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「鰻の成瀬」社長が語る驚きの経営戦略「鰻に触ったこともないし、究極の美味しさも求めていない」

日刊SPA! 2024年7月3日 15時53分

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

 鰻専門のチェーン店「鰻の成瀬」の勢いが止まらない。’22年9月に1号店を創業すると驚異的なスピードで店舗を増やし、’24年7月には200店と日本一の鰻チェーン店となる。本格的な鰻重を安価に提供し(うな重の梅で1600円、もっとも高い松でも2600円。ともに税込)、業界に風穴を開けた同店を率いるのは、フランチャイズビジネスインキュベーションの山本昌弘代表だ。
 だが、外食チェーンでは焼き牛丼の「東京チカラめし」や立ち食い業態の「いきなり! ステーキ」など、急成長後に失速した例は枚挙に暇がない。果たして死角はないのか。飲食業界の広範な知見と軽妙な語り口で知られる外食コンサルタント・永田ラッパ氏が鋭く迫った。

◆鰻は世界一になりやすい食ジャンル

――絶好調ですね。鰻チェーン店で日本一ということは、事実上、世界一でしょ?

山本:もう世界一になってますよ。というか、それほど世界一になりやすいのが鰻という食ジャンルでした(笑)。

――創業1号店も最寄駅から徒歩10分以上の住宅街に出店してます。

山本:ラーメン店やカフェなら駅前の一等地でないと難しいけど、鰻店は飲食業の中でも立地条件が関係しない珍しい業態なんです。家賃など初期投資を抑えられ、スピーディな出店が可能になる。

 それに、2000円という高額な値段でも、鰻は安いと思ってもらえる特殊な業態でもある。さらに、一食5000円超の老舗鰻店は一見さんにはハードルが高く、固定客で回っている店がほとんど。老舗の固定客以外の層にウチが得意なウェブマーケで集中的に広告を打てば、一気にシェアが取れると考えました。

――とはいえ、鰻は「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」と言われる職人の世界。調理法はどう確立したんでしょうか?

山本:職人ではなく、調理器が鰻を焼くので素人でも問題ない。ボタンを押すだけです。職人に頼らないオペレーションをノウハウ化してきました。今は、鮨屋でも3か月で職人になれる学校もあるし、似たような話です。

 こだわりの食材を年季の入った職人が作るうな重を好む人は当然いるし、素晴らしい文化だと思いますが、そこには5000円以上の価値を見いだす人が行けばいい。ウチは価格を抑えて、身近に鰻を楽しんでほしいという思いで営業してます。

◆「究極のおいしさ」は実は求めていない

――より安価な「宇奈とと」があり、牛丼チェーンでもうな重を低価格で提供している。

山本:正直、「安くてもおいしい」という声はあまり聞かない。ウチでは比較的おいしい鰻を提供できる自負がありました。鰻は専門店であることが重要。牛丼チェーンはあくまでも牛丼屋で、オプションで鰻も出している。競合とは思っていませんでした。実際、ウチのお客様が低価格のみを求めているのかといえば、一番注文が多いのはもっとも高い「うな重・松」です。

――直球で聞きますが、山本さんは飲食業の経験もなければ、飲食への愛も感じない。鰻にもあまり興味ないですよね?

山本:はい。厨房もわからないし、鰻に触ったこともない。正確に言えば、飲食に興味がないというよりは、究極的においしい食を出そうという意識がないんです。それより、フランチャイズ(以降、FC)ビジネスを通して、携わった人々が幸福になることに関心がある。

――正直すぎますよ(苦笑)。ちなみに、一番好きな食べ物は?

山本:……果物です。

――そこ、「鰻」って答えるとこじゃないですか!

山本:ハッ!?(苦笑)

◆「人と同じ」が大嫌い。イタリアへ語学留学

――旧来の経営者とは一線を画す、山本さんの率直な〝放言〟は、時に批判を呼ぶこともあります。こうした性向は生来のものなんですか?

山本:もともと人と同じことをするのが大嫌いで、高校卒業後、イタリアに留学しました。当時、英語って誰でも話せると勘違いしていて、英語圏に留学しても特別感ゼロだし、メリットがないと思ったんです。普通に日本の大学に進学すると、上下3歳くらいのコミュニティで生きていくことになる。

 でも、イタリアにやってくる日本人は、30歳前後の人が多く、星付きレストランで修業してハクをつけたい料理人、本場で修業して音楽で食べていきたいオペラ歌手、ヨーロッパ建築を学ぶ建築家……プロフェッショナルな大人ばかり。でも、彼らは一回りも年下の僕を子供扱いせず、対等に接してくれた。

――ところが、留学を終えて帰国後、普通に就職してます。

山本:特別性を身につけるために留学したのに、帰国してみると日本にはイタリア語を生かせる場が全然なかった(苦笑)。ただ、イタリアで知己を得た人たちとの交流は続いていました。彼らはプロなので、個人として仕事をするいわば一国一城の主。僕も早くそうなりたいと、独立志向がより強くなった。

◆将来の起業を胸に、FC業界を歩む

――将来の起業を胸に、英会話スクールのECC、ハウスクリーニングのおそうじ本舗と、一貫してFC業界を歩みます。

山本:ECCは、実は収益の柱はECCジュニア(子供向け英会話教室)。つまり、FCなんです。ここでFCビジネスに興味を持って、26歳で転職したおそうじ本舗では、FCビジネスの入り口から出口までのすべてを学んだ。当時20代後半でしたが、100以上の店舗を担当し、加盟店の解約率を1割以内に収めることができました。

――給料もポジションも上がったんですよね。

山本:給料だけはバンバン上がったものの、自分には、社会適応能力があまりないので出世はできなかった(苦笑)。結果さえ出せばいいと思っていたんですが、日本の会社は結果より和を重んじる企業風土。中間管理職が評価してくれず、出世は叶わなかったんです。

 ところが、会社が海外のファンドに身売りするや、一気に管理職に抜擢された。よしよし! このまま行くぞ、と思っていたら、今度は国内ファンドに会社が売られてしまい、また出世がピタッと止まった……。サラリーマンとして働くのに、日本は僕に合わなかったんです。

◆飲食への愛はないが、FCへの愛はある?

――僕もそうなんですが、経営者って社会に適合できないから自分で会社を起こしている(笑)。それで独立・起業するに至ったんですか?

山本:当時、多くのFC本部では、加盟店が潰れては契約を取っての繰り返し……。「スクラップ&ビルド」と言われ、働いていたFC本部もあしきFCといった扱いでした。成績も結果も出していたので、FCのサポートをすれば不幸になる人々が生まれてしまうのを、ある程度は防げると思ったんです。

 ただ、一方で僕は、FC本部が加盟店の面倒を見ないから悪いとも、加盟店の努力が足りないから悪いとも思っていない。たいてい両方に悪いところがあるんです。

――飲食への愛はないが、FCへの愛はある。でも、義理人情とは別物。結局、FC本部と加盟店が適正な関係を構築して、最適解の営業をすることがFCビジネスの成功……そう考えているだけなのでは? 

山本:その通りです。僕、若干サイコパスなので、共感力が弱い(苦笑)。でも、僕、滋賀県出身なので、近江商人の経営哲学「売り手よし、買い手よし、世間よし」の“三方よし”には共感する。詰まるところ、それが一番合理的なんですよ。

◆目標は300店!達成の暁には売却も!?

――欧州はウナギの輸出を禁止し、米国も捕獲規制を厳格化。中国の養鰻業者も歩留まりが取れず、撤退するケースが増えている。ウナギの供給不安がくすぶっています。

山本:養鰻場は「供給量を明示すれば、出荷する」と約束してくれているし、さほど悲観してません。現在はニホンウナギが主ですが、他の品種にもメニューを広げようと考えてます。

――さらなる成長を目指して、出店の目標はどの程度?

山本:ひとまず300店を目標に置き、達成したときに市場が残っているか判断するつもりです。そもそもウチのオペレーションは簡単なので、すごくパクりやすい。だから、鰻の外食市場で勝つには、さっさとシェアを取ってしまえば競合は参入しにくい。そのための出店スピードなんです。

――ほとんど報じられていませんが、「鰻の成瀬」自体、別のFCに加盟した業態ですよね。

山本:はい。現在のオペレーションも、別のFCの使用権を買いました。大元のFCは鰻を卸し、ウチはオペレーションや集客の後方支援を担っています。

――ならば、今後、「鰻の成瀬」のバイアウト(創業者による事業売却)を考えているのでは?

山本:「鰻の成瀬」でFCビジネスを上がるつもりはないし、当然、考えてますよ。ただ、売却したFCが悪い状態にならないように思案している。加盟店が利益を生み、営業を続けられる環境を整えたら、初めて全FCの売却を考えます。
 
 日本では急成長したFCの創業者が、事業を売り抜けて、加盟店のことなんて知らない……ということも珍しくない。でも、そんなことをしたら次の事業を立ち上げるときにメチャクチャ苦労するし、後ろ指をさされながら生きていくことになる。僕はそんな人生を送りたくないんです。

【Masahiro Yamamoto】
1983年、滋賀県生まれ。ECC、おそうじ本舗を経て、フランチャイズビジネスインキュベーションを起業。代表取締役。鰻の成瀬のほか、ドライヘッドスパの癒し~ぷ、療育専門の放課後デイサービス・ブロッサムジュニアなどはフランチャイジーとして運営を手がける

取材/永田ラッパ 構成/齊藤武宏 撮影/恵原祐二

―[インタビュー連載『エッジな人々』]―

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