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「中途採用なのに職歴ゼロ」地方公務員たちの“民間とは違う”働き方のリアル

日刊SPA! 2024年7月4日 15時51分

誰もが一度は足を運んだことのある役所だが、そこで働いている公務員の実態については意外と知られていない。
筆者(綾部まと)は、メガバンクで8年間法人営業に従事してきた。地方店に配属されていた頃に市役所を担当した経験があり、担当者から内情について教えてもらった。今回はそれらの経験から、地方公務員の裏側についてご紹介する。

なお、本記事の地方公務員についての話は、すべての公務員に当てはまるわけではないことをあらかじめ断っておきたい。

◆①中途採用なのに「職歴ゼロ」

地方公務員として働いて10年目になるAさんは、職場についてこう語る。

「僕のように大学を出てすぐ入所する者もいれば、30代で入所する中途採用者もいます。中途採用と言っても民間企業のように、前職で何を成し遂げたとか、志望動機はあまり重視されないと聞きました。職種によって年齢制限はあるものの、試験さえ受かれば誰でも働くことができますからね」

そのため中途採用者の中には、出世争いにうんざりしたり、人間関係でメンタルを病んだりして「もう民間はこりごり」という者たちも一定数いるのだという。筆者の知り合いにも全国転勤に嫌気がさして、公務員になった元銀行員がいた。

「でも中途採用者の中には、職歴ゼロの者もいます。僕の隣の課にいた男性が、まさにそれでした」

◆「地主でやることがないから」公務員になった

「彼は高校を卒業してから、仕事もせずにふらふらしていたらしいです。旅行でバリ島に行って、そこで出会った現地人女性と結婚することになって、日本に連れて帰ってきたとのことでした。家事は奥さんがやってくれるから、やることがないから地方公務員になったようです」

生活資金をどうやって稼いでいるのか気になったAさんは、彼に尋ねてみたそうだ。

「彼は地主だったんです。辺り一帯の土地を持っていて、賃貸収入だけで何もしなくても暮らせるみたいですね。社会人歴ゼロだから民間企業は難しいと思って、ノルマがなく定時で帰れる地方公務員を選んだようです」

“やることがないから仕事をする”とは何とも贅沢な理由に思えるが、働く理由は人それぞれなのかもしれない。

◆②年功序列で給料が上がるから、昇格をする必要はなし

民間企業では営業成績や人事評価で昇格が決まるが、地方公務員はどうなのだろうか?

「昇格するためには、試験を受ける必要があります。でも受ける人は、あまり多くないんです。もっとやりがいが欲しかったり、上に行きたい人だけですね。地方公務員は年功序列で給料が上がっていくから、別に昇格する必要はないんですよ」

そのため定年退職まで入所時の役職のまま、という人もそれなりにいるのだとか。Aさんは試験を受けて無事に昇格したため、なんと60代の部下を持つことになったらしい。

「初めは気まずいなと思ったんですけど、もう慣れました。彼も別に仕事で自己実現を求めていないので、気軽に接してくれます。地元の名士としてお祭りを取り仕切ったり、小学校の行事で挨拶をしたり、仕事よりプライベートが生きがいのようですね」

まさにZ世代が憧れそうなプライベートに重きを置いて、地域にも貢献できる働き方である。

◆③休職率が高い、地方自治体の公務員

Aさんの職場に限らず、地方自治体の公務員は全体的に休職率が高いのだそうだ。

「休んでも、ある時期までは給付金をもらえますからね。これは一般企業とも同じですよね。おそらく一般企業と違うのは、休むと出世に響くという考え方がないからです。別の自治体では、半数以上が休んでいる課もあるらしいですよ」

それでは仕事が回らないのでは……と思いきや、一部の人間が土日を返上して働いているのだという。

「民間企業からの中途採用者には、今までの生活水準を変えたくないと、ものすごい量の残業代を稼ぐ人たちがいます。前職よりも給料が下がっているだけでなく、元同僚が出世して給料が上がるのを見ると焦るみたいですね」

◆副業が禁止されているぶん「残業」で稼ぐ

他にも子どもが生まれたり、家を建てたり、ライフイベントによってお金が必要になることは誰にでもある。しかし流行りの副業も、地方公務員は原則禁止されているとのこと。ノルマによるインセンティブもなく、昇格試験を受けられる時期は限られているらしい。

「だから今すぐ収入を上げたいと思ったら、残業をして稼ぐしかないんです。役所って手続きがあるから、土日も空いているじゃないですか。だから来れば、仕事ができるんです」

猛烈に残業する彼らが、休んでる人たちの分を相殺してくれているそうだ。働きアリの法則ではないが、世の中はうまくできているのだろう。

◆人気の職業になる日も近いかも?

先ほどご紹介した地主公務員の“やることがないから公務員になった”というような志望動機は何であれ、彼らがいなくては私たちの生活は成り立たない。SDGsにも関わることができて、出世争いもなく、定時帰りでプライベートも充実できる――ひょっとしたら地方公務員が人気の職業になる日も、近いのかもしれない。

<文/綾部まと>

【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother

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