銀行の不祥事は、ほぼ内部告発から発覚する。銀行は店舗数を大幅に削減しているため、ポストは次々と減っている。また、小さい取引先を次々と取引停止にしているため、出向先も限られてきた。
ただでさえ椅子取りゲームが激化する中で、かつて新卒大量採用だった頃の銀行員たちは、熾烈な争いを繰り広げている。他人を蹴落としてまで出世したいと考える人が少なくないことから、銀行では小さなミスが命取りになるのだ。
筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、法人営業に従事してきた。行内で起きた不祥事は、必ず月一度の“コンプライアンス研修”で共有されることもあり、様々な不祥事を見てきた。
今回はその中から、実際に起きた内部告発をご紹介する。
◆①保育園までのバス代を不正に申請したパパ行員
銀行員のAさんは、二児の父でもある。家に近い保育園は人気で入れなかったため、家から少し遠いところに入園した。
「子育て世帯を応援している銀行では、保育園までの電車代やバス代が出ます。小学生のお子さんがいる親には、学童のお金も出ます。そのため、民間の高いアフタースクールに行かせたり、少し遠い園に通わせている親もいますね」
Aさんも、自宅から保育園まで、バスの定期券代を受け取っていた。定期券は半年のものを買わされるため、半年に一度、申請し直す必要がある。
「Aさんは同じ内容で上司に申請しました。でも、そこで異変に気づかれました」
◆廃線になったはずのバスで、上司にバレる
「上司は、たまたまAさんの保育園の近くに住んでいたんです。だから、申請されたバスが廃線になったことを知っていました」
Aさんに事情を聞くと、実は自転車で通っていたことを打ち明けたらしい。
「子どもが小さいうちは、本当にバスを使っていたみたいです。でも、大きくなると、自転車に乗れますからね。定期券を払い戻して、自転車に切り替えたようです」
Aさんは上司にバレるまで、定期券のお金を申請し続けるつもりだったとのこと。これには厳重に処罰が下されて、Aさんは出世レースから外されてしまった。
◆②架空の訪問で電車代を請求していた営業社員
他にも交通費の話はある。先ほどのバス代のように金額が小さいため、「これくらいならいいだろう」と思ってしまうのだろう。
「最も多いのが、取引先まで歩いて行ったのに、電車代を請求すること。これも先程のケースと似ていて、発覚しにくいんです。本当に歩いて行ったか、調べようがないですから」
確かに本来はダメだが、よく聞く話ではある。しかし、もっとひどい例もあった。
◆行ったことにして、記録をねつ造
Bさんは、自身の担当する会社へ訪問した際は毎回、電車代を請求していた。その取引先には頻繁に行っているようで、行内のシステムにも訪問の記録が残っていた。
「しかし、その先へ課長が挨拶に行ってみると『最近、Bさんが来ない』と言ったのです」
早速、店に戻り、Bさんに事実確認をした。すると、記録では何度も電車を使って訪問したことになっているが、実際には訪問していなかったらしい。
「Bさんは出世レースから外れるどころか、銀行本体に残れるかどうかも怪しいです。おそらく事務センターか、関連会社に出向になるでしょうね」
◆③「独身と偽って友人を騙している」と通報された男性行員
他にも、思わぬところで内部告発を受けることがある。
「順調に出世をしていたCさんは、ある女性と不倫関係にありました。Cさんは既婚者なのですが、相手には独身と偽っていたようなのです」
これは銀行に通報があって発覚したのだが、通報相手は“不倫相手の友人”だったらしい。
「不倫相手も友人も、銀行の人間ではありませんでした。だから、Cさんに人事処分が降りることはありません。不倫は法的にはNGですが、行員同士でなければ、会社としてはそれほど問題視されません」
しかし、人事部にはちゃんと連絡がいっているとのこと。今後の出世には、少なからず影響があるようだ。
◆金額が小さくても、必ずしっぺ返しを食らう
筆者も銀行員時代に、配属したばかりの店で、自宅からの定期券について「JRよりメトロで申請した方がよく使う駅を通るから、メトロにしようかな」と雑談をしていたことがあった。
それをどうやら支店長に聞かれていたようで、報告を受けた課長からすぐに呼び出しをくらった。課長から机をバンバン叩かれながら「定期の私的利用をするな!」と、オフィス中に響く声で、怒鳴られることになってしまった。
誰でも「ちょっとだけならいいかな」と、魔が差すことはあるだろう。
「会社のボールペンを拝借して、家でも使っている」「お釣りを多くもらったけど、黙っておいた」といったお金のズルから、「マッチングアプリで年収を盛って話した」「デート相手には社長令嬢だと伝えたが、本当は副社長令嬢」など、モテるためのウソなど、種類は様々だ。
しかし、これらは必ずどこかで返ってくる。先ほどのボールペンの例では、本数を毎日数えていた会社だったため、引き出しを開けた履歴から、持ち帰った人物が特定されてしまったらしい。金額の大小にかかわらず、誘惑に負けてはならないのだ。
<文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother
ただでさえ椅子取りゲームが激化する中で、かつて新卒大量採用だった頃の銀行員たちは、熾烈な争いを繰り広げている。他人を蹴落としてまで出世したいと考える人が少なくないことから、銀行では小さなミスが命取りになるのだ。
筆者(綾部まと)は新卒でメガバンクに入行し、法人営業に従事してきた。行内で起きた不祥事は、必ず月一度の“コンプライアンス研修”で共有されることもあり、様々な不祥事を見てきた。
今回はその中から、実際に起きた内部告発をご紹介する。
◆①保育園までのバス代を不正に申請したパパ行員
銀行員のAさんは、二児の父でもある。家に近い保育園は人気で入れなかったため、家から少し遠いところに入園した。
「子育て世帯を応援している銀行では、保育園までの電車代やバス代が出ます。小学生のお子さんがいる親には、学童のお金も出ます。そのため、民間の高いアフタースクールに行かせたり、少し遠い園に通わせている親もいますね」
Aさんも、自宅から保育園まで、バスの定期券代を受け取っていた。定期券は半年のものを買わされるため、半年に一度、申請し直す必要がある。
「Aさんは同じ内容で上司に申請しました。でも、そこで異変に気づかれました」
◆廃線になったはずのバスで、上司にバレる
「上司は、たまたまAさんの保育園の近くに住んでいたんです。だから、申請されたバスが廃線になったことを知っていました」
Aさんに事情を聞くと、実は自転車で通っていたことを打ち明けたらしい。
「子どもが小さいうちは、本当にバスを使っていたみたいです。でも、大きくなると、自転車に乗れますからね。定期券を払い戻して、自転車に切り替えたようです」
Aさんは上司にバレるまで、定期券のお金を申請し続けるつもりだったとのこと。これには厳重に処罰が下されて、Aさんは出世レースから外されてしまった。
◆②架空の訪問で電車代を請求していた営業社員
他にも交通費の話はある。先ほどのバス代のように金額が小さいため、「これくらいならいいだろう」と思ってしまうのだろう。
「最も多いのが、取引先まで歩いて行ったのに、電車代を請求すること。これも先程のケースと似ていて、発覚しにくいんです。本当に歩いて行ったか、調べようがないですから」
確かに本来はダメだが、よく聞く話ではある。しかし、もっとひどい例もあった。
◆行ったことにして、記録をねつ造
Bさんは、自身の担当する会社へ訪問した際は毎回、電車代を請求していた。その取引先には頻繁に行っているようで、行内のシステムにも訪問の記録が残っていた。
「しかし、その先へ課長が挨拶に行ってみると『最近、Bさんが来ない』と言ったのです」
早速、店に戻り、Bさんに事実確認をした。すると、記録では何度も電車を使って訪問したことになっているが、実際には訪問していなかったらしい。
「Bさんは出世レースから外れるどころか、銀行本体に残れるかどうかも怪しいです。おそらく事務センターか、関連会社に出向になるでしょうね」
◆③「独身と偽って友人を騙している」と通報された男性行員
他にも、思わぬところで内部告発を受けることがある。
「順調に出世をしていたCさんは、ある女性と不倫関係にありました。Cさんは既婚者なのですが、相手には独身と偽っていたようなのです」
これは銀行に通報があって発覚したのだが、通報相手は“不倫相手の友人”だったらしい。
「不倫相手も友人も、銀行の人間ではありませんでした。だから、Cさんに人事処分が降りることはありません。不倫は法的にはNGですが、行員同士でなければ、会社としてはそれほど問題視されません」
しかし、人事部にはちゃんと連絡がいっているとのこと。今後の出世には、少なからず影響があるようだ。
◆金額が小さくても、必ずしっぺ返しを食らう
筆者も銀行員時代に、配属したばかりの店で、自宅からの定期券について「JRよりメトロで申請した方がよく使う駅を通るから、メトロにしようかな」と雑談をしていたことがあった。
それをどうやら支店長に聞かれていたようで、報告を受けた課長からすぐに呼び出しをくらった。課長から机をバンバン叩かれながら「定期の私的利用をするな!」と、オフィス中に響く声で、怒鳴られることになってしまった。
誰でも「ちょっとだけならいいかな」と、魔が差すことはあるだろう。
「会社のボールペンを拝借して、家でも使っている」「お釣りを多くもらったけど、黙っておいた」といったお金のズルから、「マッチングアプリで年収を盛って話した」「デート相手には社長令嬢だと伝えたが、本当は副社長令嬢」など、モテるためのウソなど、種類は様々だ。
しかし、これらは必ずどこかで返ってくる。先ほどのボールペンの例では、本数を毎日数えていた会社だったため、引き出しを開けた履歴から、持ち帰った人物が特定されてしまったらしい。金額の大小にかかわらず、誘惑に負けてはならないのだ。
<文/綾部まと>
【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother