、建設的な解決策を模索がしやすくなるはずです」
失敗しているときは、相手を責めない
BEFORE 何で間違えたの?
AFTER 解決策を整理しよう
◆年下からアプローチをさせる「プル型」に誘導する
また、物事を提案したいときは、年上からの「プッシュ型」ではなく、年下からアプローチをさせる「プル型」にうまく誘導するのが大事とも。
「どうしても年上の意見はプレッシャーになりがち。押し付けに加えて、自分に配慮がない内容だと、『この人に相談しても意味がない』となってしまう。それこそソフト老害です。困っている相手がいたら、『なにかあったら聞いてね』と上手く誘導する」
相手が困っているときは、聞かれるまで待つ
BEFORE もっとテキパキやってよ
AFTER なにかあったら聞いてね
◆昔話は“失敗マウンティング”で
また、ついつい部下や後輩に過去の自分の経験を元に助言をしたくなってしまうのも、「ソフト老害」的なムーブです。これには2つの対策があると小竹氏。
「どうしても昔話をしたい場合には、正真正銘の失敗談を語る“失敗マウンティング”なら親しみやすさが生まれるかもしれません。僕自身も免許をうっかり失効して、一から教習所に通った話から、過去にSNSで炎上した話まで、さまざまな失敗を経験してきましたが、失敗談を“自己開示”することで、むしろ周囲との距離がたしかに縮まった瞬間がたくさんありました。自ら『隙』を見せると、『好き』になってもらいやすいです」
もしくは過去の経験を「資料化してしまうのもアリ」だと言うが、資料化とは一体どういう意味なのか。
「自分の実績や、過去の担当案件の書類などをまとめておけば、部下や後輩は参考にしたいときに見ることができます。加えて、資料であれば受け取るも受け取らないも自由なので、彼らにとっても負担があまりありません。自ら銛で突きに行くのではなく(プッシュ)、置き網漁のように資料を用意しておいて、食いついてくれたならば(プル)、向こうから昔話を聞いてくれるはずですから」
昔話をしたいときは、失敗でマウンティングする
BEFORE 俺の若い頃はね……
AFTER これは本当に大失敗だったんだけど……
◆理想の上司・先輩像は「フリーザ様」
そして、何より大切なのが、ポジティブなフィードバックを散りばめること。
「実は『ドラゴンボール』のフリーザ様が理想的。たしかに彼は冷酷なキャラクターではありますが、部下に対しても敬語を使ううえに説明が丁寧で論理的。さらに、ドラゴンボールを集めた部下には『すばらしいですよ』『あなたたちを呼びよせたかいがありましたね』と具体的に褒めています」
さらに、小竹氏が『理想の上司・先輩』と考えるキャラクターはフリーザ様だけにはとどまらない。下記参考に、ソフト老害化を防ぐためのロールモデルとして心に止めても良さそうだ。
●フリーザ(『ドラゴンボール』)
……誰に対しても敬語で、具体的に褒めてねぎらう
●リヴァイ兵長(『進撃の巨人』)
……目線を合わせて是々非々(ニュートラルな視点)で判断する
(ただの虚勢では見透かされる可能性もあるので要注意)
●マーヴェリック(映画『トップガン マーヴェリック』)
……自ら汗をかくことをやめない姿勢。口で語るより、背中で語る
●葛城ミサト(『新世紀エヴァンゲリオン』)
……実力があるけど勇気がないだけの人には、挑ませる
「誰かに仕事を振る立場にある人であれば、誰もがソフト老害になり得るという、大変な時代になってきているなと思います。しかしながら、強い言葉も時には必要です。言葉のアクセルとブレーキの両方を使って、時代を前に進めていきましょう」
時代の変化に臆することなく、固定観念に縛られず、働き方と言葉を更新して、同僚からの印象もアップデートさせたいところだ。
【小竹海広氏プロフィール】
おだけみひろ●コピーライター。外資系広告代理店のコピーライターを経て、現在は都内広告会社でクリエイティブディレクターに。著書に『言葉のアップデート術』(クロスメディア・パブリッシング)がある
取材・文/週刊SPA!編集部
―[[老害グレーゾーン]の実態]―