不動産業界で営業職をしている広瀬拓海さん(32歳・仮名)には、思い出すのも嫌になる“逆セクハラ体験”があるという。
「相手の自分勝手過ぎる想いが不気味でしたね。嫌がれば嫌がるほどに過激になっていって、その辺りの感覚のズレも怖く思いました」
◆飲み会がきっかけで40代の女性社員と親しくなったが…
問題の相手は事務職をしている40代後半の女性社員・佐々木さん(仮名)だった。
「彼女はとても大人しい性格で、仕事の合間の雑談に混じることもなく、昼休みはいつも1人で本を読んでいるような人でした。なので、まさか彼女からあんな目を受けることになるとは思ってもいませんでした」
きっかけは会社での飲み会だという。
「たまたま佐々木さんと席が隣になったので、何の気なしに『どんな本を読んでいるんですか?』と話しかけたんです。彼女が名前をあげた作家の中に、僕も好きな作家がいたので、『あの作品良いですよね』と話しているうちに、けっこう盛り上がって。すごくうれしそうに本の話をする佐々木さんは、普段の様子とは全然異なり、なんなら好印象に思ったぐらいでした」
それから、社内で使用しているチャットツールでも、佐々木さんとコミュニケーションを取るようになった。
「おすすめの本を教えてもらったり、趣味が共通する者同士で、ちょっとしたやりとりをするようになりました。それである時に『もし良ければ、私が書いた小説を読んでもらえない?』と言われたんです。佐々木さんは趣味で小説を書いていて、誰かに読んでもらうことがほとんどないので、ぜひ感想をほしいとの話でした」
◆小説の内容が徐々に変化していった
内容は思いのほか、悪くなかったという。
「読んでみたところミステリーで、オチもしっかりしていて、不倫をテーマにした内容も興味を惹かれたので、『すごく面白かったです』と素直に伝えたんです。それがうれしかったようで、それからたびたび短編小説の感想を求めるチャットが届くようになりました」
だが、気になることがあった。
「感想を送るととてもよろこんでくれますし、純粋に小説も面白かったので、時間がある時に読んでいたんですが、何作か読んでいるうちに内容が怪しくなってきて……。官能的なシーンが多くなってきたんです」
◆官能小説の登場人物がまさかの…
だんだんと過激な内容になり、そうして読んだ1作には、唖然とさせられたという。
「ほとんど官能小説に近いような、猥褻なシーンが多い小説だったんですが、主人公は性格や状況含めて、完全に佐々木さん自身のようでした。その主人公を情熱的に追い求める登場人物もいて、それが明らかに僕なんです。容姿の説明や、口癖までトレースしたような感じで。佐々木さんに聞いてみると、『モチーフにさせてもらった』と否定しないので、びっくりしました」
そんな、官能小説が毎週のように送られてくるようになった。
「どういうつもりで送ってくるのかわからないですし、怖くなって読まないようにしていたんです。そうしたら何度も催促してくるようになって……。それでも無視し続けていると、『読みやすくするから』と言って、小説を細切れにしてチャットツールで送りつけてくるようになりました」
◆朝礼で卑猥なシーンを読み上げられてしまった
それは広瀬さんにとって、ひどく苦痛な体験だった。
「『こういうのは好きではないので読みたくない』と伝えていたんですが、『最後まで読んだら、私の真意が伝わるから』『あなたのために書いた小説なんだから読んで』『私の想いを受け取って』と言われました。怖いので読まずにいると『読まないなら執筆に掛けた時間を返してよ』と逆ギレされて。『お詫びにご飯連れていってよ』と言って、一方的にお店のリストを送りつけてきたんですが、どれもやたらと雰囲気の良いカップルに人気のお店ばかりでした」
耐えきれなくなった広瀬さんは、対策を取ることにした。
「全部、僕がよろこぶと思ってやっているらしく、一方的なやりとりが本当にストレスでした。それで、人事に報告することにしたんです。すぐに動いてくれたんですが、佐々木さんの上司がデリカシーゼロの人で、全員参加の部署の朝礼で『自作の卑猥な内容の小説を若手の男性社員に送りつけたりしないように』と注意したんです。しかも、僕が資料として報告した卑猥なシーンの朗読付きで。佐々木さんは、泣きそうになりながら『すみませんでした』と謝っていたそうです」
その後、セクハラチャットはなりを潜め、しばらくすると佐々木さんは会社を退職していった。佐々木さんがいた部署の同僚に聞いたところ、朝礼で指摘されてからの彼女は、常に暗く沈んだ様子でうつむいていて、アンタッチャブルな存在になっていたという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
―[“逆セクハラ”エピソード]―
「相手の自分勝手過ぎる想いが不気味でしたね。嫌がれば嫌がるほどに過激になっていって、その辺りの感覚のズレも怖く思いました」
◆飲み会がきっかけで40代の女性社員と親しくなったが…
問題の相手は事務職をしている40代後半の女性社員・佐々木さん(仮名)だった。
「彼女はとても大人しい性格で、仕事の合間の雑談に混じることもなく、昼休みはいつも1人で本を読んでいるような人でした。なので、まさか彼女からあんな目を受けることになるとは思ってもいませんでした」
きっかけは会社での飲み会だという。
「たまたま佐々木さんと席が隣になったので、何の気なしに『どんな本を読んでいるんですか?』と話しかけたんです。彼女が名前をあげた作家の中に、僕も好きな作家がいたので、『あの作品良いですよね』と話しているうちに、けっこう盛り上がって。すごくうれしそうに本の話をする佐々木さんは、普段の様子とは全然異なり、なんなら好印象に思ったぐらいでした」
それから、社内で使用しているチャットツールでも、佐々木さんとコミュニケーションを取るようになった。
「おすすめの本を教えてもらったり、趣味が共通する者同士で、ちょっとしたやりとりをするようになりました。それである時に『もし良ければ、私が書いた小説を読んでもらえない?』と言われたんです。佐々木さんは趣味で小説を書いていて、誰かに読んでもらうことがほとんどないので、ぜひ感想をほしいとの話でした」
◆小説の内容が徐々に変化していった
内容は思いのほか、悪くなかったという。
「読んでみたところミステリーで、オチもしっかりしていて、不倫をテーマにした内容も興味を惹かれたので、『すごく面白かったです』と素直に伝えたんです。それがうれしかったようで、それからたびたび短編小説の感想を求めるチャットが届くようになりました」
だが、気になることがあった。
「感想を送るととてもよろこんでくれますし、純粋に小説も面白かったので、時間がある時に読んでいたんですが、何作か読んでいるうちに内容が怪しくなってきて……。官能的なシーンが多くなってきたんです」
◆官能小説の登場人物がまさかの…
だんだんと過激な内容になり、そうして読んだ1作には、唖然とさせられたという。
「ほとんど官能小説に近いような、猥褻なシーンが多い小説だったんですが、主人公は性格や状況含めて、完全に佐々木さん自身のようでした。その主人公を情熱的に追い求める登場人物もいて、それが明らかに僕なんです。容姿の説明や、口癖までトレースしたような感じで。佐々木さんに聞いてみると、『モチーフにさせてもらった』と否定しないので、びっくりしました」
そんな、官能小説が毎週のように送られてくるようになった。
「どういうつもりで送ってくるのかわからないですし、怖くなって読まないようにしていたんです。そうしたら何度も催促してくるようになって……。それでも無視し続けていると、『読みやすくするから』と言って、小説を細切れにしてチャットツールで送りつけてくるようになりました」
◆朝礼で卑猥なシーンを読み上げられてしまった
それは広瀬さんにとって、ひどく苦痛な体験だった。
「『こういうのは好きではないので読みたくない』と伝えていたんですが、『最後まで読んだら、私の真意が伝わるから』『あなたのために書いた小説なんだから読んで』『私の想いを受け取って』と言われました。怖いので読まずにいると『読まないなら執筆に掛けた時間を返してよ』と逆ギレされて。『お詫びにご飯連れていってよ』と言って、一方的にお店のリストを送りつけてきたんですが、どれもやたらと雰囲気の良いカップルに人気のお店ばかりでした」
耐えきれなくなった広瀬さんは、対策を取ることにした。
「全部、僕がよろこぶと思ってやっているらしく、一方的なやりとりが本当にストレスでした。それで、人事に報告することにしたんです。すぐに動いてくれたんですが、佐々木さんの上司がデリカシーゼロの人で、全員参加の部署の朝礼で『自作の卑猥な内容の小説を若手の男性社員に送りつけたりしないように』と注意したんです。しかも、僕が資料として報告した卑猥なシーンの朗読付きで。佐々木さんは、泣きそうになりながら『すみませんでした』と謝っていたそうです」
その後、セクハラチャットはなりを潜め、しばらくすると佐々木さんは会社を退職していった。佐々木さんがいた部署の同僚に聞いたところ、朝礼で指摘されてからの彼女は、常に暗く沈んだ様子でうつむいていて、アンタッチャブルな存在になっていたという。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め
―[“逆セクハラ”エピソード]―