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「サブスクに負けた」スカパーの現在地。加入者激減でも業績が“悪くならない”理由

日刊SPA! 2024年6月15日 8時53分

経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回は株式会社スカパーJSATホールディングスの業績について紹介したいと思います。
CS放送「スカパー!」で知られる同社は、1990年代から2000年代にかけて加入者数の増加とともに成長。特に日韓ワールドカップの放映権獲得した際には一気に認知度が高まりました。しかし、2010年代からサブスク動画サービスが台頭、あらにはYouTubeが市民権を得たこともあり、スカパー!の加入者数は年々減少しています。一方で衛星通信の需要は伸びており、従来のメディア事業から衛星を活用した宇宙事業へと転換を図っているのです。スカパー!の歴史と近年の動きについて見ていきましょう。

◆CS放送のプラットフォーム事業者として成長

日本で衛星放送が本格化したのは1990年代です。91年には国内初の有料BS放送として「WOWOW」の放送が始まり、92年にはCSのアナログ放送が開始されました。ちなみにBSは衛星衛星、CSは通信衛星という意味ですが、コンテンツの棲み分けでいえばCS放送はジャンルを絞った専門チャンネルを放映しています。

スカパー!の前身は96年に日本デジタル放送サービスが提供を開始した「パーフェクTV!」です。その後、98年に同業のCS放送プラットフォームである「JスカイB」と合併し、「スカイパーフェクTV!」に名称変更しました。2000年に「ディレクTV」を吸収したことで、これ以降、国内唯一のCSデジタル放送基盤となります。同年に加入件数は200万件を突破、2002年には日韓ワールドカップの放映権獲得で知名度を上げ、加入件数は300万件を突破しました。

07年には通信衛星事業を手掛けるJSAT株式会社と統合してスカパーJSATとなり、08年にJSATの競合であった宇宙通信を子会社化して現在の社名に変更しました。12年にはCS放送のサービス名を「スカパー!」に一元化しています。

◆加入件数は年々減少…

スカパー!は、現在約70のチャンネルを提供し、プレミアムサービスでは約140のチャンネルを提供しています。基本プランでは月額3,960円で11ジャンル、50チャンネルを視聴でき、プレミアムサービスの「プレミアムパック」では月額4,169円で59チャンネルを視聴可能です。1チャンネルごとに追加することもでき、各放送局はスカパー!を通じて収入を得る形です。

しかしながら、加入者数は年々右肩下がりなのです。2012年度の383万件をピークに減少し続け、22年度には300万件を下回り、24年3月期末時点で274万件になりました。2010年代以降の凋落はやはりサブスク動画市場の成長が影響しているでしょう。もともと地上波以外の娯楽として求められた衛星放送ですが、リアルタイムで好きな映画や歌番組を視聴できるサブスク配信サービスの魅力は大きく、NetflixやU-NEXT等に顧客を奪われました。

YouTubeの台頭もスカパー!凋落の一因です。CS放送は鉄道番組や旅番組など、チャンネルの専門性も魅力でしたが、コンテンツ数やジャンルは圧倒されており、そのメリットは失われました。YouTubeのサービス開始は05年で、07年には国内利用者数が1,000万人を突破し、現在では7,000万人以上が継続的に利用しています。月額料金の割高感やアンテナ設置の面倒さもスカパー!加入者数の減少に拍車をかけていると考えられます。

◆「伸び続ける宇宙事業」に活路が?

スカパーJSATホールディングスの2020年3月期から24年3月期における業績は下記の通りです。同社はメディア事業と宇宙事業を展開しており、スカパー!はメディア事業に含まれます。コロナ禍でもスカパー!の加入件数は伸びなかったようで、メディア事業の収入は年々減少しました。ちなみに22年2月期の減収は会計基準の変更が主な要因で、加入者数減少による減収幅は34億円です。

【株式会社スカパーJSATホールディングス(2020年3月期~2024年3月期)】
営業収益:1,395億円→1,396億円→1,196億円→1,211億円→1,219億円
営業利益:153億円→192億円→189億円→223億円→265億円
メディア事業の収益:944億円→884億円→673億円→657億円→636億円
宇宙事業の収益:452億円→512億円→523億円→554億円→583億円

なおメディア事業は年々落ち込んでいる一方、宇宙事業の売上は増加しました。同社は静止衛星を17機保有(共同保有含む)しており、宇宙事業ではこれらの衛星を使い、収入を得ています。24年3月期における宇宙事業の内訳は次の通りです。

①国内(48%):官公庁(防衛・災害関連など)や通信事業者からの衛星通信収入
②放送(21%):CS放送事業者への回線提供
③グローバル・モバイル(27%):海外通信事業者からの収入。航空・船舶に対する回線提供
※その他に新規事業領域の収入が4%

近年では②の放送関連収入が減る一方、航空機でのWi-Fi接続サービスなど③のグローバル・モバイル領域が伸びており、宇宙事業全体として収入が増え続けました。

◆2030年までに「3,000億円を投資」

今後については、2022~2030年度の間に3,000億円規模の投資を行う方針です。主力となった宇宙事業に2,500億円、メディア事業に500億円を想定しており、22年度・23年度合わせて既に413億円の投資を行いました。また、今年3月には宇宙スタートアップとの協業に向けて100億円の投資枠を設定したと発表しています。

同社はこれまでの20年で17機の衛星を打ち上げました。1機あたりの調達・打ち上げコストは200~400億円程度で、寿命は10~15年のようです。ロケットは主に欧州宇宙機関(ESA)のアリアンを使っています。平たく言えば、コストをかけて衛星を打ち上げ、放送・通信で回収する商売。用途が未知数な部分もありますが、衛星通信の市場規模は今後10年間で2倍になると予想されています。

メディア事業の収入が確実に減るなか、同社は宇宙事業メインの企業として生まれ変わっていくことでしょう。衛星を使った新規事業についても期待したいところです。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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