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2009年に閉園した遊園地の今。「侵入者を防ぐ高い塀」がもたらした“皮肉な現象”――大反響・総合トップ10

日刊SPA! 2024年5月19日 15時45分

日刊SPA!で反響の大きかった2023年の記事をジャンル別に発表してきたが、今回は総合トップ10。初回とランキング発表時の反響をあわせて集計、惜しくもトップ10を逃した記事を順位不同で紹介!(集計期間は2023年1月~2024年3月。初公開2023年8月22日 記事は取材時の状況) *  *  *

全国に数多くあるテーマパーク。今もなお新しいテーマパークが生まれては人々を楽しませ続けている。しかし、そんなテーマパークには、あまり語られることのない側面が存在する。そんな、「テーマパークのB面」をここでは語っていこう。

東京西部の多摩地区。小高い丘が並ぶ丘陵地に、かつて「多摩テック」という名の遊園地があった。1961年に開園したこの施設は、モータースポーツをテーマとした遊園地、という意味でテーマパークの先がけともいえる施設だった。

◆2009年に閉園した多摩テックの今

ホンダの子会社が運営を行っていて、お家芸ともいえるモーターバイクや自動車をモチーフとしたアトラクションが数多くあったことで知られている。「テック」という名前から想像がつく通り、最先端テクノロジーを総動員させて、来場者を楽しませる場所だった。

しかし、その場所は残念なことに2009年に閉園してしまい、以後、その土地の活用方法をめぐってさまざまな議論が巻き起こった。その詳細には立ち入らないが、廃テーマパークの跡地をどのように処理するのかは、テーマパークの問題を考えるにあたって常に重要なテーマである。

◆侵入者を遮る「高い緑色の塀」

その跡地はどうなっているのか、見に行ったことがある。車を走らせてこの丘陵地に行くと、多摩テックがあったところだけこんもりと山のようになっている。その山に沿うようにして高い緑色の塀がずっと立てられていて、この奥がかつての多摩テックだったのだろう、と想像させる。

往時を偲べそうなところはないか、その塀の周りをずっと回ってみる。塀はかなり厳重に立てられていて、どこからも中は見えないし、塀のそこかしこに「常時警戒中」という張り紙がしてある。

いっとき、廃墟ブームみたいなことが起こったことがあって、特にバブル期に建てられては閉園したテーマパークは、廃墟マニアたちにとって格好の探索場所になった。そんな世相を反映してだろうか、この塀の有り様である。なんとしても侵入者を中には入れない、そんな意志を感じる。

◆茂みの中からタヌキが出現

こうなっていては仕方ない、と諦めて帰ろうとしたそのとき。塀を囲んでいる茂みの中から、ひょっこりとタヌキが出てきて、こちらの様子を見つめるや否やすぐにまた茂みに戻っていったのである。タヌキなんて、東京でなかなか見ることはない。

そういえば、この高い塀に気を取られてあまり見ていなかったが、この多摩テックを囲む塀はそのほとんどが緑に囲まれていて、東京ではあまり聞かないような鳥の鳴き声が聞こえたり、虫が見られたりと、非常に自然が豊かである。

それもそのはずで、元々この辺りの多摩丘陵は武蔵野の自然が豊かな地域であった。高畑勲の映画に『平成たぬき合戦ぽんぽこ』という作品がある。多摩ニュータウンと思しき地区の開発によって住みかを奪われそうになったたぬきが人間に姿を変え、開発を進めようとする人間と対決をする、というのが大まかなストーリーだ。

舞台となった多摩ニュータウンは、この多摩テックの跡地に近い。やはりこの辺りは元々自然が豊かで、たぬきがいたのである。

◆絶滅危惧種も発見されていた

実際、多摩テックの跡地において、たぬきを見たことがあるのは私だけではないらしい。多摩テック閉園後、緑が生い茂ったこの場所で、たぬきの目撃情報が相次いでいるのだ。それだけではない。

この跡地には、絶滅危惧種に指定されているキンラン(ランの一種)や、オオタカの営巣地が発見されているともいう。こうした報告を受けて、東京都自然環境保全審議会では、多摩テック跡地の利用計画も含めて、この自然環境の保全について協議されたことがある。

議事録によれば、この地区にはキンランやササバギンラン、またオオタカだけでなくホオジロや、ホタルなどについても触れられていて、周辺環境と合わせて、相当豊かな自然が多摩テック周辺に広がっていることが推察できる。

◆侵入規制により自然が回帰する“皮肉”

多摩テックの跡地への侵入がきわめて厳重になっていることは、すでに触れた通りだ。テーマパークマニアにとって、それは残念なことかもしれない(もちろん、廃テーマパークへの侵入は不法であるけれど)。

しかし、一面においてその場所への立ち入りが禁止されているということは、その場所の自然が結果的に保全されるということであり、現実に多摩テックでは、侵入規制が激しくなったことによって、その場所に絶滅危惧種の植物が生えたり、かつてこの場所を追われたタヌキたちが戻ってきていたりする。テーマパークへの侵入規制が、逆に自然保護につながるということがそこでは発生しているのである。

このような現象は、多摩テックだけではなく、日本全国の廃テーマパーク跡地で発生していることなのではないだろうか。

テーマパークといえば、私たちは人工的に作られ、自然が排除された場所だ、というイメージを持つかもしれない。しかし、ひとたびそのテーマパークが閉園し、そこに誰もいなくなり、なおかつそこへの侵入規制が厳しくなると、そこには、テーマパークが排除しようとした「自然」が思わぬ形で回帰してくるのである。

なんとも皮肉な現象だともいえるが、このような「自然」の回帰もまた、テーマパークの語られなかった「B面」であろう。多摩テック跡地にひょっこりと顔を出すタヌキたちは、そんな、日本のテーマパークの裏側を私たちに教えてくれているのかもしれない。

<TEXT/谷頭和希>

【谷頭和希】
ライター・作家。チェーンストアやテーマパークをテーマにした原稿を数多く執筆。一見平板に見える現代の都市空間について、独自の切り口で語る。「東洋経済オンライン」などで執筆中、文芸誌などにも多く寄稿をおこなう。著書に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』(集英社)『ブックオフから考える』(青弓社)

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