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無印良品の「買ってはいけない靴と買うべき靴」。お買い得もあれば難ありも

日刊SPA! 2024年6月19日 15時53分

こんにちは、シューフィッターこまつです。靴の設計、リペア、フィッティングの経験と知識を生かし、革靴からスニーカーまで、知られざる靴のイロハをみなさまにお伝えしていこうと思います。
さて、みんな大好きな無印良品。私もグリーンカレーのレトルトパウチは週1ペースで買っていますし、洗いざらしのブロード長袖シャツは過去何枚リピートしたか覚えていないほど愛好しています。しかし、靴の専門家として、無印を手放しで褒めるつもりはありません。よいものもあれば、改善点も山盛りあると思っています。その違いはどこにあるのか、解説していきましょう。

◆有名メーカーよりはるかに優秀な「キャンバススニーカー」

まず、定番の「疲れにくい 撥水スニーカー」は本当によくできています。これは断言します。クラシックな外見とは反対に、足の動きがよく考えられているインソールに小ぶりなカカト周り、キャンバスでも日常防水という仕様。アウトドアメーカーにも似ているものはありますが、1万円を超えてくることを考えると、3990円なのは見事の一言。

外見はコンバースに似ていますが、足が中で遊ぶことがありません。専門的な解説ですが、足の「外側縦アーチ」と「内側縦アーチ」をきちんと支えています。単純に「土踏まずが盛り上がっているだけ」の製品はよくみかけますが、これらは足あたりがいいだけで機能性は伴っていません。足は両端から支えないと意味がなく、「外側縦アーチ」を支えているスニーカーは、まず見かけません。専門のインソールに差し替えれば話は別ですが、それでもインソール単体で2000~3000円はします。それがデフォルトでついていて3990円は破格と言っていいでしょう。しかも定番なのでいつでも手に入ります。

ここまで完成度が高いので、しいて言えばぜひ「シャンク」という曲がり防止の素材をふまず付近に入れてほしい。足の動きなりに「曲がるところで曲がる」仕様にすれば、今よりも疲れづらくなるはずです。キャンバススニーカーの雰囲気はノスタルジックでいいのですが、シャンクが入っていないため、必要以上に底が曲がり、長時間の歩行には向きません。シャンク自体は安い材料なので、販売価格にそれほど響くことないはずです。

◆改善点が多い「革の端材シリーズ」

一方で眉をひそめてしまうのが、「革の端材を再利用した プレーントゥ」、8990円。無印のこちらのレザースニーカーも、よく売れています。クラシックなアッパーのデザインと、スニーカーの底をバランスよく合体させ、ビジカジにはもってこい。無印の靴の中では比較的高価ですが、革靴に比べれば安いとばかりに手に取る方も多いでしょう。

実際この靴をジャケットスタイルに合わせて履いている方をよく見かけます。「革の端材を再利用した」というネーミングもまたエコに聞こえます。しかし、店頭で実物を手に取ってみるとゾワっとした違和感があります。

原因は、表から見える本体がまるごと「合成皮革」(以下、「合皮」)だからです。合皮は天然革とはちがって独特の味が出ることもなく、経年劣化します。もちろんキズがついても直りません。ネーミングの「革の端材」はいったいどこに使われているのか? タグには「表材・合成皮革、裏材・革の端材」と書かれていました。

しかし、このネーミングはちょっと意地悪ではないでしょうか。要は「合成皮革のスニーカー」です。合皮のスニーカーなら、8000円でもちょっと高い。事実、ナイキやアディダスであれば合皮は5000円くらいから手に入ります。

やはり「革」というのはパワーワードなのでしょう。表材が天然革のスニーカーなら今の時代、2万円前後はします。革のクオリティで差もありますが、キズやシミがついてもクリームを塗り続けるうちに新品の時より高級な感じが出てくるのが天然革。このネーミングは「カニとカニかま」くらいの差があります。肝心の表の素材が合成皮革と知った消費者はがっかりするはず。

もう少し突っ込んで指摘すると、「裏材(靴の中)」に使っているのも、タグを見ると「革の端材」ではなく、「再生革」と書かれています。この再生革というのがやっかいです。

革と再生革はまったくの別物。製品にならない革をミキサーで粉にして、樹脂でくっつけてシート状にしたものが「再生革」で、たしかに原材料は革ですが、革ならではの通気性・伸縮性・強靭性は、何層にも重なった組織があればこそ。つまり「革」と文字では表しているものの、性質上は合皮と同じ。蒸れるので、靴の中に使うものではありません。

実は2024年の3月にJIS規格が改定されて、革をパウダーにしたものを原料とした製品は「再生革」と名乗れなくなりました。消費者が混同するからです。

ただし罰則もなく、メーカーも順次表記改定に追われている状況なので、無印に悪意があるとは断言できません。しかし、ネーミングだけはせめて「環境に配慮した革風スニーカー」くらいにしたほうが良心的かと思います。私のように早とちりをする消費者にとっては、ブランドイメージの失墜につながりかねません。

◆さらに心配な「レースアップシューズ」

同じ意味でさらに心配な靴が「革の端材を再利用した レースアップシューズ」、7990円。ジャズダンスシューズをモチーフにしていますが、本来の天然革のジャズダンスシューズは2万円ほど。値段だけ比べるなら半額以下です。レビューを見ても評価が高い。しかし、こちらもネーミングのイメージとは逆に、表の素材は合成皮革です。しかも、どこに革の端材を再利用したのかわかりません。内部をいくら観察しても布地しかないのです。

公式発表では「甲表生地:裏側:再生革」と書かれていますが、どこをどうみてもそれらしい箇所が見つかりません。誤表記でなければ、もはや「革」という字を商品名から外したほうがいいのではと思います。そこで、良品計画に使用箇所について問い合わせをしたところ「靴の甲部分(アッパー)の表が合成皮革でその裏側が再生皮革となります」との回答がありました。合成皮革が2枚重ねで、その上に布を張っているということ? 薄い合皮と、薄い再生革をプレスして1枚にしたものが甲材で、足に当たる部分が生地だとすると……なぜそんな仕様に??

革の端材を再利用するという考え自体は、シンプルによいものです。革は燃えにくいので、基本的に埋めるしかありませんし、腐らないのでどんどん増えていくので、再利用するのは最高の手段です。実際に本格革靴のパーツの一部でも、見えない部分には革より軽く加工がしやすい「再生革」を利用しています。そのかわり強靭さには欠けるなど、「革とはまったく異なるもの」として扱われています。

しかし商品のネーミングにまで及んでくると、せっかく雰囲気はいい靴なのに、いろいろともったいない。シンプルなデザインの靴も、どのメーカーも信じられないくらい高くなっています。無印良品ならではのお手頃価格と、全国どこでもだいたい手に入るという存在は貴重です。無印良品さん、ご一考よろしくお願いします。

【シューフィッターこまつ】
こまつ(本名・佐藤靖青〈さとうせいしょう〉)。イギリスのノーサンプトンで靴を学び、20代で靴の設計、30代からリペアの世界へ。現在「全国どこでもシューフィッター」として活動中。HPは「全国どこでもシューフィッターこまつ」 靴のブログを毎日書いてます。「毎日靴ブログ@こまつ」

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