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なぜ「車椅子ユーザー」の炎上が頻繁に起こるのか。日本と海外で“決定的に違う”こと

日刊SPA! 2024年5月15日 8時51分

車椅子ユーザーのSNSによる主張が、度々炎上している。
2024年3月、イオンシネマの映画館で介助を断られた車椅子インフルエンサーがSNS上で、やり場のない想いを吐露したことをきっかけに、炎上へと発展したことは記憶に新しい。

過去にも、車椅子ユーザーが無人駅での車椅子対応を「JRに拒否された」という趣旨のブログを投稿し炎上した例もある。また、格安航空会社ピーチ・アビエーションの台湾行きの便を利用しようとしたところ、電動車椅子のバッテリーが目視できないこと理由に搭乗を断られ、当該女性が「差別的な対応だ」と主張し、物議を醸すなど枚挙に暇がない。

当人からすれば問題提起をしたつもりでも、“非車いすユーザー”が発端となり、炎上してしまうのは日本特有の文化なのだろうか。「プロ車いすランナー」として2000年シドニーパラリンピック800mで銀メダル、 2004年アテネパラリンピック800mで銅メダルを獲得した廣道純氏に話を聞いた。

◆車椅子ユーザーのSNSでの主張は、なぜ炎上しやすいのか?

廣道さん曰く、SNSで声を上げる時には、「ある程度の配慮」が求められるそうだ。

「一括りに介助といっても、先天性か後天性か、あるいは『何が出来て、何が出来ないか?』という残存機能の違いもあるんです。どんな介助を求めたいかは、『実は一人ひとり違う』ということを知るのが前提だと思います。同じ部位を損傷していても、病院ごとのリハビリの違いによっても残存機能に違いは出てきますし、介助する相手がどれだけ知識を持っているかによっても、介助の仕方は変わってきます。そんななかで、全てを察して手助けしてくれというのは、流石に無理があるのではないでしょうか。車椅子ユーザー側も、『何を手伝ってほしいか』を、明確に意思表示することが大切だと思います」

◆「声をあげる側」にも配慮が必要

過去に炎上した車椅子ユーザーの多くは、健常者から「過剰要求だ」と批判を浴びる結果となっている。これにより、車椅子ユーザーと健常者の対立構造を深めてしまったともいえる。そんな無益な炎上を生む問題点について、廣道さんはこう考えを述べた。

「不満に思うなら、まず相手の企業に伝え、話し合いに応じてくれなかった時に初めて、SNSに主張するべきだと思いました。今まで声を上げなければ、車椅子ユーザーに対する社会のシステムやルールが変わらなかった背景もありますが、まずは当事者同士の話し合いがあってこそ。

例えば、お店で注文した料理に髪の毛入ってたという時に、大声で怒る人と、他の人に気づかれないようにこっそり店員さんに伝える人がいたら、前者に周りが不快感を感じてしまうのは仕方がないでしょう。過剰にそのお店を下げる必要も、それを広める必要もない。車椅子ユーザーであるなし関係なく、声をあげる側にもやはり配慮は必要だと思います」

◆日本では「車椅子の人=何も出来ない人」と捉えられる

日本と海外では、車椅子ユーザーの発信の仕方に大きな違いがあるという。

「海外の“車椅子インフルエンサー”は、基本的にポジティブなんですよ。『この段差はこういう風にすれば乗り越えられるよ』とか『車椅子でもこんなことができるようになった!』というような、前向きな発信が多いと感じます。

大会の海外遠征などで、度々海外の人たちと触れ合う機会がありますが、彼らの多くは“できないことは助ける”というスタンスで、健常者だから、障害者だからという垣根は、基本的にありません。日本だと『車椅子の人=何も出来ない人』という扱いで、出来ることでも出来ない扱いをされて、居心地の悪さを感じることもしばしばあります」

健常者でも車椅子の人でも、「困っている人がいたら手を差し伸べる」。そんな当たり前のことが、日本だと仰々しい振る舞いになってしまっていると廣道さんは指摘する。

「日本でも『何か手伝いましょうか?』と声をかけていただくことはいっぱいあります。僕は大体のことは自分でできるので、『ありがとう、大丈夫です!』と言うことの方が多いですが、その声かけをきっかけに『この車椅子でレースにでるんですか?』とかの会話が始まるんですよ。

そういったコミュニケーションを前提にした介助だと、双方ストレスなく、気持ちの良い経験になりますが、マニュアル化されてて、『仕事だからやっている』というスタンスの介助は、やはりこちらのニーズと噛み合っていないことが多い。

たとえば『荷物も一人で持てるし、ここまでは一人でいけるから大丈夫』と伝えているにも関わらず、決まりだからと大声で『車椅子が通りまーす!』と言って、道を開けさせて、乗り継ぎの場所まで着いてこられて何だかなあ……という気持ちになったことも過去にはありました」

◆大きく異なる日本と海外の教育現場

まずは車椅子ユーザーが何を求めているのかを考え、「どこまでの介助が提示できるのか」ということをすり合わせるのが重要なようだ。

「車椅子ユーザーへの理解が深まらない理由としては、やはり生活の中に、車椅子の人と触れ合う機会が圧倒的に少ないことが挙げられると思います。2022年には国連の障害者権利委員会が、日本の特別支援教育の体制について勧告を出しましたが、海外では障害のある子供もない子供も一緒のクラスで授業を受けている国がほとんど。

幼少期から当たり前のように障害を抱える人と触れ合う環境を通じ、互いに無理のない配慮の落とし所を見つける癖も付きますし、自分と違う人を受け入れ理解することで、健常者側も視野が広がると思います。一方で日本の現在の教育だとそういった機会を逸してしまっていますよね」

◆「1台40万〜50万円」の車椅子をオーダーで作る

筆者自身も“車椅子の人=体が不自由な人”という認識を持っていたが、取材を通じ、出来ることに個体差があることや、乗る車椅子にも違いがあることなど、何も知らなかったことに気づいた。

「どうしても車椅子というと、ご年配の方が使ってる車椅子の感覚が根強いみたいですが、一般的に皆さんが想像する車椅子は、病院などでよく見る介護用の車椅子ではないでしょうか。需要としては介護用の車椅子が多いと思いますが、アクティブに使う人は、電動や手動以外の要素、具体的には幅や高さ、車輪、タイヤの色や、クッション、背もたれや足を置くステップの位置など、一人一人の体にあった自走式の車椅子をオーダーで作ることがほとんどです。大体1台40万〜50万円ぐらいですね」

一人一人の体や残存機能に合わせた車椅子だと、ターンも早く、俊敏性があり、1日中乗っても苦にならないという。

◆「自己開示と対話」こそが求められる

車椅子ユーザーについて知る機会を逸してきた今の日本だが、4月1日から事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化された。合理的配慮のラインは、それぞれの企業に委ねられており、「合理的配慮とは何か?」と頭を抱えている企業もいるだろう。

「合理的配慮というと、言葉が難しくイメージしにくいと思います。とはいっても、相手が求めていることだけすればいいし、それが介助する側にとって厳しければ、お互いの事情を理解して、妥協するポイントを見つければ良いだけだと思うんですよね。飛行機に乗る際も、昔はカウンターで車椅子を搭乗前には預けなくてはならなかったわけですが、今は『どこまで自分で行きたいか?』『どのタイミングでゲートに行きたいか?』などの要望をしっかり聞いた上で、こちらのタイミングに合わせてアイルチェア(※座席で利用できる車椅子)を用意してくれるようになりました。

ただ車椅子ユーザー側もその場所に好んでいくのなら、その場所のルールに従わなければなりません。私が契約しているジムでは、こちらのここまでは出来る、出来ないのラインを伝えた上で、僕を抱えて運んだりしてでも来てほしいと言ってくれました。その結果、互いに気持ちよく利用することができています。まずは自己開示と対話が、合理的配慮の第一歩だと思います」

◆海外では気軽に声をかけてくれるが、日本では…

介助する側もされる側も、双方にとってプラスとなる合理的配慮は、夫婦間のやりとりに似ていると廣道さんは言う。

「夫婦間でも、求めてないことをやられても感謝できないけど、やった側はやってあげたのにと腹が立ったりしますよね。でもやって欲しいと言ったことに限って、やってくれてなかったり(笑)。海外だと、挨拶のように『元気? なんか困ってない?』と気軽に声をかけてくれるので、日本でももっと気軽に聞ける雰囲気になるといいですよね。

加えて車椅子ユーザーからしても、事情があって断られた時に、『出来ないことをやれっていうのか?』と感情的にならない努力は必要かなと。海外の例を挙げると、『自分で持ってきた荷物は自分で運んで。これは私の仕事ではない』とはっきり言います。交通機関などでも『乗り降りできるかどうか?』のみ聞かれて、『出来る』と答えるとただ車椅子を持ってきて運んでくれるだけですから」

日本での障害者への配慮は、まるで自分で上着を着れるのに、わざわざ着せてくれるサービスのような手厚いものではならないと思い込んでいる節もあっただろう。

障害があるかないかに関係なく、まずは自分と違う人間だからこそ対話が必要なのだという視点が、合理的配慮に至る必要な一歩といえるのかもしれない。

<取材・文/SALLiA>

【SALLiA】
歌手・音楽家・仏像オタクニスト・ライター。「イデア」でUSEN1位を獲得。初著『生きるのが苦しいなら』(キラジェンヌ株式)は紀伊國屋総合ランキング3位を獲得。日刊ゲンダイ、日刊SPA!などで執筆も行い、自身もタレントとして幅広く活動している

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