さまざまな種類のハラスメントが存在する現代。一昔前では想像すらできなかった厳しい世の中になりつつあります。「お客様は神様」という古い思考は、遠い昔の話。今では、あらゆる場面でパワーバランスが変化しつつあります。今回取材に応じた男性も、変化する時代の流れに取り残された一人です。
◆保守的なサラリーマン人生
都内にある中堅のインポート・アパレル会社で企画部長を務める江村さん(仮名・52歳)。いわゆる「就職氷河期」に社会人となった一人です。
「就職活動をしていた頃は、バブル崩壊の影響で、多くの企業が採用枠を減らしていたため、就職浪人が出るほどの就職難でした。だから、この会社に就職が決まった時はとても嬉しかったですし、安心したのを覚えています」
長らく営業職で会社に貢献してきた成果が評価され、40代後半で現在の部長職に昇格したといいます。
「バブル期入社の先輩たちは、私たちとは対照的で、派手な部分がありましたね。プロジェクトの立ち上げなんかも、高級ホテルの宴会場を貸し切って展示会を催したり、来賓向けの手土産なんかも採算度外視だったり……。そんな光景を目の当たりにしているせいか、どこか仕事においても保守的になっている自分がいました」
◆部下の進言で一念発起
あるとき、新入社員から「江村部長、もっとはっきりと指示をいただいたほうが助かります。いつも曖昧な感じがして、判断に困ることがあります」と進言されたそうです。
「正直言って、彼の意見に何も反論できませんでした。たぶん、彼ら『Z世代』に対して、必要以上に慎重な態度を取っていたと思うのです。慎重といえば聞こえが良いのですが、つまり、少し怖がっていたんですね。自分の接し方が、彼らに対してハラスメントにならないよう気を使いすぎて、中途半端な態度になっていたことが原因でした」
これまでは、平和主義的な職場環境を保つことに気を取られていましたが、このことをきっかけに、もう少し威厳を出そうと一念発起し、明確な態度をとるように決意したといいます。
◆部下からのハラスメントに悩む日々
江村さんは、人が変わったように言動を変化させたようです。しかし、その結果予想外の事態に直面します。
「人って、そんなに急に変われないものですね。先日も『この前お願いしたプロジェクトの企画書はどうなっていますか?』と進捗を確認しただけなのに、その部下から『急かされると威圧感を覚えてしまう』と意見されたり、緊急で資料作成する必要があったので、残業をリクエストするため『定時以降の予定を聞かせてほしい』と確認すると『プライベートの詮索だからセクハラです』と指摘されたりしたんです。私が単純に部下から見下されているのでしょうか」
一念発起したものの、部下たちを混乱させるだけで、しかも半ば「逆ハラスメント状態」に陥ってしまい、かじ取りに悩む日々が続いたといいます。
◆気がつけばメンタルが崩壊していた
力不足を痛感し、比較的仲の良い先輩社員に相談するも「江村、それはなめられているんだよ。ガツんと言ってやれ」と、本質的なアドバイスはなく、完全に板挟み状態になっていたそうです。
「もう少し先輩らしい言葉をもらえると期待していたのですが、軽い返答に心底落胆しました。今まで平穏に過ごしてきたサラリーマン生活でしたが、まさかこんなに居心地が悪くなるとは想像もしていませんでした」
途方に暮れ、気がつけば食欲もなくなり、体重が5キロも減ったそうです。
「妻の勧めで、心療内科を受診したのですが、医者からは鬱の初期症状だと言われました。改めて病名がついたことで、余計に心が重くなったのを覚えています」
江村さんは、その後会社に休職届を提出し、しばらく自宅療養に専念することにしました。ただ、新入社員から逆ハラスメントを受ける夢を頻繁に見るそうで、トラウマとなってしまった職場での光景を思い出すたびに、職場復帰が遠のくことを感じているそうです。
<TEXT/ベルクちゃん>
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
―[カスハラ現場の苦悩]―
◆保守的なサラリーマン人生
都内にある中堅のインポート・アパレル会社で企画部長を務める江村さん(仮名・52歳)。いわゆる「就職氷河期」に社会人となった一人です。
「就職活動をしていた頃は、バブル崩壊の影響で、多くの企業が採用枠を減らしていたため、就職浪人が出るほどの就職難でした。だから、この会社に就職が決まった時はとても嬉しかったですし、安心したのを覚えています」
長らく営業職で会社に貢献してきた成果が評価され、40代後半で現在の部長職に昇格したといいます。
「バブル期入社の先輩たちは、私たちとは対照的で、派手な部分がありましたね。プロジェクトの立ち上げなんかも、高級ホテルの宴会場を貸し切って展示会を催したり、来賓向けの手土産なんかも採算度外視だったり……。そんな光景を目の当たりにしているせいか、どこか仕事においても保守的になっている自分がいました」
◆部下の進言で一念発起
あるとき、新入社員から「江村部長、もっとはっきりと指示をいただいたほうが助かります。いつも曖昧な感じがして、判断に困ることがあります」と進言されたそうです。
「正直言って、彼の意見に何も反論できませんでした。たぶん、彼ら『Z世代』に対して、必要以上に慎重な態度を取っていたと思うのです。慎重といえば聞こえが良いのですが、つまり、少し怖がっていたんですね。自分の接し方が、彼らに対してハラスメントにならないよう気を使いすぎて、中途半端な態度になっていたことが原因でした」
これまでは、平和主義的な職場環境を保つことに気を取られていましたが、このことをきっかけに、もう少し威厳を出そうと一念発起し、明確な態度をとるように決意したといいます。
◆部下からのハラスメントに悩む日々
江村さんは、人が変わったように言動を変化させたようです。しかし、その結果予想外の事態に直面します。
「人って、そんなに急に変われないものですね。先日も『この前お願いしたプロジェクトの企画書はどうなっていますか?』と進捗を確認しただけなのに、その部下から『急かされると威圧感を覚えてしまう』と意見されたり、緊急で資料作成する必要があったので、残業をリクエストするため『定時以降の予定を聞かせてほしい』と確認すると『プライベートの詮索だからセクハラです』と指摘されたりしたんです。私が単純に部下から見下されているのでしょうか」
一念発起したものの、部下たちを混乱させるだけで、しかも半ば「逆ハラスメント状態」に陥ってしまい、かじ取りに悩む日々が続いたといいます。
◆気がつけばメンタルが崩壊していた
力不足を痛感し、比較的仲の良い先輩社員に相談するも「江村、それはなめられているんだよ。ガツんと言ってやれ」と、本質的なアドバイスはなく、完全に板挟み状態になっていたそうです。
「もう少し先輩らしい言葉をもらえると期待していたのですが、軽い返答に心底落胆しました。今まで平穏に過ごしてきたサラリーマン生活でしたが、まさかこんなに居心地が悪くなるとは想像もしていませんでした」
途方に暮れ、気がつけば食欲もなくなり、体重が5キロも減ったそうです。
「妻の勧めで、心療内科を受診したのですが、医者からは鬱の初期症状だと言われました。改めて病名がついたことで、余計に心が重くなったのを覚えています」
江村さんは、その後会社に休職届を提出し、しばらく自宅療養に専念することにしました。ただ、新入社員から逆ハラスメントを受ける夢を頻繁に見るそうで、トラウマとなってしまった職場での光景を思い出すたびに、職場復帰が遠のくことを感じているそうです。
<TEXT/ベルクちゃん>
【ベルクちゃん】
愛犬ベルクちゃんと暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
―[カスハラ現場の苦悩]―