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Amazonがヤマトの“契約切り”を好機と捉える理由「人手が足りない業界」で独自流通網を構築中

日刊SPA! 2024年6月6日 8時53分

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 物流業界が2024年問題を機に大変革を起しています。最大手の日本郵便は業界4位のセイノーホールディングスと共同の長距離輸送を行うことで合意。ヤマトホールディングスは日本郵便に一部の業務を委託し、大量の個人事業主との契約を解除しました。

 粛々と個人事業主との契約を進めているのがアマゾンジャパン。独自の巨大物流網を構築しつつあります。

◆ヨーロッパに比べ「積載効率が悪い」日本の特殊事情

 物流業界の2024年問題とは、簡単にいうとトラックドライバーの労働時間が短くなること。4月1日から時間外労働の上限が年960時間に制限されました。

これは「働き方改革」という名で2019年4月1日、すでに大企業へと導入されました。しかし、物流や建設、医療などの一部の業界では、長時間労働の常態化や人手不足があまりに深刻だったため、猶予期間が設けられていました。それが終わりを迎えたのです。

 国の「持続可能な物流の実現に向けた検討会」によると、時間外労働の上限規制によって不足する輸送能力は、2024年に14.2%、2030年に34.1%に達する可能性があると試算しています。

 これは輸送の仕組みを現状のまま何も対策を行わなかった場合のもの。日本は地形が複雑で離島などの輸送が困難な地域を抱えているだけでなく、中小零細企業を含む様々な会社が独自の物流網を構築しているという特徴があります。経済産業省によると、日本のトラック積載効率は39%。ヨーロッパが57%です(「物流市場における競争環境や労働環境等に関する調査」)。日本の物流は複雑で効率が悪いのです。

 日本郵便とセイノーの提携はこのような背景から行われました。長距離輸送の効率を高める取り組みです。

◆日本郵便は物流インフラを最大限活かすも…

 日本郵便とセイノーは隣接する拠点を活用して荷物の積み合わせを行い、相互に荷物を融通させます。特に積載率の下がる土日の荷物が集約されることで、効率化に繋がると見られています。

 トライアルを行った結果、既存の届日数を変更することなく、トラックの台数削減に成功するなど、一定の成果が出たとしています。

 日本郵政グループは、2023年6月にヤマトホールディングスと協業することで基本合意していました。ヤマトの「ネコポス」を順次終了し、日本郵便に業務を委託するというもの。新たに誕生した「クロネコゆうパケット」は、ヤマトが顧客から預かった荷物を引き受け場所に差し出し、そこからの配送は日本郵便が担います。

 日本郵便は、全国の郵便局を簡単には縮小できないという最大の弱点を抱えています。かつて増田寬也社長が郵便局の統廃合に言及し、大論争を引き起こしました。地域住民の物流・金融インフラなどとして機能する郵便局の縮小は、上場前から地方議員や自治体などから反対、懸念されていたことでした。

 そのため、日本郵便は構築したネットワークを最大限活用する方向に進まなければなりません。

 ヤマトとの協業により、2024年3月期のゆうパックの取扱数量は前期比3.0%増の10億個となりました。取扱数量は減少が続いていましたが、通販特需に見舞われた2021年3月期の水準を取り戻したのです。

 日本郵便はセイノーと協業することにより、ラストワンマイルと呼ばれるきめ細やかな物流網を活かしつつ、長距離輸送の効率を高めることに期待ができるのです。配送ネットワークをフル活用しつつ、効率化を図る――日本郵便は他社と比較して難しいかじ取りを迫られています。

◆「大手荷主中心の体制」から転換を図りたいセイノー

 一方、セイノーは2024年3月期の営業利益が前期の3割減少していました。不特定多数の顧客の貨物を1台の車両で輸送する「特積み」の物量が減少。売上が伸び悩んで減益となったのです。

 こうした状況下で、業界トップの日本郵便と手を組むメリットは大きいでしょう。

 セイノーは大手荷主中心の体制から、中堅荷主までターゲットを広げようとしています。取扱量が増え、輸送の効率化が進むことにも期待ができます。

◆2万5000人の個人事業主との契約解除効果は150億円?

 ビジネスモデルの大転換を図ろうとしているのがヤマト。成長領域に法人ビジネスの拡大を掲げています。

 ヤマトは2024年1月末に、配達を委託していた個人事業主約2万5000人との契約を打ち切りました。日本郵便に一部配送を移管したことに伴うもの。ヤマトは2024年3月期に集配委託費として969億円もの費用を計上しています。

 仮に業務委託料が1人当たり月5万円だったとして、12か月フル稼働していたとすると、2万5000人で150億円ほどが削減される計算です。

 ヤマトの営業利益率は3%程度で、佐川急便のSGホールディングス6~7%と比較すると見劣りがします。小型の荷物からの脱却を図り、利益率向上に努めているのです。

 なお、ヤマトも2024年5月に新会社を設立し、他の物流会社と共同で荷物の積み合わせを行うと発表しています。内包していた経営課題に2024年問題が加わって、配送効率を高める取り組みに余念がありません。

◆「軽自動車を持つ人」が配送事業者として独立できる時代に

 個人事業主との関係を強化しているのが、アマゾンジャパン。実は2024年問題を見越して、国は輸送事業に関する規制緩和を行っていました。これまでは配送に特化した軽貨物車(軽バン)が必要でしたが、軽乗用車での輸送が可能となったのです。アマゾンは2023年10月に事業用ナンバープレートを取得した軽乗用車による商品配送を始めたと発表しました。それが「アマゾンフレックス」です。

 公式ホームページによると、1時間の最大報酬額は軽貨物車で1886円、軽乗用車で1650円。積載量による差が生じているものの、大差はありません。軽バンは中古市場でも値段が下がりづらく、少なくとも60万円程度の投資が必要です。初期投資がなく、自家用車の黒ナンバー化で迅速に事業を始められることを考えれば、割のいい仕事だと言えるでしょう。

 フードデリバリーは、都市部では変わらず人気を博しているものの郊外は下火。既存の配達員はポートフォリオの一つにアマゾンフレックスを取り入れることもできます。

◆独自の物流ネットワークを構築、活用するアマゾン

 また、アマゾンはドロップシッピングという仕組みを構築しています。これは、販売事業者が商品の仕入、在庫保管、配送などを行うことなく、顧客に商品を届けられるというもの。アマゾンがメーカーや卸売業者から商品を仕入れて配送するのです。

 この仕組みは、要するにアマゾンの配送ドライバーがメーカーなどから商品を集荷して顧客に届けているだけであり、他社に物流網を提供していることになります。アマゾンはすでに物流ネットワークを活用する方向へと駒を進めているのです。

 アマゾンにとって、ヤマトの個人事業主の一斉契約解除は物流網を強くするチャンスに映ったかもしれません。

 個人事業主は時間外労働の上限規制には影響を受けません。需給調整もしやすく、企業にとってはメリットの大きい存在なのです。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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