Infoseek 楽天

2024夏ドラマ“見逃したくない作品”5選。「期待度の高い社会派ドラマ」が揃いぶみ

日刊SPA! 2024年7月3日 15時50分

夏ドラマが始まった。民放のプライム帯(午後7~同11時)に計16本。その中で特に期待度の高い作品5つをテレビ取材歴30年以上の放送コラムニストが紹介する。
◆『新宿野戦病院』
(フジテレビ・水曜午後10時)7月3日スタート

 東京の新宿・歌舞伎町にある小さな病院を舞台にした物語。脚本はクドカンこと宮藤官九郎氏(53)が書き、チーフ監督は『ロケットボーイ』(2001年)でクドカンと組んだベテランの名匠・河毛俊作氏(71)が務める。

 主演は小池栄子(43)と仲野太賀(31)。小池はクドカン作品初出演だが、仲野はNHK連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)以来、クドカン作品の常連である。ほかの出演者にも濱田岳(36)、橋本愛(28)、平岩紙(44)らクドカン作品に慣れた俳優が多い。人間愛をユーモアに包んで描く、いつもながらのクドカン・ワールドを堪能できそうだ。

 歌舞伎町の「聖まごころ病院」に勤務する高峰享(仲野)は金儲けを第一に考える医師だった。だが、急性アルコール中毒で病院に担ぎ込まれたヨウコ・ニシ・フリーマン(小池)との出会いから変わり始める。

 ヨウコは米国で軍医だった。銃弾が飛び交う野戦病院で医療活動に従事していた。来日したのは死んでいった人からメッセージと大切な物を託されたから。享とは対象的に医師の使命は患者を救うことだと信じている。

 ある日の歌舞伎町で外国人男性が銃で撃たれる。しかし、病院に行けない。男性には在留資格がないため、病院に行くと、強制送還となってしまうからだ。

 それでもヨウコは外国人男性を聖まごころ病院に運ぶ。だが、医師たちはトラブルを恐れて尻込みし、処置をしようとしない。ヨウコは日本での医師免許がなかったものの、外国人男性の治療を始める。

 立場の弱い患者たちをヨウコや享が救う。クドカン版の『赤ひげ』になりそうだ。

◆『笑うマトリョーシカ』
(TBS・金曜午後10時)6月28日スタート

 作家・早見和真氏のベストセラー小説を原作とするヒューマン政治サスペンス。プロデューサーは共同テレビの橋本芙美氏。過去にはフジテレビ『フリーター、家を買う。』(2010年)などを手掛けており、小説の映像化が抜群にうまい人だ。

 主人公の東都新聞記者・道上香苗(水川あさみ)が、若手政治家の高校時代について取材する。その政治家は43歳で厚生労働大臣として初入閣した清家一郎(櫻井翔)である。取材によって香苗は、生徒会長だった清家には鈴木俊哉(玉山鉄二)というブレーン役の同級生がいたことを知る。清家が書いた自叙伝には出てこない人物だ。

 香苗が清家自身の取材に行ったところ、鈴木は清家の秘書になっていることが分かる。今も清家を全面的に支えている。というより、清家には主体性がなく、まるで鈴木に操られているようだった。ロシア人形のマトリョーシカには内部に別の人形がいくつも入っているが、清家の内側にも鈴木ら複数の人間が棲みついているのか。

 物語の冒頭では鈴木と接触を図っていた香苗の父親で元新聞記者・道上兼髙(渡辺いっけい)が不審な交通事故死を遂げる。兼高は鈴木の実父で不動産会社社長の宇野耕介(河野達郎)が贈賄容疑に問われた28年前のBG株事件をスクープした。この事件を兼高は調べ直していたらしい。

 BG株事件は値上がり確実の未公開株が政治家と官僚に賄賂としてばらまかれたものだが、なぜか政治家からは逮捕者が出なかった。罪を押し付けられる形となった宇野は裁判が始まる前に亡くなる。自死とされた。鈴木は父親を死に追い込んだ政治家たちに対し、清家を操って復讐しようとしているのかも知れない。

 清家の後援会長で日本料理店経営者の佐々木光一(渡辺大)の存在も気になる。佐々木も同級生で、生徒会副会長を務めていた。

 清家、鈴木、佐々木の3人が不気味なのは、長く濃厚な人間関係でつながっていながら、友情が感じられないところ。歯ごたえのある硬質の作品になりそう。原作者の早見氏は清家という男を書くとき、櫻井を思い浮かべていたという。

◆『海のはじまり』
(フジテレビ・月曜午後9時)7月1日スタート

 聴覚障がい者と健常者の恋を描いたフジ『silent』(2022年)の脚本を書いた生方久美氏(31)の作品。プロデューサーも村瀬健氏(50)で一緒。今度は7年前に別れた恋人が、知らぬ間に自分の子供を生んでいた男の物語である。

 主人公で印刷会社に勤める月岡夏(目黒蓮)は年上の同棲相手・百瀬弥生(有村架純)と幸せに暮らしていた。しかし、1本の電話が人生を変える。

 大学時代に交際していた元恋人・南雲水季(古川琴音)の死を電話で知った。葬儀に駆け付けると、水季には海(泉谷星奈)という子供がいたことが分かる。夏の子供だった。

 水季は夏と別れる直前、中絶の同意書へのサインを夏に求めてきた。その後、2人で病院へ。夏は中絶したと思い込んでいたが、水季は秘かに出産していた。水季はそのまま大学を去り、夏には一方的に別れを告げた。

 行間があり、観る側に考えることを要求する作品。夏は中絶の同意書へのサインを求められたとき、「結婚しよう」「一緒に育てよう」とは口にしなかった。水季の意思を優先するとして、さほど躊躇せず、書面にサインした。それが結果的に水季を失望させ、シングルマザーになる決意をさせたのか。

 突然のことに夏が戸惑うのは分かるが、彼に憎悪の目を向けた水季の母親・南雲朱音(大竹しのぶ)の気持ちも痛いほど理解できる。世代や立場によって登場人物に対する思いが異なる作品になるのだろう。

 第1回の時点では古川琴音が出色。傍目には強いのだが、本当は脆い人がよく似合っている。

◆『GO HOME~警視庁身元不明人相談室』
(日本テレビ・土曜午後9時)7月13日スタート

 メーン脚本家は、TBS『半沢直樹』(2013年、2020年)や同『VIVANT』(2023年)を書いた八津弘幸氏(52)。主演は小芝風花(27)が務める。

 タイトルに「警視庁」とあるが、盆百の刑事ドラマではない。かといって荒唐無稽な物語でもない。身元不明人相談室の捜査官・三田桜(小芝)と同じく月本真(大島優子)が、名もなき遺体の身元を突き止め、死の真相も解き明かすという筋書き。

 第1回では中学校の理科室に置かれていた人体骨格模型が、本物の人骨だと分かる。鑑定の結果、20代後半から30代の男性のもので、約1年前に死んでいた。調べを進めると、理科担当で標本マニアの教師が、東京・奥多摩の山中から遺体を勝手に持ち出し、薬品を使って白骨化したことが判明する。

 教師によると、白骨は自ら崖から飛び降りた男性のものだという。身元も分かった。ところが妻は夫であることを否定し、白骨を引き取ろうとしない。さて、真相はどこにあるのか? 

 身元不明人相談室の室長・利根川譲治役で吉田鋼太郎(65)、公安部出身の相談室捜査官・堀口尚史役で戸次重幸(50)らが共演。大島も含め、演技派たちが小柴を支える。

◆『素晴らしき哉、先生!』
(テレビ朝日系・日曜午後10時)8月18日スタート

 俳優として成長著しい生田絵梨花(27)の初主演連続ドラマ。演劇界で名高く、俳優でもある宅間孝行氏(53)が脚本と演出を兼務する。制作は大阪のABCが行う。

 生田の役柄はZ世代の高校教師・笹岡りお。採用2年目だが、早くも退職を考え始めていた。夢と希望を胸に教師になったものの、教育現場は理不尽なことに満ちていたからだ。生徒は自由を拡大解釈し、奔放に振る舞う。保護者は学校に過度な期待を寄せる。古参の教師たちは面倒なトラブル処理を若手に押し付けた。

 軽くて明るいだけの学園ドラマにはならない。最近では珍しい現実味に溢れた教育ドラマになりそう。りおのキャラクターも現実的だ。日々の愚痴をSNSの裏アカウントに吐き出したり、彼氏の大友聖也(小関裕太)に聞いてもらったり。かつての聖職者のイメージはない。

 それでも、りおは我慢し切れなくなり、ついに辞めることを決意するが、そのタイミングで3年C組の担任を命じられる。担任を持つのは初めて。りおは断れなかった。さて、どうなるのか。

 教育ドラマは生徒のキャラクターを浮き彫りにしやすくするため、1クラスを20~30人にとどめることが多いが、今回の3年C組にはしっかり37人いる。沢井谷玲奈役の茅島みずき(19)、南田健吾役の鈴木仁(24)たちである。ここにも現実味を感じる。

 すべて見終えたあとには「素晴らしきかな教師という職業」という思いになるのか。

<文/高堀冬彦>

【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員

この記事の関連ニュース