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ラーメン業界“閉店ラッシュ”の中で店舗を増やし続ける「丸源ラーメン」。圧倒的な成長を可能にした強みとは

日刊SPA! 2024年6月26日 8時53分

 コロナが収束し人流が復活したのに、物価高・エネルギーコストなどあらゆるコストの上昇などで、ラーメン店の倒産が増えている。東京商工リサーチの調査によれば、2023年度に倒産したラーメン店の件数は過去15年間で最多だ。
  ラーメン市場(2023年)は6000億円市場と推計され、回転寿司市場(7350億円)を下回るが、多くの人に好まれる国民食であり、今後も増加傾向が続くと推計される。だが、一方で、需要の割に競合店が多く、競争が激しくなっている。資本力があり、合理的な仕組みを確立して「ラーメンの壁1000円」を払拭するラーメンチェーンに、資本力が脆弱な小規模個人店が立ち向かうのは、難しいのが実情だ。
 
◆丸源ラーメンの勢いが止まらない

 この厳しい環境下で店舗数を年々増やしており、現在(2024年6月)で全国211店舗を展開しているのが「丸源ラーメン」(物語コーポレーション)だ。店舗数の伸びが鈍化しているラーメンチェーン店の中で店舗数が前年比2桁成長と、群を抜いている。

 たまに、出店数の急速な増加は、資金繰りに苦しむ企業が、最後の手段で講じるオープン景気の現金回収を目的にするケースもあるが、自己資本比率がほぼ50%と、財務基盤が盤石な物語コーポレーションの傘下だから問題はなく、中長期視野に基づく成長戦略の一環で攻めの出店である。

 丸源ラーメンは、物語コーポレーションのコア事業である焼肉きんぐに次ぐ成長分野のラーメン部門で、焼肉きんぐに次ぐ店舗数を誇っている。この店のラーメンは標準化が普通のチェーン店でありながら、筆者の周囲でも「無難な味とは一線を画したラーメン」だと美味しさを評価されている。

◆丸源ラーメンの売上は前年比2桁成長

 ラーメン部門の店舗数は211店舗あり、そのうちフランチャイズは100店舗以上ある。コア事業であり焼肉業界No.1の称号を持つ「焼肉きんぐ」のブランドを、最大限に活用しながら、丸源ラーメンの認知度を高めている。

 業績を見てみよう。物語コーポレーションは部門別の売上を公表していないため、前年比で丸源ラーメンの成長率を記載すると、売上は好調を維持しており、前年比2桁成長である。

2023年6月期決算:売上123.7%、客数118.6%、客単価104.3%
2023年7月~2024年3月決算:売上112.6%、客数107.8%、客単価104.5%

◆ロードサイドを中心としながら駅前にも出店

 丸源ラーメンの認知度を高め、物語コーポレーションはブランド力をさらに強化するために、新たなチャレンジとして、出店戦略を見直すようだ。従来の郊外ロードサイドを中心としながらも、駅前立地に積極的に出店する体制を構築する。

 新規顧客開拓に力を入れると共に、人通りの多い場所に出店することで、ブランドの認知度を高め、ブランド全体への波及効果を期待する。これは将来的に立地の偏在性を解消し、立地で生じるリスクを分散させる狙いもありそうだ。2024年度株主総会で使用された決算資料によると、同社ではモデル店舗として、

店舗面積:約45坪
卓数:15卓58席
想定客単価:1000円

を掲げている。他店と比べるのは難しいが、一般的に賃料の高い駅前立地で、最適な採算性を考慮した規模だと思う。コンビニの1.5倍の大きさは、ラーメン客だけでなく、家族客や飲み客も誘致できるほど、カウンター席とテーブル席の適切なバランスを維持できる。固定費(家賃など)と変動費(効率的なオペレーション、利益最大化のメニュー構成から売上の増減で発生する費用)の適正化から、モデル店舗として設定したのだろう。

◆アプリのダウンロード数250万DLを突破

 今後の労働力の減少も想定してDXを推進。注文はタッチパネルで、会計はセルフレジにする。あとは段階的に効率化に向けて、デジタル機器を活用しながらオペレーションの省力化・自動化を進めていくようだ。

 同時にメニューアイテムの見直しも進め、煩雑な作業の改善や在庫管理の削減にも注力するようだ。

 また、丸源アプリのダウンロード数が250万を突破したことを契機に、顧客の有効活用策を積極的に実施し、顧客の囲い込みに注力するようだ。顧客の来店効果が見込める付加価値の高い期間限定商品を現状の年5回から8回に増やして、来店頻度のさらなる向上を図るようである。

◆店舗数2桁成長を可能にした強みとは?

①価格と品質のバランスが取れた商品力

 丸源ラーメンの看板商品である肉そば(税込759円)および、他の醤油ラーメン・味噌ラーメン・担担麺なども1000円以下でありながら、充実した内容と品質である。平日ランチであれば、人気の鉄板玉子チャーハンも追加料金220円(税込)でセットにできて合計1000円以下で食べられるといったお得感一杯である。

 飽きやすく惚れやすい日本人特性の好奇心をくすぐった企画の提案で再来店を促している。その結果、お客さんの来店頻度も高く、顧客基盤は盤石で、売上の予測が立てやすく、売上管理も容易なようだ。

②効率運営を重視した販売力

 ラーメンチェーン店の多くは、セントラルキッチンで、食材を大量に仕入れしてコストダウンを図る。麺・餃子・チャーシューなどの大量生産によるスケールメリットも発揮して、品質向上とローコスト化に取り組み、規模の経済を実現している。チェーン企業として全体最適化を念頭に、積極的な多店舗展開とドミナント出店を実現している。セントラルキッチンの稼働率向上による原価率低下と現場調理の負担軽減に貢献している。そして、ドミナント出店により、物流コストの低減も実現できている。

 また、丸源ラーメンの採算を推計すると、ランチ時の1人客が座るカウンター席の回転率は2.5回転であった。この店は料理提供も早く、20~25分間隔でお客さんが入れ替わる。粗利益も十分確保した価格設定になっており、これだけ効率的(粗利益×客席回転率)に入ると、経営は盤石だ。人員も機会損失を回避することを重視したシフト管理になっており、昼のピーク時はキッチン5人、ホール5人と万全な体制で溢れるお客さんを手際よく捌いている。

◆二代目丸源、きゃべとん…新業態の開発も

③標的顧客のニーズに合致した業態開発!

 標的顧客への対応を強化し規模の経済も発揮。周辺顧客も吸引し、一定程度のボリュームが望めるならそれらに対応した業態を開発し取りこぼしがないように徹底している。物語コーポレーションのラーメン事業の中で、コア店舗である丸源ラーメンは、ご家族連れ向けに適した業態であり、その丸源ラーメンのコンセプトを踏襲しながらもより高い専門性を打ち出している。

 ラーメンマニアから家族連れまで幅広い顧客層を標的にした店づくりの「二代目丸源」、ラーメンマニアをターゲットの選定した小型店の「熟成醤油ラーメンきゃべとん」など、新業態の開発だ。市場を細分化し、ターゲット客を選定し、その中で自店の立ち位置を明確にするなど、マーケティングの強化にも力を入れて、市場の棲み分けを行いながら新たな業態を順次投入している。

◆店舗経営に重要な「顧客生涯価値」とは?

④顧客基盤の盤石化

 丸源アプリが好調でダウンロード数が、昨年末に250万を突破するなど、顧客の囲い込みにも成功している。市場の将来予測に基づくと、インバウンド効果は安定しているだろうが、人口減少や少子高齢化でラーメンの喫食人口の減少は回避できない。

 新規顧客獲得のコストが高くなる中、既存顧客の来店を促し、その顧客が生涯にわたり自店で消費してもらえるようににブランドロイヤリティ(忠誠度)を高める「顧客生涯価値(LTV・ライフ・タイム・バリュー)」の取り組みをを実施している。その結果、囲い込んだ顧客に、強みである顧客提供価値を高めた施策を持続的に実施し、顧客満足度を高められている。

⑤一体感のある現場運営力

 丸源ラーメンは店に清潔感があり飲食店基本の衛生管理が徹底されており、快適な雰囲気の中で美味しく食事ができる。店に清潔感があり、快適な雰囲気の中で食べられる。Q(品質)S(サービス)C(クリンリネス)は飲食店にとって最も大切な管理項目であり、徹底しなければ顧客離反の元凶となるが、全く問題なく徹底されている。

「店は人なり」は労働集約型の産業である外食では強く意識しなければならない。人の良し悪しで、同じ看板・同じ商品・同じ運営マニュアルを使用しても、マーケット指数の差は別として業績に明確な差が出るものである。特に店長の仕事に対する姿勢や熱意・手腕・人格で各店に差がつくものだ。店の雰囲気やお客さんに向かっていく姿勢は本部から店を任せられている店長次第で大きく変わる。

◆今後は追加注文を促し、単価を上げる政策も

 物語コーポレーションのラーメン部門は、中核である丸源ラーメンを中心にして、市場ごとに異なるブランドを展開して市場の棲み分けをし、本格的にラーメン事業を展開する体制は整備されている。各店舗の運営状態は、売上構成比は昼65%、夜35%くらいで、やはりラーメンだけに昼の需要が高いようだ。

 しかし、丸源ラーメンは餃子や唐揚げなどの一品料理も充実しており、夜の時間帯に飲み客を誘致し、締めのラーメンを提供できれば、この構成比を変えることも可能だろう。現在、駅前立地への出店にチャレンジしているようだが、これを成功させるために、限りあるキャパシティを有効活用しなければならない。

 客席回転率の向上が望める時間帯は別として、お客さんの滞留時間を延ばし追加点数を増やして客単価を上げるのも必要だ。ラーメンだけでなく、ちょい飲みセットを用意し、ビール、唐揚げ、餃子、逸品メニューなどの追加注文を促し、単価を上げられるような店舗政策が求められる。効果と効率の対立軸を考慮しながら、顧客満足に向けた政策が必要だろう。

◆今後のラーメン市場から目が離せない!

 出店したい業態としても人気のラーメン店。新規参入が他業態に比べ初期投資額が低く、参入障壁が低い半面、商圏内での同業店舗の乱立で同業者競争が激しく、また、他業態店との競争も加わり、限られたパイの奪い合いが激しく、レッドオーシャン化が進んでいる。

 しかし、外食産業はゼンショー、マクドナルド、すかいらーくの上位3社で70%を占める寡占化状態の一方で、ラーメン業界は上位3社(餃子の王将、日高屋、幸楽苑)で占有率は8%しかなく混戦状態である。現在、店舗数9位の丸源ラーメンもこの勢いをさらに強化すれば、上位3社内に入れる営業基盤は有している。

 コロナが収束し、人流が復活し、インバウンド効果で外国人旅行者も増えてきている中、日本のラーメンは外国人旅行者にも人気で需要は伸びている。そのチャンスを収益に繋げてさらなる成長を期待したい。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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