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みなみかわの活躍、元相方の“本音”「テレビに呼ばれる/呼ばれない芸人」を見て思うこと

日刊SPA! 2024年6月30日 8時51分

 かつて芸能界で売れようと闘っていたが、あることをきっかけに引退し、新天地で新しい花を咲かせようと奮闘する人がいる。今年、所属事務所を離れてフリーランスに転身したピン芸人のみなみかわさんの元相方で、元ピーマンズスタンダードの吉田寛さんは、2019年にコンビ解散と同時に芸人を引退。テレビ番組の制作会社に転職し、AD・チーフADを経て、現在はAPを務めている。
 前回のインタビューでは芸人をやめて裏方にまわった理由などを聞いたが、インタビュー後半ではやめたからこそわかる人気芸人の秘密を聞いた。番組制作6年目を迎えた吉田さんの現在地とは?

◆裏方に回ってわかった、自分たちがテレビに呼ばれなかった理由

――YouTubeなどのセルフメディアが発達していますが、いまだにテレビの影響力は大きくて、出たい芸人さんもたくさんいると思います。テレビに呼ばれる芸人さんの特徴はあるのでしょうか?

吉田寛(以下、吉田):身も蓋もないことを言いますが、「台本を守る」芸人ですね。特に、昨今増えている情報バラエティ番組の場合は、伝えたい情報を絶対に言ってもらわないと困ります。台本通りだと面白くないからって無理やりしゃべらなくていいですし、強引にボケなくてもいいです。

 もちろん、芸人として爪痕を残したいのもわかるんですが、制作側としては、台本にある情報はきちんと伝えてもらい、その上でボケてもらえると嬉しいですね。

――言ってしまえば、「台本=番組の命」みたいなものなんでしょうか?

吉田:その感覚に近いかもしれないですね。というのも、ディレクターが何週間もかけて何回も書き直して、総合演出のチェックを受けて、やっとの思いで仕上げた台本なのに、本番で芸人が台本と全く関係ないことをしてしまう。何とか頑張って編集するけど、仕上がったVTRを見た総合演出から「台本通りになっていない」と指摘される。そこで、「実は、その映像・セリフは撮れてないんです」と伝えると、ディレクターの能力が問われてしまうんです。

 もし、ランジャタイさんみたいに個性的なキャラがちゃんと浸透していて、演出的にもそれでOKとなっていれば問題ないんですが、それは本当にレアケースです。ピーマンズスタンダードは台本通りにできなかったから、2回目のロケの仕事が来なかったんだと、裏方に回ってすぐに分かりました。

◆伝説のロケの達人に「鳥肌が…」

――吉田さん的に、ロケがうまいと思う最近の芸人さんは?

吉田:いろいろ思い浮かぶ人はいますし、ぶっちゃけ番組のカラーによっても求められる素質は違ってくるんですが……。僕が見てきた中では、鬼越トマホークさんですかね。破天荒なようで、実はロケをちゃんとやってくれます。見てて、「そりゃ呼ばれるわ」と思いました。

あと、すごすぎて鳥肌が立ったのは彦摩呂さんです。まず、大きな声で「今日呼んでくれてありがとう!」って現場に入ってくるんです。食べてる時も、「美味しい!カメラさんも食べたそうにしてるやん! ADの子も(仕事の手)止めて、食べ食べ!」ってまわりを巻き込んでいくんです。芸能界が華やかだった頃にデビューされてるからか、現場での振る舞い方が、僕らの世代と全然違うんですよね。上手くまわりを巻き込んで楽しい空気感を作るから、いい仕事ができるんだなと、あの時は震えました。

◆テレビに呼ばれるイレギュラータイプの芸人

――最近だと、安田大サーカスのクロちゃん、女芸人のやす子さんをテレビでよく見る気がします。

吉田:クロちゃんは松竹の先輩ですし、今でもたまに飲みに行かせてもらいますが、確かに驚きました。完全に『水曜日のダウンタウン』(TBS系)という番組との出会いがあったからでしょうね。

 昔からよく遊んでもらってたんで、SNSに「今から歩いて帰る」とアップしながら、実際はタクシーで帰ってるなどの小さな嘘をついてることは、かなり前から知っていました。それを「水ダウ」のスタッフが見つけて、番組で大々的に扱って、クロちゃん専用の説明書を作ってくれたんですよね。

 この説明書作りが大きかったですね。そのタレントの扱い方が分かると、他の番組が「うちでも、こういうことをやってほしい」となるので。

――やす子さんはいかがでしょう?

吉田:やす子さんとは、まだ一緒に仕事をしたことはないんですが、明るくて真っすぐで、努力する姿がキレイに映る人だと思います。テレビ番組って、基本的には台本通り進行するんですが、そんな中でも苦労や努力しているシーンを撮りたいというのもあるんです。

 苦労しているシーンを撮るためには、芸人に色々とリクエストしないといけません。言い方を変えると、追い込まれないといけない。それに素直に応えてくれるので、色んな番組が「やす子さんにロケをしてほしい」と思うのでしょう。「番組との出会い」「番組の求めるものに素直に応える」というのも、テレビに呼ばれる芸人の特徴でしょうね。

◆フリーの芸人が気を付けたいのは?

――元相方のみなみかわさんもですが、フリーになる芸人さんが増えましたね。

吉田:めちゃくちゃ多いですね。昔は、まずテレビに出て知名度や人気を高めていった先で、営業なんかの仕事が入ってくるという稼ぎ方でしたが、今はYouTubeとかを使って自分たちで稼げるようになりました。なので、「僕らはテレビに出なくていいです」という人が増えるのも自然な流れだと思いますし、事務所に所属する必要もないと思う人もいるでしょうね。

 フリーになるかならないかは、個人の考え方によるところが大きいので、「事務所を辞めなきゃいいのに」とも、「フリーになったほうがいいのに」とも思わないですし、アドバイスもできないです。例えば、さらば青春の光は早い段階で自分たちの事務所を立ち上げて、それで上手くいっていますよね。正解がいくつもあるんで「コレが正しい」というのはないでしょう。

――制作側からすると、もはや事務所の大きさはあまり関係ない感じですか?

吉田:個人的には、そんなに重要ではないと思います。こちらとしては、本人とは別にマネージャーみたいな人が付いていて、スケジュール管理などのマネジメントをしっかりしてくれてさえいれば問題ないです。あと、ダブルブッキングにも気を付けてほしいですね。放送日の裏被りとかもそうです。

◆確実に仕事が増えるアドバイスとは?

――フリーになった芸人さんへのアドバイスはありますか?

吉田:個人なので、トラブルを起こした後に守ってくれる人はいないかもしれない。そう思いながら、まわりの共演者と上手くやっていくことを心がけていれば、あまり心配はないんじゃないですかね。

 あと、連絡のレスポンスは早いほうがいいです。現場の人間はすごく助かるので、確実に仕事が増えると思います。

◆「みなみかわよ、もっと売れてくれ!」

――ちなみに、最近のみなみかわさんのご活躍ぶりはどう見られていますか?

吉田:正直、最初は複雑でしたね。「もし、解散してなかったら」と思ったこともありました。でも、それは「たられば」であって、みなみかわが売れはじめたのは、ピンになった「結果」なんですよね。反対に解散してなかったら、2人ともずっとあがき続けてたかもしれません。

 それに、初対面の人に「みなみかわの元相方」と紹介されるだけで、すぐに色々理解してもらえるんですよね。中には「システマ見てました」と言われることもあります。だから今は、「もっともっと売れてくれ!」と思ってます(笑)。応援してるんで、もっともっと頑張ってください!

<取材・文/安倍川モチ子 撮影/川戸健治>

【吉田寛】
1979年生まれ、2013年松竹芸能入社。2005年7月に南川聡史さん(現みなみかわ)とピーマンズスタンダードを結成し、数々のライブやテレビ番組に出演。2019年2月に解散。松竹芸能を退社し、テレビ番組の制作会社に入社。現在は株式会社ディ・コンプレックスでAPとして『坂上&指原のつぶれない店』(TBS系)などを担当

【安倍川モチ子】
東京在住のフリーライター。 お笑い、歴史、グルメ、美容・健康など、専門を作らずに興味の惹かれるまま幅広いジャンルで活動中。X(旧Twitter):@mochico_abekawa

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