中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
街の書店が姿を消していることが象徴しているように、紙の書籍は販売額の減少が止まりません。その一方で電子書籍は右肩上がりに伸びています。
市場をけん引しているのが電子コミック。サービスを提供する会社の多くが業績絶好調ですが、その裏で苦戦している会社もあります。
◆「紙の出版物」は減少の一途をたどるが…
出版科学研究所によると、2023年の紙の出版物の販売額は1兆612億円。前年比6.0%の減少でした(「出版指標 2023年出版市場」)。ただ、電子書籍は6.7%増加し、5351億円となりました。2018年は2479億円。5年で電子書籍の市場は倍増したことになります。
とはいっても、この数字を電子書籍というフィルターだけで見ると、実態を見誤ります。販売額の9割を占めるのが電子コミックだからです。
紙の市場は4割以上が雑誌で構成されています。これが電子になるとわずか1.5%ほど。その他の書籍も9%にも達していません。
2023年のデジタルにおける、コミック以外の雑誌・書籍の販売額は前年割れしています。デジタルの小説やビジネス書などはコロナ禍の2021年に販売額のピークを迎えましたが、それ以降は緩やかに縮小へと向かいました。
◆唯一伸びているのも「電子コミック」
電子書籍のみならず出版市場全体において唯一伸びているのが電子コミックなのです。2023年の販売額は4830億円。前年比7.8%の増加です。
電子コミックは、Webメディアなどにインパクトのある一コマを広告という形で掲載し、サービスへと誘導するなど巧みなマーケティングで読者を引き込んでいます。
紙時代のマンガは、雑誌連載を人気化させてコミックの販売に繋げるという手法を取っていました。現在はそのビジネスモデルが崩壊して編集者の役割も変化しています。スマートフォンに特化した縦スクロール型の漫画も登場し、消費者の選択の幅は広がりました。
市場を拡大するという視点では、大いに歓迎すべき時代になったと言えるでしょう。
◆「ウェブトゥーン」に強いピッコマは好調
電子コミックの単一プラットフォームとして、2023年に国内で初めて取引額1000億円を突破した会社がカカオピッコマ。ピッコマは韓国のIT企業カカオの日本法人カカオジャパンが2016年に開始したサービスです。電子コミックがヒットしたことにより、商号をカカオピッコマに改めました。
韓国は縦スクロール型「ウェブトゥーン」の先駆者。セリフが少なく軽快に読めることから、短時間でコンテンツを楽しめるTikTokに馴染んだ世代からも支持を集めています。今の時代に合ったピッコマの強みは、数字となって結果に表れているわけです。
◆巣ごもり特需で純利益が3.2倍に拡大したコミックシーモア
国内では「コミックシーモア」を運営するNTTソルマーレが有名。この会社はNTT西日本の子会社で、2002年にデジタルコンテンツの開発を目的として設立されています。
2023年3月期の純利益は前期比26.1%増の42億1700万円。NTTソルマーレは2021年3月期に純利益が前期の3.2倍となる26億1100万円に跳ね上がりました。巣ごもり特需の影響を受けたのです。
それ以降も2期連続で3割近い増益と、驚異的なペースで稼いでいます。
「めちゃコミック」のインフォコムも堅調。この会社は様々なITサービスを提供していますが、売上の7割近くを電子コミックが占めています。2023年3月期の売上高は前期比8.9%増の703億4200万円でした。2024年3月期の売上高は17.2%増の825億円を予想しています。
「めちゃコミック」は2020年から2021年にかけて一時失速しましたが、広告戦略の変更や従量課金コースの導入により、業績を上向かせました。
◆LINEマンガの「一部業務引き上げ」で打撃を受けたのは…
苦戦しているのが電子書籍の流通支援をしているメディアドゥ。電子書籍を提供する会社と出版社を繋ぎ、円滑にコンテンツが流通する仕組みを構築しています。大口顧客の一つがコミックシーモアのNTTソルマーレです。
メディアドゥは2022年2月期に売上高が過去最高の1047億円に達しました。しかし、2023年2月期は2.9%の減収。2024年2月期は1000億円での着地を見込んでいます。
減収の主要因がLINEマンガとの取引が細くなっていること。LINEマンガを運営するLINE Digital Frontierは、2021年に「ebookjapan」のイーブックイニシアティブジャパンにTOBを実施。2022年に完全子会社化しています。
メディアドゥの主要な顧客の一つがLINE Digital Frontierでした。しかし、LINE Digital Frontierが流通業務の一部をメディアドゥからイーブックイニシアティブジャパンに切り替えたことにより、メディアドゥの売上高が大幅に減少してしまったのです。
電子コミックは市場拡大が続いており、再編が起こりやすい土壌が形成されています。メディアドゥはその影響をもろに受けました。
今後は基幹事業を盤石なものに整備しつつ、傘下にある日本文芸社や小説投稿サイトのエブリスタなどからヒット作を生み出し、マルチメディア展開で業績を拡大する計画を立てています。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界
街の書店が姿を消していることが象徴しているように、紙の書籍は販売額の減少が止まりません。その一方で電子書籍は右肩上がりに伸びています。
市場をけん引しているのが電子コミック。サービスを提供する会社の多くが業績絶好調ですが、その裏で苦戦している会社もあります。
◆「紙の出版物」は減少の一途をたどるが…
出版科学研究所によると、2023年の紙の出版物の販売額は1兆612億円。前年比6.0%の減少でした(「出版指標 2023年出版市場」)。ただ、電子書籍は6.7%増加し、5351億円となりました。2018年は2479億円。5年で電子書籍の市場は倍増したことになります。
とはいっても、この数字を電子書籍というフィルターだけで見ると、実態を見誤ります。販売額の9割を占めるのが電子コミックだからです。
紙の市場は4割以上が雑誌で構成されています。これが電子になるとわずか1.5%ほど。その他の書籍も9%にも達していません。
2023年のデジタルにおける、コミック以外の雑誌・書籍の販売額は前年割れしています。デジタルの小説やビジネス書などはコロナ禍の2021年に販売額のピークを迎えましたが、それ以降は緩やかに縮小へと向かいました。
◆唯一伸びているのも「電子コミック」
電子書籍のみならず出版市場全体において唯一伸びているのが電子コミックなのです。2023年の販売額は4830億円。前年比7.8%の増加です。
電子コミックは、Webメディアなどにインパクトのある一コマを広告という形で掲載し、サービスへと誘導するなど巧みなマーケティングで読者を引き込んでいます。
紙時代のマンガは、雑誌連載を人気化させてコミックの販売に繋げるという手法を取っていました。現在はそのビジネスモデルが崩壊して編集者の役割も変化しています。スマートフォンに特化した縦スクロール型の漫画も登場し、消費者の選択の幅は広がりました。
市場を拡大するという視点では、大いに歓迎すべき時代になったと言えるでしょう。
◆「ウェブトゥーン」に強いピッコマは好調
電子コミックの単一プラットフォームとして、2023年に国内で初めて取引額1000億円を突破した会社がカカオピッコマ。ピッコマは韓国のIT企業カカオの日本法人カカオジャパンが2016年に開始したサービスです。電子コミックがヒットしたことにより、商号をカカオピッコマに改めました。
韓国は縦スクロール型「ウェブトゥーン」の先駆者。セリフが少なく軽快に読めることから、短時間でコンテンツを楽しめるTikTokに馴染んだ世代からも支持を集めています。今の時代に合ったピッコマの強みは、数字となって結果に表れているわけです。
◆巣ごもり特需で純利益が3.2倍に拡大したコミックシーモア
国内では「コミックシーモア」を運営するNTTソルマーレが有名。この会社はNTT西日本の子会社で、2002年にデジタルコンテンツの開発を目的として設立されています。
2023年3月期の純利益は前期比26.1%増の42億1700万円。NTTソルマーレは2021年3月期に純利益が前期の3.2倍となる26億1100万円に跳ね上がりました。巣ごもり特需の影響を受けたのです。
それ以降も2期連続で3割近い増益と、驚異的なペースで稼いでいます。
「めちゃコミック」のインフォコムも堅調。この会社は様々なITサービスを提供していますが、売上の7割近くを電子コミックが占めています。2023年3月期の売上高は前期比8.9%増の703億4200万円でした。2024年3月期の売上高は17.2%増の825億円を予想しています。
「めちゃコミック」は2020年から2021年にかけて一時失速しましたが、広告戦略の変更や従量課金コースの導入により、業績を上向かせました。
◆LINEマンガの「一部業務引き上げ」で打撃を受けたのは…
苦戦しているのが電子書籍の流通支援をしているメディアドゥ。電子書籍を提供する会社と出版社を繋ぎ、円滑にコンテンツが流通する仕組みを構築しています。大口顧客の一つがコミックシーモアのNTTソルマーレです。
メディアドゥは2022年2月期に売上高が過去最高の1047億円に達しました。しかし、2023年2月期は2.9%の減収。2024年2月期は1000億円での着地を見込んでいます。
減収の主要因がLINEマンガとの取引が細くなっていること。LINEマンガを運営するLINE Digital Frontierは、2021年に「ebookjapan」のイーブックイニシアティブジャパンにTOBを実施。2022年に完全子会社化しています。
メディアドゥの主要な顧客の一つがLINE Digital Frontierでした。しかし、LINE Digital Frontierが流通業務の一部をメディアドゥからイーブックイニシアティブジャパンに切り替えたことにより、メディアドゥの売上高が大幅に減少してしまったのです。
電子コミックは市場拡大が続いており、再編が起こりやすい土壌が形成されています。メディアドゥはその影響をもろに受けました。
今後は基幹事業を盤石なものに整備しつつ、傘下にある日本文芸社や小説投稿サイトのエブリスタなどからヒット作を生み出し、マルチメディア展開で業績を拡大する計画を立てています。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界