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大節約時代に「コンビニに行けない」若者も…“12兆円規模”コンビニ業界が迎える難局

日刊SPA! 2024年6月23日 8時52分

 耐えられない急速な物価高に、現在(2024年6月)まで25か月続く実質賃金のマイナスに国民が悲鳴を上げている。個人消費は4期連続のマイナスとなり、老後の不安も心配ななか、先行き不安が高まっている。
 物価上昇に賃金上昇が追い付かず、今の生活防衛と老後の資金確保のために必死に節約する多くの人から出るのはため息ばかりだ。2024年6月から始まった4万円の定額減税は、給与所得2000万円以下の人が対象だが、国民の関心は薄く、ないよりはマシという程度で消費の起爆剤にはならないようだ。先が見えない中、働く人たちの節約生活の実態を探りたい。

◆企業倒産の増加でますます先行き不安が漂う!

 東京商工リサーチ(6月10日)によると5月の倒産件数が1016件で1000件を超えるのは12年ぶりとのことだ。主な原因は、①物価高によるコスト上昇分を価格に転嫁できていないため、②ゼロゼロ融資の返済が4月から本格的になったため、③人手不足による機会損失の発生などである。

 全ての産業で倒産件数が増加しており、今後もさらに増えることが心配されている。こういうニュースを見ると、また消費者の財布のひもは固くなってくる。それをいかにこじ開けるかが各社の知恵の見せどころだが、先行き不透明感が漂う中ではしばらく節約志向は続きそうだ。

 これに合致した商品・サービスをどう提供するかが、企業にとって栄枯盛衰の分岐点になるであろう。

◆節約志向が急激に高まる現況

 消費者の先行き不安が高まっているなか、若者をはじめ働く人のランチ行動にも変化が生じている。何を節約するかはそれぞれの価値観から違ってくるだろうが、テレビの街頭インタビューを見ると、削るモノの代表格はやはり「飲食費」が圧倒的に多い。

 なかでも一番取り組みやすい外食費のカットに飲食店は頭を痛める。かつてなら近くのコンビニで済ませていたお昼も、時間をかけてでも安く済ませられるスーパーに通う人が増えている。

 コンビニのおにぎりは価格が150~250円、弁当は400~700円が中心の商品ラインナップだが、SBI新生銀行が発表した最新版の「2023年会社員のお小遣い調査」によると、男性のランチ代の平均は624円、女性は696円となっている。働き手の希望ランチ予算からは購入が難しいのが現実だ。

◆家での食事には簡便化ニーズが高まる

 食は生きる上で必要不可欠だから、なくなることはないが、節約する上で絶対に標的にされる。1日3食を食べるとして、その食事を内食・中食・外食が奪い合いをしている。

 食材を加工し、料理を完成させるまでのプロセスと提供の手間を金額換算したら、付加価値額(粗利益)は何もしなくていい「外食」が一番高く6割以上だ。持ち帰ってレンチンするだけの「中食」はスーパーなど業態にもよるが粗利は平均3割程度だ。

 ちなみにコンビニの粗利益は3割程度で、その中から本部に3~4割のロイヤリティを払っている。だから、割高と言われながらも、コンビニの店舗もけっこう経営が厳しいものである。内食は野菜やお肉を購入して自ら作るから付加価値額を負担なしで食べられる分、自分で全てしなくてはならない。

◆物価高に歯止めがかからず低価格にも限界が

 だから、内食が家計には一番助かるのは当然。女性の社会進出が当然となり、家での食事には簡便化ニーズが高まり、食品メーカーもいかに家庭料理がラクに作れるかを競い合っており、年々進化している。

 店側も物価高騰の煽りを受け、仕入れの負担が大きく、なおかつ人手不足や人件費の上昇で経営が厳しいので価格を上げざるを得ないのが実情だ。低価格のイメージが強かった、ファミレス最大数の店舗数を誇るガストも、地域差はあるものの、日替わりランチの価格は720円だ。

 女性の利用頻度が多いマクドナルドやモスバーガーもセット料金が600~700円程度の負担が大きい。だから家から、弁当を持ってくる会社員が増えている状況だ。

◆コスパとタイパに優れた「ワンプレート冷凍食品」

 また最近では、スーパーなどが販売するワンプレート冷凍食品も、コスパとタイパの良さから人気であり、調査会社インテージの調べでは市場規模も約100億円規模に急伸している。大概の職場に電子レンジが備わっているから、従来の手作り弁当に代わって持っていくようだ。

 ご飯とおかずがセットになっており、価格は400円程度で栄養面も考えられており、健康食としても最適らしい。一度の過熱で済むから手間がかからず器付きだから片付けも楽で簡便性の高さから、奥さんに喜ばれており、この物価高の中で、ますます売れ行きが好調のようだ。

 節約しやすい出費である外食も、たまの贅沢には外食が一番との声も多い。ホットペッパーグルメ外食総研によると、特に節約を意識している食への出費としては「内食の費用(自炊の食材等の費用)」が45.0%、「外食の費用」が 35.0%、「中食の費用」が33.1%と続いている。

 やはり、食に関する費用を節約する傾向が見られており、その中でも、外食時の節約対象は、「夕食」が71.9%、「昼食」が51.8%、「朝食」で22.7%となっているようだ。食は生きる上で絶対になくせないが、節約しやすい対象となっている。

◆コンビニには高すぎて行けない若者世代

 確かに昔と比べたらコンビニのおにぎりや惣菜関係の品質は高くなっているが、割高感は否めず、価格の割には満足できない。節約志向の人に利便性が売りのコンビニの選択肢は薄らいでいる。

 所得が微増な状態なのに、それをはるかに上回る物価高騰に、タイパを重視するさすがの若者も、生活防衛のために時間節約型からお金を節約する消費行動に変化している。もうコンビニには高すぎて行けないし、行く価値がないと若者世代は離れていっているようだ。

 日本フランチャイズチェーン協会の発表によると、2024年4月のコンビニの実績は、売上・客数共に前年を上回っているが、客単価は-0.7%と下回っている。コンビニは店舗数5万5647店、市場規模12兆円7000億円、13億人を集客する巨大小売業であり、2008年に百貨店売上を抜いている。ちなみに客単価は711円と前年を下回り、節約の影響は若干、出ているようだ。

 コンビニに行けば、今のトレンドが分かったり、行政サービスなどは便利だったりする側面はある。しかしながら、そういう身近な存在であっても、提供価値を見出せなくなりつつあるようだ。コンビニ各社はここでしか買えない商品などオンリーワンを訴求し、若者世代の囲い込みの巻き返しを図っている。

◆変革を求められるコンビニチェーン

 今後、さらに節約志向の強くなるなか、コンビニチェーンはどう変革するかだ。昨今では加盟店が経営を持続できるように、効率的なビジネスモデルを設計していて、店の規模も小さく、家賃など固定費の負担も低減化している。

 常に売れるものを並べて、限られたキャパシティを有効活用できるよう、多頻度小口配送の物流で対応している。そして、利益を享受し合う本部と加盟店が、お互いの思惑を合致させ、経営理念共同体として強固な関係を維持している。

◆もはやトレンドの発信地ではない

 粗利益の3~4割のロイヤリティを本部に支払う加盟店との良好な関係が、店を利用する客層の変化に対応していけるだろうか。今までは、そこまで負担しても採算が取れる費用構造だったが、今後も大丈夫とは言い切れなくなり、本部も危機感を抱いている。 

 コンビニは情報機能も有しており、トレンドを知るにはコンビニが最適だったが、スマホの普及でいつでも豊富な情報が入手し放題の環境が整っている。少しでも出費を抑えたいから、時間を節約できるコンビニよりも、安くて商品内容は充実したスーパーに時間をかけても行く人が増えている。

 高齢化社会の中、遠くに買い物に行けない一人暮らしの高齢者が行く店にコンビニがなりつつあるのは、彼らの思惑とは合致しないだろうが、致し方ない。各社の今後の戦略を注視したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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