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アルファード、ランドクルーザー…相次ぐ「自動車盗難被害」の現状と対策は?トヨタの公式見解も

日刊SPA! 2024年7月1日 15時52分

 自動車の盗難事件が社会問題になっている。令和3年は5182件、4年は5734件、そして5年は5762件と事件数は増加の一途を辿る。とりわけ、アルファードやランドクルーザーといったトヨタ車の盗難被害が多く、芸能人や政治家の被害も度々ニュースで報道されている。
 盗難被害が増えている現状や、犯行の実態について、カーセキュリティ専門ショップ「A2M」代表の撹上(かくあげ)智久さんに話を伺った。

◆盗難車は解体され「部品」として海外へ

 自動車の盗難被害が増加している背景について、撹上さんは「圧倒的に海外へ輸出されるケースが多い」と述べる。窃盗グループは自動車が欲しくて盗んでいるのではなく、資産価値の高い自動車を盗み、海外で換金することが大きな狙いになっているわけである。

「盗難被害に遭ったドライバーは必ず警察に連絡するため、盗難した自動車をそのまま日本で乗ることはまずあり得ません。検問で引っかかる可能性もあるし、車検にも出せない。一部、車体番号を偽造して他の車として国内で乗っているケースはありましたが」(撹上さん)

 盗難車は外部の目が届きにくい「ヤード」と呼ばれる施設で解体され、「部品」という名目で海外へ輸出される。

「盗難車なので、『自動車』という名目でまるごと海外輸出するのは難しいんです。解体された部品はそのまま使われる場合もありますし、組み立て直して販売することもあるようです」

◆盗難から輸出までの凄まじい犯行スピード

 また、窃盗グループは「闇雲に犯行を行っているのではない」と撹上さんは続ける。

「当店の周辺でも、2~3人の外国人が自動車に乗って、住宅街を徘徊する様子を見かけます。需要の高いアルファードやランドクルーザーがどの住宅にあるかチェックしていているんですね。海外から注文が入ったら、事前に把握している場所で迅速に盗む。極めて用意周到に準備しているのです」

 このような動きが活発化しているのは、ヤード条例を制定する自治体が増えていることに起因する。今までは令状がないと、警察官がヤードに立ち入ることができなかったが、怪しい動きが見られた場合には、任意で警察官が立ち入れるようになった。

 そこで、窃盗グループはヤードに盗難車を保管しておく時間を極力短くするために、海外からの注文が入ったのを合図に自動車を盗むようになった。ヤードで解体作業をしてから海外へ輸出するまでの犯行スピードが速いため「一度盗難された車の発見は難しい」という。

◆次々に生み出される”デジタル”な盗難手口

「盗難手口のデジタル化」も自動車盗難件数の増加を促す大きな要因だ。

 スマートキー(電子キー)から発する微弱な電波を特殊な機器を用いて数人で中継し、自動車のドアロックを解除する「リレーアタック」や、自動車制御システムをハッキングしてカギの解除やエンジンの始動を行う「CANインベーダー」などの盗難手口が多発している。

 また、最近では「キーエミュレーター」(通称 ゲームボーイ)と呼ばれる車両盗難ツールが新たな手段として台頭してきた。車両から発するスマートキーの電波を利用し、わずか1~2分で「合鍵」を作成してしまう最悪の”優れもの”だ。

「数年前までは、CANインベーダーが主流でしたが、現行のランドクルーザー300やアルファード、ヴェルファイアなどはトヨタがセキュリティ対策を行ったため、CANインベーダーの手口で盗もうとすると警報音が鳴るようになりました。

 そこで窃盗グループが開発したのがゲームボーイです。盗難被害に遭った方から事情を伺うと『全く警報音が鳴らずに盗まれた』という声が増えています」

◆盗難対策に必要不可欠なカーセキュリティの取り付け

 盗難対策は「自動車の購入後にカーセキュリティを取り付けること」が最も有効だ。カーセキュリティを専門とした事業を19年間行ってきた撹上さんは3000台以上の施工を手がけてきたが、盗難被害に遭った車は1台もないという。

「弊社では、デジタルの盗難手口に対して『アナログ』で対策します。一度エンジンを始動するための回路を切り、所有者のキー以外で解除されない回路で繋ぎ直すのです。もし、純正のロックが解錠されドアが開いてもサイレンが鳴りますし、エンジンが掛かることもありません」

 数年前までは「セキュリティなんて付ける必要がない」という風潮が当たり前だったという撹上さん。しかし、盗難被害の増加に伴いドライバーの意識も変化してきている。

「弊社への相談件数は増加していて、電話を切ると、また鳴るような状態です。取り付け作業をお待ちいただいているお客様は300人を超えていて、施工の予約は約1年ほど先になってしまっています。セキュリティを専門とする業者はまだ少なく、供給が足りていません」

 取り付け作業を待つ約300人のうち、約120人がランドクルーザー250のオーナーだという。それ以外も、ランドクルーザー300やアルファード、ヴェルファイアといった車種であり、ほとんどをトヨタ車が占めていることになる。

◆トヨタ広報も「セキュリティ対策の複数実施をおすすめします」

 トヨタ車の盗難被害が相次いでいることについて、トヨタ自動車の広報に問い合わせてみると、「お客様のお車が被害に遭うことは、我々としても大変心の痛む事態」だとし、次のような回答が寄せられた。

「車両の防犯に対しての基本的な考え方は、車両側の対応を随時アップデートさせていくこと。そして、盗難防止機器に関する情報の提供や販売店での販売などの推進です。

 ただし、盗難防止には絶対の対策はないのが実情であり、ウェブサイト等にて公開しているような、カーライフを安心・安全に送るためのセキュリティ対策を複数実施いただくことをおすすめしています」(トヨタ広報部 担当者)

【クルマのいろは】自動車盗難防止対策に有効な盗難防止機器いくつ知ってる?
トヨタ自動車公式サイト「安心・安全」
コネクティッドサービスT-Connect マイカーSecurity

 度重なる自動車の盗難被害。盗まれないための予防策を、あらためて見直してみるのがいいかもしれない。

<取材・文/古田島大介>

【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている

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