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「飛行機代をタダにしろ!」自分でコーヒーをこぼしたのに“CAのせいにする”迷惑老人客の実態

日刊SPA! 2024年7月4日 15時54分

 日系CAから六本木のクラブママを経て作家となった蒼井凜花が、実際に体験した、または見聞きしたエピソードをご紹介。初回は、近年話題になっている「迷惑客」について語っていく。
◆自分でコーヒーをこぼした60代の迷惑老人客

 筆者は約4年間、日系エアラインに勤務しており、「安全性・定時性・快適性」を念頭にサービスをおこなっていた。快適なフライトサービスのひとつに「ドリンクサービス」があるが、このサービスを巡って、とんでもない迷惑客に遭遇したことがある。

 新人時代のある日、ドリンクサービス後にCAコールが鳴り、筆者がキャビン中央付近に駆けつけることに。すると、先ほどホットコーヒーをオーダーした男性客(六十代)が「ジャケットにコーヒーをこぼしたから、おしぼりを持ってこい!」と荒々しい声を上げた。急いでおしぼりを手渡すと、その男性は、ぶ然としたまま受け取り、汚れた部分を拭き始めた。

 このような、通称「飲み物事故」が発生した場合、まずはヤケドの有無を確認する。「お客さま、ヤケドはなさっていませんか?」と聞くと、「ヤケドはしていない。でも、ジャケットにシミが残ると困るんだ!」と男性は苛立ちを隠さない。

 となりに座る妻らしき女性も、夫の苛立ちが伝染したのか「買ったばかりの服なのに」「あなた、いつも注意散漫なんだから」と文句たらたら。その不穏な空気は周囲の乗客にも伝わったらしく、皆、一様に表情を硬くしているのがわかった。

 筆者は「よろしければ、機内にシミ抜きキットがありますので、わたくしどもが処置いたしますよ」とジャケットを預かり、パーサーや他のCAの協力も得て、ギャレーでシミ抜きに悪戦苦闘。苦労の甲斐あって、シミはほとんど目立くなり、無事返すことができた。夫婦も機嫌を直してくれたようだ。

◆妻が“クリーニングクーポン”を要求する違和感

 ところが、十分後、またも同じ乗客にCAコールで呼び出された。再び筆者が駆けつけると、今度は妻のほうが「クリーニングクーポン、出してちょうだい!」とつっけんどんに言ってきたのだ。

 これには唖然とした。通常、クリーニングクーポン(約二千円分のクリーニング代)は、CAが誤ってドリンクをこぼし、衣服を汚した場合のみお詫びとして発行される。今回のように、乗客みずから飲み物事故を起こした際には、会社の規則で発行することはできないのだ。

 パーサーを務める先輩CAも加わって事情を説明してもらい、着陸後、夫妻はおとなしく降りてくれたものの、筆者はパーサーに「フライト報告書を上層部に提出するから、あとで詳しい経緯を聞かせて」と頼まれた。

◆「CAにコーヒーをこぼされた」というまさかのクレーム…

 その日は地方ステイだったため、ホテル到着後にパーサーの部屋に集まって皆でミーティングをする運びとなったのだが、事態はとんでもない方向に展開していた。

 なんと、夫婦は地上職員に「フライト中、CAにコーヒーをこぼされた。シミ抜きはしてくれたが、クリーニング代も払ってもらえず、納得できない。二人分の飛行機代をタダにしろ。いう通りにしないと、二度とお前の会社の飛行機には乗らない」とクレームを入れてきたのだ。

 夫婦にドリンクサービスをした筆者は、パーサーから「あなたは本当にコーヒーをこぼしてないのね?」「ウソをついてないわよね?」とまるで刑事ドラマの被疑者のごとく詰問された。

 パーサーも事細かにフライト報告書に記載しなければいけないことに加え、フライト後の疲れもあって攻撃的な口調だ。

 筆者は「お客さまがみずからコーヒーをこぼし、CAコールで呼びだされ、ヤケドの有無を確認後、ジャケットのシミ抜きをした。嘘偽りはない」旨を念押しして、何とかその場は収まった。時刻は午前0時を過ぎていた。

◆「ごね得」の旨味を知っていた可能性も…

 翌朝、パーサーからはCA側に非がない事実を伝え、あとは上層部が乗客と掛け合ってくれたようだ。「ようだ」と言うのは、その後、上層部からは筆者に対してなんの連絡もなかったからである。

 夫妻に納得してもらったか、もしくはモンスター客の怒りを鎮めるためにフライト代を無料にしたか、ことの顛末はわからずじまいだ。

 理不尽な思いはぬぐえないが、新人CAだった筆者は会社側に質問することすらできなかった。このような悪質な乗客も一定数存在すると思うことで、「勉強になった」と無理やり自分を納得させた。

 疑問なのは、妻の口から「クリーニングクーポン」という単語が出てきたこと。もしかしたら以前、飲み物事故に遭ってクーポンを発行してもらったのかもしれない。その知恵が「ごね得」の旨味を知り、あり得ない事態に発展した可能性もあるだろう。

 近年、このような迷惑客が急増している。「こちらは金を払っているお客さまだ」という上から目線の思考が、横暴になったり、事実を捻じ曲げたり、必要以上の謝罪を求めたりなどの行為に走らせているのだろうか。

 また、「弱者」への迷惑行為で、日ごろ溜まった鬱憤やストレスを解消している場合もゼロではないだろう。いずれにしても、嘆かわしい世の中になってきている。

 サービスする側、される側――両者が気持ちよく暮らす日常が来ることを願いたい。 

文/蒼井凜花

【蒼井凜花】
元CAの作家。日系CA、オスカープロモーション所属のモデル、六本木のクラブママを経て、2010年に作家デビュー。TVやラジオ、YouTubeでも活動中。

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