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山﨑賢人は“トム・クルーズ以上の俳優”ではないか。「スターでい続けられる理由」を考察

日刊SPA! 2024年6月3日 8時51分

今年9月7日に山﨑賢人が30歳になる。あの賢人君がアラサーだなんて、ほんと早いなぁ。デビュー以来、未だその勢いが一度たりとも弛緩したことがない俳優人生って、近年ではちょっと他に例が思いつかない。
激しいアクション場面で目を引くシリーズ作品をいくつも掛け持つことこと自体、尋常じゃない。その上で素朴な疑問。彼はなぜスターでい続けられるのか?

イケメン研究をライフワークとする“イケメン・サーチャー”こと、加賀谷健が、実写化俳優としての足跡を追いながら、日本を代表するスター俳優・山﨑賢人の現在を読み解く。

◆洗練された神対応

映画や音楽についてコラムを書いたり、ときにはプロダクション自体に関わっていると、たまにいいことがある。2024年早々、とある現場にて早くも幸運が舞い込む……。2010年、16歳のデビュー当時からずっとリアルタイムで見てきた山﨑賢人と新年の挨拶を交わすことができたのだ。

憧れのその人は、イケメン研究を続けるぼくにとっては、唯一、ジャーナリズムの対象としてきた俳優だ。そんな彼を前にするタイミングが、こうもピタッとさりげなくやってくるものなのか。ほんとそっけないくらい。

積年の思いを伝えることもできたはず。なのに不思議と冷静な自分がいる。「明けましておめでとうございます」なんて口にしてる。1分くらいだったかな。他に何を話したかは覚えていない。あの黒目勝ちな瞳をきらきらさせて軽妙に相手をしてくれる。洗練された神対応である。

◆なぜスター俳優でい続けられるのか

間違いなく日本を代表するスター俳優だ。飾る素振りひとつ見せない。いい人感がにじみ出てる。だから売れるのだろうし、主演作品で座長を張り続けても周りがついてくるんだろう。神対応から感じたのは、そんな稀有な素質だ。ぼくは改めて、このスター俳優がなぜ、これまで(とこの先も)スターでい続けることができるのか、その理由を再考する必要があるように思った。

まず、ごく一般的な認識だが、彼のスター人生は、そのまま実写化俳優として足場を固めた初期に裏打ちされていること。映画デビュー作『管制塔』(2011年)ですでに主演を果たしていたとはいえ、続く松坂桃李主演の『今日、恋をはじめます』(2012年)では助演級だった山﨑が、2014年、剛力彩芽との『L・DK』で少女漫画を原作とする所謂“きらきら映画”俳優としての真価を問われることになる。

2016年公開の『オオカミ少女と黒王子』は、そんなきらきら映画の金字塔的なモニュメントだ。当時からぼくはそのことをずっと主張してきたが、忘れもしない、同作を年間ベスト作品だと胸を張ったら、周囲の映画人から総スカンだった、あの悔しさを……(以来、山﨑を通じてイケメンという存在について本気で考えるようになった)。

◆引きの画面で引き出される山﨑賢人の色っぽさ

同作で廣木隆一監督は、それまでのきらきら映画にはあまり見られなかった演出を試みている。冒頭、二階堂ふみ扮する篠原エリカが彼氏をでっち上げなければならず、渋谷の雑踏で見かけた佐田恭也(山﨑賢人)をパシャリと撮影するまでの長回し。気持ちが高まって告白したエリカを恭也が軽くあしらう場面でのロングショット。あるいはクライマックスで神戸の街を疾走する山﨑などなど。

一連の場面はすべて引きの画面。好きな俳優の顔を出来るだけ大写し(アップ)で見たいと所望するのが素直なファンの気持ちだろうけれど、廣木監督はあえて引きのポジションにカメラを置く。それによって山﨑の全身から色っぽさを引き出した。恭也が熱を出してソファで寝込む場面など、逆にアップのときは、さりげない間接照明で柔らかな官能を漂わせる(さすが『性虐!女を暴く』(1982年)をデビュー作とする廣木監督だ……)。山﨑だけでなく、ほんの端役出演だった横浜流星がカフェから飛び出してくる引きの画面だって見逃しちゃいけない。あのワンショットがあったから、今の横浜の活躍があるといっても過言ではない。

興行面から見ても、初週2億3千万円の好成績。最終的に12億円以上。前年の『ヒロイン失格』は24億円を突破していた。実写化ラッシュに湧く2010年代、最大潮流だったきらきら映画の申し子として輝く山﨑は、日本映画界を疾走し続けた。それが2017年の『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』あたりを機に、徐々に実写化作品から軸足を移すことになるのだが、それでも尚彼がスター俳優であり続けるのはなぜなのか?

◆山﨑賢人は、“日本のトム・クルーズ”!?

4月15日に放送された『日曜日の初耳学』(TBS系)では、MCの林修による興味深いインタビュー映像が公開された。数々の実写化作品で難しいアクションを猛特訓の末に物にした山﨑に対して、林が「日本のトム・クルーズ」ではないかと問いかけたのだ。

なるほど、トム・クルーズか。冗談半分とはいえ、『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996年〜)など、60代になった現在でもスタントなしのアクションをこなすトムを引き合いに出した林の問いかけをもうすこし深堀りしてみる必要がある。誰もが知る世界的スター俳優であるトム・クルーズは、並外れてセルフ・プロデュース能力の高い人だ。1986年公開の主演作『トップガン』ですでにプロデューサー的に振る舞い、フレーム内の自分がいかに最適に収まるかを知り尽くしている。両腕を極端に振り上げる特有の走り方など、あらゆる画面上が計算づくの演技。山﨑も俳優のタイプとしては同様の素質だと思う。

『オオカミ少女と黒王子』での神戸の疾走はもちろん、表情が際立つバストショット、手元アップの細部まで、画面サイズに合わせてその都度、神経を張り巡らせ、感覚を研ぎ澄ませる。完璧にフレームに収まる人である山﨑は、トム・クルーズ的なスター俳優の系譜だといえるし、もしかするとこの先、トムのようにプロデューサー(製作)として主演作でクレジットされることがあるかもしれない。

◆実写化俳優が完全カムバック

2028年まで出演作品がうまっている山﨑が、なかなか民放のテレビドラマ作品に出演できないという問題もある。2018年放送の『グッド・ドクター』以来4年ぶりの主演ドラマとなった『アトムの童』(2022年)以降、まだテレビドラマ主演作の製作発表はない。映画俳優として映画を優先するのは当然だし、是非そうしてほしいとも思うが、でも欲を言えば、やっぱり映画と並行してほしい。

『好きな人がいること』(フジテレビ系、2016年)以来、きらっきらの「夏だ!海だ!」ドラマの傑作が生まれていないんだもの。『オオカミ少女と黒王子』で全力開放したリアリズム志向の持ち味を生かし、湘南の陽光と潮風を全身に浴びた同作の山﨑に対してぼくは、イタリア映画界の巨匠マルコ・ベロッキオ作品を引き合いに出したほどだ。映画界が手放すわけない。事実、次なる実写化時代を告げる『キングダム』シリーズが用意されることで、第1作公開(2019年)から怒涛のシリーズ化によって2020年代に突入した。

実写化不可能といわれた原作だからこそ、実写化俳優の完全カムバックを物語る。これまたシリーズ作品『ゴールデンカムイ』(2024年)第1作では、不死身の戦士役で湯船からざぶっとあがり、雄々しい肉体を露わにする。2010年代に実写化王子と呼ばれた山﨑ではなく、2020年代仕様にアップデートされた実写化俳優の堂々とした姿があった。というか、ここまで複数のシリーズ作を掛け持つ状態で完全燃焼しても燃え尽きず、次の作品に挑めるバイタリティは尋常じゃない。もはやトム・クルーズ以上では?

◆決め台詞「そう、あなた方と違ってね」を噛み締める

『ゴールデンカムイ』の湯船シーンが象徴するように、山﨑は10キロの増量で撮影にのぞんだ。その一方、翻って公開中の『陰陽師0』では、逆にかなり線の細い立ち姿が印象的だ。狐の子といわれた安倍晴明を演じるからにはどこか人間離れしていなきゃならない。青年期の晴明の身のこなしは軽く、陰陽寮から逃走する場面では、着物の袖とのけ反るアクロバティックな動きでさすがのアクション・シーンだ。

夢枕獏原作によるこのシリーズだと正直、『陰陽師』(2001年)の野村萬斎の美しさには敵わないかと思った。その野村や放送中のNHK大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)のユースケ・サンタマリアなど、目が細めの俳優たちによって安倍晴明俳優像はイメージされてきたのだが、山﨑が演じる青年期となるとなるほど、キツネ目の系譜を換骨奪胎。ポンポコポン、頭に葉っぱ1枚のせたたぬき顔変化(?)みたいな雰囲気で新たな安倍晴明像が浮かび上がる。

『陰陽師0』がこれまでの作品と決定的に違うのは、鬼の存在が信じられていた平安時代にあって、鬼の存在など陰陽寮が吹聴する嘘だと喝破する若き晴明の解釈にも起因する。晴明からすれば、ただ事実がそこにあるのに、暗示にかかった人々が勝手な主観を真実だと説いているだけだと。全ては偽物。そんな世相を読み解く透徹した眼差しは、『オオカミ少女と黒王子』の佐田恭也さながらの批評眼だ。クールな性格まで瓜二つ。

思えば、『L・DK』、『ヒロイン失格』などを通じて山﨑が繰り返し演じてきたのは、“過去に何かを背負った人物”だった。『陰陽師0』の安倍晴明もその意味で山﨑的キャラクターの代表格に位置付けるべきだろう。ただひとり、本物の存在である晴明の気迫に満ちた決め台詞「そう、あなた方と違ってね」は、30歳を目前にしたスター俳優の総決算として響いた。この台詞を噛み締めれば、単なるラブコメ映画のひとつに過ぎないという評価にとどまった『オオカミ少女と黒王子』が、ほんとうは事実、時代を代表すべき「あなた方と違ってね」作品だったことに気づくはずだ。

<TEXT/加賀谷健>

【加賀谷健】
コラムニスト・音楽企画プロデューサー。クラシック音楽を専門とするプロダクションでR&B部門を立ち上げ、企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆。最近では解説番組出演の他、ドラマの脚本を書いている。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu

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