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利回りマウント、元本7割保障etc. 投資詐欺にひっかからないためには「投資の常套手段を知れ」

日刊SPA! 2024年6月23日 8時50分

 老後などの将来不安やFIREへのあこがれなどから、投資を始める会社員も少なくない。短期間で多額の資産を増やそうとするがゆえに、時には高配当や元本保証をうたう怪しげな投資商品に騙されてしまうことも……。
 経済学者の上念司氏は、「投資詐欺にひっかからないためには、詐欺のディテールを追うことが必要」と指摘する。

 上念氏の新刊『経済学で読み解く 正しい投資、アブない投資』より、実際の事件を参考にした投資詐欺師のスキームを紹介する。(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)

◆「億単位で足りない」との言葉からはじまった詐欺

 まずはホラーストーリーでビビらせて、ボッタクリ商品を買わせるという詐欺はそこら中に転がっています。たとえば、最近こんなニュースがあったのをご存じでしょうか?

「今の給料だけでは、君の人生にかかるお金をまかなうことはできないよ。億単位で足りない」。埼玉県の会社員男性(27)は2019年10月、知人の紹介で知り合った外資系保険会社員の男にそう言われた。

 男性は当時、社会人2年目で、金融機関で働いていたが、営業ノルマを達成できず職場にもなじめなかった。年収は手取りで約300万円。「投資や副業をやってみたいと考えながら、何も行動できていなかった」と振り返る。

「投資で稼いだ金で高級腕時計を毎月買い替えている」「年収は1000万円を軽く超える」。男の言葉は魅力的だった。海外の投資事情など自分の知らない世界を広げてくれる存在で、「先生」と慕うようになった。

 まもなくして「先生」から紹介されたのが、投資コンサルティング会社「フリッチクエスト」(東京)への投資だった。海外で資金を運用するとして、「月利4%で元本も7割保証される」と勧誘された。

 社員に会ったのは同年12月。「手元に資金がない」と明かすと、「結婚資金」名目で消費者金融約10社から金を借りるよう指南された。言われた通り計1000万円を借りて、フリッチ社の本社に持参した。手数料100万円を差し引いた900万円を投資した。

【引用:「稼いだ金で高級時計」「年収1000万軽く超す」…若者狙う投資詐欺、甘い言葉信じて「後悔」『讀賣新聞オンライン』(2023年6月2日)】

◆ディテールから、投資詐欺の常とう手段を知る

 まるで消費者保護を訴える政府のパンフレットから抜粋したかのような、典型的な詐欺です。大変よい事例なので、「逐条的」に解説しましょう。詐欺の手口の本質を知るにはディテールを押さえるのが一番ですから。

・「今の給料だけでは、君の人生にかかるお金をまかなうことはできないよ。億単位で足りない」。埼玉県の会社員男性(27)は2019年10月、知人の紹介で知り合った外資系保険会社員の男にそう言われた。

 人生に必要なお金を計算させ、いまの年収と比較。これ詐欺師の典型的なセットアップです。ネタとして利用されるのがロバート・キヨサキの著作『金持ち父さん貧乏父さん』(筑摩書房)やそれのゲーム版の『キャッシュフロー』などです。

 これらの媒体を使って、理想と現実とのギャップを意識させたうえで、不足している金額を自分で計算させます。

・男性は当時、社会人2年目で、金融機関で働いていたが、営業ノルマを達成できず職場にもなじめなかった。年収は手取りで約300万円。「投資や副業をやってみたいと考えながら、何も行動できていなかった」と振り返る。
↓ 
 この考えは基本的には正しい。確かに金融機関で働いても将来的な収入は知れています。だからリスクを取って稼ぎたい。ここまでは正しい。

◆稼ぐための手段として本当に適切か?

 しかし、問題はその次です。稼ぐための手段としてこの詐欺商品が適切かどうかよーく考えてみないとダメでしたね。詐欺師は最初からソリューションスペースを狭めて選択を迫ります。その場で決断をせず、セカンドオピニオンも参照すべきでした。

・「投資で稼いだ金で高級腕時計を毎月買い替えている」「年収は1000万円を軽く超える」。男の言葉は魅力的だった。海外の投資事情など自分の知らない世界を広げてくれる存在で、「先生」と慕うようになった。

 高級腕時計、年収1000万円……若い人にとっては非常にわかりやすい「利回りマウント」です。私の知り合いにも600万円の時計を見せびらかしている怪しい団体職員がいるんですが、こういうのとは距離を取るようにしています。間違いなくそういう人は危ない。その時計は借金の塊かもしれない。なんでも素直に信じちゃダメ!!

・投資コンサルティング会社「フリッチクエスト」(東京)への投資だった。海外で資金を運用するとして、「月利4%で元本も7割保証される」と勧誘された。

 はい、出ました! 「利回りマウント」と呼ばれるテクニックです。仮にこの被害者がインデックス投資などまともな投資をしていた場合でも、「え? そんな利回りで満足なんですか?」「うちだったら軽く月利4%で回りますよ」とマウントを取ってくるわけです。

◆「利回りマウント」に釣られた時点で相手の術中

 そんなショボい利回りに満足しているから年収少ないし、高級腕時計も買えないんだと。もちろん、その利回りは噓。でも、ここで釣られちゃう人が多い。

 だいたい、月利4%の投資なんてどんだけリスク取っているんだと。日経平均に含まれる225銘柄の優良企業ですら、平均配当利回りは1.64%(予想、2024月9日現在)ですよ。月利で4%なんて危ない商売に決まっているじゃないですか。

 この後の展開は推して知るべし。被害者は、投資から約2年経った2022年1月に突然、メールで配当停止を告げられました。詐欺あるあるですね。利回りマウントに負けた時点で勝負はついていました。

◆「師匠」「先生」の利回りマウントや「元本7割保障」が詐欺の王道

 まずこの手の詐欺では、「師匠」とか「先生」と呼ばれる謎の上級会員を紹介するのが王道です。そして、そこから利回りマウントの飽和攻撃。あなたのやっているまともな投資法に対して「え? その程度の利回りで満足ですか?」とありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてきます。

「うちなら年利20%で回りますよ」とか、「月利5%とか余裕でしょ」とか、あり得ない数字が飛びます。この年利20%と月利5%というのが詐欺師の常套句です。今回紹介したケースは月利4%なので、詐欺師としては控えめかもしれませんね(笑)。

 あと、元本7割保障といった相手を安心させる話はだいたい噓です。元本保証について詐欺師はだいたい7割から9割ぐらいのレートを提示することが多いようです。さすがに100%と言うと噓っぽいので、事故っても死にませんといった程度のやや控えめな数を見せて安心させます。

 しかし、もちろん彼らに保証なんてできるわけがありません。そもそも、消費者金融で借金させて入金させられる時点でなにかが違うって気づけよ! 

◆詐欺はかかわる人すべてを不幸にする

 あと、詐欺師は被害者を増やせるだけ増やして最後に逃亡します。なので、被害者が増えている間はちゃんと配当をしてくれることが多いです。カモ釣りが終わるまでの間、カモに騒がれたら困るじゃないですか。

 そして、だいたい2年でカモは枯渇します。その時点でこの手の詐欺会社は破綻し、主催者は逃亡します。

 さらに残念なことがあります。破綻までの間に騙された被害者が加害者となってほかの人を勧誘していたりするんです。関わる人すべてを不幸にする。詐欺は本当に恐ろしいですね。

<文/上念司 構成/日刊SPA!編集部>

【上念司】
1969年、東京都生まれ。経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。リフレ派の論客として、著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中

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