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元吉本芸人が“新卒採用650人企業”の社長に。「今こそ飲みニケーションが大事」と語る理由とは

日刊SPA! 2024年6月7日 8時51分

人材不足が加速する昨今、有能な若手社員の囲い込みは緊要な課題だが、“若害”をもたらす若手に涙する企業は少なくない。その一方で、若者から熱視線を集める企業もある。
「関西では人気ベンチャーの一角に入ってると思いますね」

とその自信を覗かせたのは、元よしもと所属の芸人という異色の経歴を持ち、現在は大阪に本社を構え化粧品や人材など11事業を展開する「FIDIA」の代表取締役CEOを務めている森武司氏だ。

同社には毎年2万人近くの新卒者が殺到し、’23年は500人、今年は650人を採用と、若手からの人気ぶりは凄まじい。一体、その秘訣はどこにあるのか、話を聞いた。

◆飲みニケーションは一周回って新しい

貯金ゼロ、高卒、4年間のニート生活と、いわゆる「社会的弱者」から“仲間力=仲間をつくる力”を武器に、年商146億円企業にまで育て上げ、創業以来18年連続増収増益を達成した森氏。

“若益”が集まる理由の一つに「飲み会がめっちゃ大事です!」と前時代的な飲みニケーションを挙げた。昨年12月に上梓した著書『スタートアップ芸人』でも、飲み会についての項目を設けるほど、企業運営において重要視するその真意とは?

「某飲料メーカーのWebCM『飲みに誘うのムズすぎ問題』が若手社員との接し方に悩む年上社員たちに突き刺さって話題になっていますが、コロナ禍で人付き合いが疎遠になったからこそ、一周回ってむしろ新しい。

だから当社では、若手社員との結束を強固にするために顔を突き合わせる機会を大事にしているし、役員の全業務のなかで役員会の後の飲み会がもっとも重要な位置づけになっています。

当然、会社主催の集まりだからといって無理強いは絶対にダメ。6~7割くらい参加してくれた御の字って気楽なノリくらいがちょうどいい。ただ、少数派の顔色を伺って機会そのものをなくしたり、その他大勢を犠牲にしたりすると、いい企業風土は育たないんちゃうかな」

◆一番大事な社訓は“悪口を言わない”

人が集まると、口をついて出がちな上司や会社の不満だが、森氏は“悪口を言わない”を社訓にするほど重んじる。

「小学生かよと突っ込まれそうですが、少数の悪意が全体の総意になるのがネット社会の怖いところ。

いつの間にかできていた若手グループの数人が、ガス抜きと称して特定の人物をグループLINE上で罵るなど、実際に当社もつぶれかけた苦い経験がある。

逆に、陰口を叩かない。これを守るだけで、人間的な“信頼”と“誠実”を積立貯金でき、人間関係はほぼうまくいきます」

また、若手社員に好かれようと、すり寄るのもいただけないと、森氏は強く注意を促す。

「昇給・昇進、有給取得、人間関係などに対して『どう、不満ない?』と、無理に引き出そうとすると、たとえそう思っていなかったことも本当の不満に脳内変換されてしまいがち。

代替案や解決案がないなら、不満が放置されて増幅されていくだけだし、何より社員のやる気が削がれるので、ホンマに害でしかない」

◆若手採用でもっとも大切にしていること

毎年2万人近くの若手が求人に集まるといっても、全員が同社と相性がいいわけではない。企業にだって、若害をもたらす人材を採用しない目利きが求められる。その秘密を森氏はこっそりと明かしてくれた。

「若手採用でもっとも大切にしているのは、“やり抜く力”ですね。

20年近く色々な会社を経営してきて最近特に感じるのは、デザインを勉強したいと言っていた翌日にはマーケティングに挑戦したいと言っていたり、今どきの若手は興味関心が散漫というか、移ろいやすい。これは好奇心が過ぎるのか、時代性なのかわかりません。

ですが、事業はすぐに芽が出るものでないし、任せる以上は最後までやり切ってもらいたいので、飽きっぽい性格だとお願いしづらい。

1つのことを長く続けることは、愚直さや誠実さに繋がり、それが担保になるから何かを任せられる。例えば柔道6段とか、ピアノ歴15年とか、『やり抜く力』の素地があるかどうかは必ずチェックしています」

◆大学の偏差値よりも高校の偏差値を見る

学歴もまた、やり抜く力の指標の一つとなる。だが、隠れ若益人材は意外と“出身高校”から発見することができるという。

「難関大学への進学実績が高い高校へ入学後に勉強への関心が薄れた結果、いわゆる難関大学に進学しなかったり、バンド活動、役者・お笑い芸人、フリーターといった道を歩む人もいます。

実際、当社で2500人の全社員のなかでMVPを受賞した社員の最終学歴は、京大卒や阪大卒でなく高卒。どんな高校を卒業したかは、卒業大学より目を光らせていますね。あと、当社のHPでもっともアクセス数が多いのが役員紹介ページ。ここの作り込みにも力を入れています」

◆地図とコンパスがなければ、誰でも迷うもの

 他にも、「面接は、会社PRの場であり、若手を口説く場」や「会社として欲しくないことは都度しっかり説明する」など、優秀な人材を集めるための仕掛けが随所に張り巡らされている。

「何の説明もなしに、とりあえず南に歩いてと言われたら、誰だって何のために歩いてんねんってなる。これに似たことが、多くの企業の教育現場で起きてしまっている。

自分でキャリアをデザインする重要性が増しているからこそ、若手の将来像やキャリアパスにしっかり耳を傾ける。

その上で、他の会社でも通用するように、ちゃんと精緻な地図と正確なコンパスを与えつつ、若手社員に成功体験を積ませて成長を実感させていく。上司にはこれを期待したいですね」

 優秀な若手人材を集め、若害の暴走を食い止めるのに特別なことは必要ない。

■若者が集まる会社の3か条
① 飲み会も社員旅行も推奨する
② 陰口・悪口は絶対言わない
③ 「なんか不満ある?」とは聞かない

【FIDIA代表取締役CEO・森武司氏】

元吉本芸人 。NSC18期で、野生爆弾と対戦し30対0のフルボッコにされて引退を決意。貯金0円、4年間ニート生活、28歳まで実家暮らしなど、いわゆる「社会的弱者」から起業し、現在は年商146億円企業の代表取締役CEO。創業以来、18年連続増収増益中で、現在、ワクワクしながら本気で1兆円企業を目指す。Financial Times「アジア太平洋地域急成長企業ランキング 未上場日本一」、経済産業省「地域未来牽引企業」に選定され、「ベストベンチャー100」にも受賞される。著書に『スタートアップ芸人』(ダイヤモンド社)

取材・文/週刊SPA!編集部

―[増殖![若害]の実態]―

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