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廃業するラーメン店が急増する“本当”のワケ。「トレンドの変化が激しすぎて」個人店はますます厳しい状況に

日刊SPA! 2024年6月11日 8時52分

 飲食業は昔から開業しやすいが廃業も多い。中小企業庁(2024年版)の中小企業白書と小規模白書によると、1年未満で廃業する店は約38%、1~2年未満は26%で、合算すると開業から2年未満で約64%が廃業している。
 廃業理由の多くは開業率が高く競争が激しいことに加えて、物価高と人件費の上昇も負担とのことだ。飲食店を取り巻く環境に逆風が吹く中、生き残りを賭け、各店が競い合っている。

 その中でも日本の国民食という存在感で、全国に1万8000店舗あり、需要は6000億円市場(経済産業省の経済センサス活動調査)と推計されるラーメン業界。しかし、需要のわりに競合店が多く、なかなか値上げができず、独自のデフレが推進されている。

◆資本金や従業員数の少ない個人のラーメン店

 業態の陳腐化サイクルが短い外食業態の中で、ラーメンは特にトレンドの変化が激しく、新たな味と共に次々にオープンする新規出店者と既存店の戦いの構図が鮮明となり、生き残り競争が激化している。今は物価高などで採算が取れない店は多いが、一方で人々は価格に敏感になっているから、受け入れられる価格に設定しないとお客は離れていく。

 現在(2024年6月時点)のように実質賃金が25か月マイナスと過去最長を更新している状況では、外食を手控える消費マインドになるのは当然。実質賃金が下がり続けるため、単純にコスト+利益の価格設定は難しく、需要志向や競争志向に基づく価格決定になるものだ。

 スープづくりには欠かせない豚肉や鶏肉・ガラなど食材の高騰、エネルギーコストの負担も大きい。ラーメン店は特にスープづくりのためにガスをよく使用するので、ガス料金の値上がりは相当に苦しい。資本金や従業員数の少ない個人のラーメン店の存続は厳しく、物価上昇などの状況が変わらなければ、今後もさらに倒産件数の増加が予測される。

◆利益は何とか確保できている現状

 筆者の支援先のラーメン店も「さまざまなモノが値上がりして大変だ」と嘆く。5坪程度の広さでカウンター席7席、4人掛けのテーブル1卓の計11席のラーメン店。昼の繁忙時は行列ができてカウンター席は1時間に3回以上は回転する。

 客単価970円、客数は1日平均87人、1日平均8万5000円、26日営業で月売上221万円。原価率33%、人件費21%、広告宣伝費・消耗品・水光熱費など業務費14%、家賃など管理費15%の費用構造の個人店で、37万5750円(利益率17%)の利益は何とか確保できている。

 だが、来月から電気代の補助金がなくなり、負担が大きくなるから、夏の暑い店内を冷やすエアコン代と長時間のスープ炊きに要するガス代の高騰などで頭を抱えている。店主は毎日、朝早くから出勤し夜遅くまで働いている。少しでも人件費を抑制し、利益を確保して店を継続させるために必死である。

◆かつてのライバル店と絆を深める!

 この店主は頻繁にインスタグラムなどSNSで情報発信し、自店の存在をアピールしており、攻めと守りを徹底強化している。だから店のファンも多く、営業基盤が強固だ。

 ある時、その店主と打ち合せをしている時、競合店の店主が入ってきて、「店長! 輸入豚肉が高くなり、国産のほうが安くなっている。どんどん仕入額が上がるが、うちだけでは多いから共同で買わんか。また、電気代とガス代も来月から相当上がるので、うちは明日からラーメン50円上げるけど、店長のところはどうする?」と相談に来た。

 以前はしゃべることもないライバル店だったが、今は、この苦難を乗り切るため、団結心を高める良き仲間となっているようだ。経営環境の情報は共有し、仕入れは共同で、販売は競争でといった関係である。これから先も競争と協調関係を維持できたら、お互い最適かなと思える。

◆ビール、唐揚げ、餃子を充実させるのもテ

 大手に対抗する個人経営のラーメン店は過小資本のために、真っ向から勝負を挑んでも勝つのは難しい。外食は立地産業とも言われ、新規開業の際に人通りの多い一等立地を狙いがちだ。しかし、売上の不安定要素が多く、個人店主はできるだけ運転資金に回せるように資金配分をするのが一般的である。

 賃借物件も人通りがそれほど多くない二等立地(繁華街にあり通行量の多い一等立地と違い、繁華街の裏など発見確率の低い立地)の狭小店舗に出店して、初期投資額を下げるパターンが多い。売上を確保するためには、限りあるキャパシティを有効に活用し、客席回転率の向上が望める時間帯は別として、お客の滞留時間を延ばし、追加点数を増やして客単価を上げるのも得策だ。

 ラーメンだけでなく、ビール、唐揚げ、餃子やその他町中華メニューを充実させ、追加注文を促して客単価を上げるメニュー構成もいいと思う。効果と効率の対立軸を考慮して店舗政策を検討して実施しなければならない。ラーメン店はお酒を飲んだ後の締めで利用されるパターンも多いが、一軒目の飲み需要を狙ってみるのもいいだろう。

 カウンター席はラーメン客で高回転、テーブル席は飲み客を誘致と、メリハリをつけて、店内を有効活用する営業政策も必要だ。そのために常連客をつくり固定化し、顧客を来店頻度や利用金額に応じてランク分けし、効果的な顧客管理を徹底して営業基盤を盤石化させていきたいものである。

◆ラーメン店経営はそれほど甘くない

 売上=客数×客単価を再認識して客数を伸ばすのか、客単価を上げるのか、自店の実情を踏まえた上で、店の方針を決定したほうがいい。1000円単価のラーメン客だけでなく、2000円単価の呑み客を増やしていけば経営は楽になる。実際にそれで成功している店はある。

 ラーメン店は人気店になり、繁盛しても、その状態を維持することは難しい。すぐに安易な気持ちで開業する人たちが増え続けることで競合店数は増え続け、多くのラーメン店が価格競争に埋没し、結果的には閉店へと追い込まれている。特にラーメンは陳腐化するサイクルが早い業態である。

 開業費用は他の業種業態と比較したら低いかもしれないが、決して安い金額ではなく、失敗した時の損失は大きい。ラーメン店も最近は「1000円の壁」と煽り過ぎて、お客さんもその意識が強くなっている。物価高騰で採算をとるのが難しい一方、値上げをしたら客離れをするのではと単独で先走り値上げすることを躊躇している店が多い。

◆最悪の事態に陥れば賢く撤退を!

 赤字が続き、資金繰りが苦しくなり、この先の経営が持続できなとなったら自ら廃業するか、法的整理で倒産するのが通常である。自ら廃業する場合、賃借物件なら契約内容にもよるが、スケルトンにして家主に返す必要がある。しかし、お金が底をつき廃業するのにそのスケルトン費用がない店主も多い。

 スケルトン費用や厨房機器などの撤収費用は意外にかかるものである。坪当り10万円の負担を考えておいたほうがいい。その際、店を誰かに譲渡できればラッキーである。家主にとっても、入れ替えで収益を得る一部の貸主は除き、空白期間なしに家賃収入が入るメリットがある。極端に変な賃借人でなければ反対はしないであろう。

 もし買い手が見つかればそこで交渉をすればいいが、あまり不誠実な対応をしていたらせっかく名乗りを上げてくれた買い手を失うことになり、すべてが水泡に帰することになるから注意が必要だ。

 店を買収する人は時間を買うという目的の人が多い。①すでに実績があり、どの程度の売上が期待できるか予測が容易、②開業までの時間が節約できる、③その店が有していた顧客を利用できる、④従業員をそのまま活用できれば運営コストの負担が軽減できる、など多くのメリットがある。もちろんデメリットもあるが、メリットのほうが大きいなら、買主は喜んで買ってくれる。

◆10年で1割の生存率。生かすも殺すも店主次第

 通常、3年分の決算書を見せてもらい損益計算書と貸借対照表から収益状況と試算状態からフローとストック状況を確認する。そして時価による純資産と3~5年の利益を加味して、それを営業権として買収価額(年買法:計算も容易だから、中小企業庁も推奨している。時価純資産+営業権=年間利益に3~5年分)を決定する。最大5年と幅広いのは、買い手のどうしてもこの物件が欲しいという思いの度合いと、その店の将来性から増減するものだからだ。

 筆者は依然、他の業態だが、4年程度を営業権として算出してもらい、その店の将来性を高く評価してもらったことがある。そこで問題になるのは、個人事業者はいろいろ理由をつけて高く買ってもらおうと小細工をすることである。中にはきちんと申告していなかったけど実際はこれくらいあるなど架空の数字を示してくる売り手もいて厄介である。

 今は3年分の確定申告書を要求しても、コロナによる営業自粛で通常営業していないから、見ても参考にならないケースが多い。そういった店でコロナ前にちゃんとした実績があればいいが、それがなければ、なかなか精度の高い需要予測が立てにくい。

 いくら物件に魅力があっても、厳格な表明保証(正確な情報を提供し内容に偽りがないことを証明すること)を求めないといけない。信用できない売り手と判断されたら、せっかくのビジネスチャンスを逃がすことになるから注意したほうがいい。

 いずれにせよ、せっかく開業したお店は継続して営業できるように、考えて営業しなければいけない。10年で1割の生存率である飲食店。生かすも殺すも店主次第である。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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