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肉のハナマサ、スーパー玉出。東西の2大“ローカルスーパー”が異例の提携。大量閉店、暴力団関与…「挫折からの再起の行方」は

日刊SPA! 2024年7月5日 8時53分

 全国的な知名度を誇る東西2大ローカルスーパー「肉のハナマサ」「スーパー玉出」が、6月14日に両社共同での新規事業と玉出一部店舗の花正化を軸とした業務提携を打ち出した。
 突然の提携発表は、SNSを中心に幅広い層から注目を集めたが、両社ともに実は過去に「大きな挫折」を経験し復活に向けて突き進んでいる最中だった。「ロピア」「オーケー」進出で地殻変動が進む「激戦区」でどういった戦略を採るか、それぞれの歴史を紐解きつつ今後の展望をみていきたい。

◆当初は生花店だった「肉のハナマサ」

 花正は1923年に東京都江戸川区平井で創業。創業当初は生花店であったが、精肉店に業態転換し、1977年に焼肉バイキング店の1号店として「肉のハナマサ幕張店」を開店。低廉な仕入調達網を活かし、当時としては斬新な食べ放題を導入したことで首都圏を中心に急速に多店舗化した。

 1983年には現在の主力業態である精肉主体の食品ディスカウント「肉のハナマサどっきり市場銀座店」を開店。翌年1984年には山口県地場大手食品卸「藤本商店」とFC契約を締結し、地方初出店するなど将来的な全国展開を見据えた施策を打ち出した。

 1985年にはドイツ人ルドルフ氏招聘により本社付近にハム・ソーセージの生産工場「ルドルフハム工場」を開設。自社製造商品を全国の百貨店やスーパーに供給開始するなど、業界随一といえる商品開発力を備えるようになった。

◆時代を先取りしすぎた業務用食品スーパーの老舗

 同時期に小売飲食の複合業態「ミートパビリオン」を確立したことで、酒販大手「やまや」を始めとする地場流通大手各社との提携に繋がり、北海道から九州まで全国に店舗網を敷くこととなった。

 1990年代には精肉ディスカウントから業務用食品スーパーとして転身を図り、看板商品「プロ仕様」を始めとする自社企画・自社製造大容量商品に特化した業態店舗に順次刷新。外食事業に関しても中韓東南アジアやモンゴルなど海外への積極展開を図ることで、同業他社が未開拓の市場で徹底的にシェアを獲得していた。

 花正は2003年10月に伊藤忠商事系を母体とする中堅コンビニ「チコマート」に対し、同業他社との競争やBSE問題に晒されていた外食事業を1桁店舗のみ残し売却。外食事業の穴を業務用食品スーパーの積極出店で補う事業戦略を採り、2008年初頭には首都圏一帯に食品スーパー102店舗を展開するなど急拡大を図った。

 東京都心部では珍しいディスカウント業態として、花正ファンを公言する芸能人も現れるようになるなど、知名度は全国的なものとなるが、業務用食品スーパー特化という事業戦略は経営基盤の脆弱化につながり、同年2月には一転して店舗の半数弱(47店舗)を一斉閉店する事態となった。

◆業務スーパーと明暗が分かれたワケ

 業務用食品スーパーという業態は、神戸物産による「業務スーパー」が2022年10月に全国1000店舗を突破するなど、現在でこそ幅広い層に定着したが、首都圏近郊の市街地や住宅街で業務用大容量商品の需要は当時乏しく、非常にニッチな業態であった。

 業務スーパーが「一般のお客様大歓迎」を掲げ、各地の有力食品スーパーとエリアライセンス契約を締結することで、低廉かつ迅速に多店舗化を図った一方、花正はあくまで「Prospec Wholesale Store」として中小飲食事業者を主要顧客と定めていたため、一般消費者の買物先の選択肢とならなかった。

 花正による地場流通大手各社との提携は、店舗単位・部門単位といった緩やかなもので、相手先企業が競合他社(イオン・ダイエー・西友)の系列となる過程で解消となったため、直営主体での多店舗化に軌道修正したことも災いとなった。これにより、新興の神戸物産や大手食品卸系のトーホーAプライスに業界首位の座を奪われる結果となった。

 また、花正の一斉閉店と同時期に中国製冷凍餃子事件が発生するなど、当時相次いだ食品偽装問題を背景に、食の信頼性を求める声も大きくなっていた。

◆挫折を糧に再成長めざすハナマサ

 花正は経営再建の一環として、2008年3月に食品スーパー事業を現法人に移行する構造改革を実施。事業部間で精肉や酒類・各種調味料(花正PB)の共同調達を図るなど、一心同体の関係にあった花正グループは解体となった。

 花正の外食事業に関しては、看板業態「ステーキの店いわたき」の一部店舗が、ロードサイドのハイエナと称された井戸実氏主導のもと「ステーキハンバーグ&サラダバーけん」として全国的に急拡大。いわたき屋号の店舗に関しても複数事業者により存続している。

 花正の製造部門(ルドルフハム工場/肉の大公)に関しては、花正再建の過程で神戸物産が引継ぎ、花正時代からのブランドそのまま業務スーパーの製販一貫体制の中核を担っている。花正の小売事業に関しては、2008年9月に「全日本食品(全日食チェーン)」子会社、2013年9月に全日食と関係の深い茨城地場食品スーパー「ジャパンミート(現JMホールディングス)」子会社となり、2024年6月12日には関西1号店(千日前店・九条店)の開店を発表するなど、JM社主導のもと再拡大を図っている最中だ。

 ロピアや神戸物産が大容量業務用食品を拡充、関連事業として外食事業強化を図り、ビュッフェレストランや焼肉店で成功を収めている現状からすれば、早すぎた挫折といえるだろうが、この経験が玉出の救済につながっていくこととなる。

◆旧体制下で相次いだ不祥事「スーパー玉出」

 スーパー玉出は1978年創業。1992年に法人化した。同社は「日本一の安売王」を称し、看板企画である「1円セール」や24時間営業を実施。最盛期には大阪府南部を中心に食品スーパー60店舗弱、不動産業、カラオケ、ボウリング場を幅広く展開していた。

 同社は創業社長が持つインパクトの強さやパチンコ店を彷彿させるネオン管を多用した内外装、道頓堀への広告出稿もあり、全国的な知名度を誇っていたが、少なくとも1990年代後半の法人化直後から外国人労働者の不法就労や裏社会との結び付きが露呈しており、創業社長を始めとする経営幹部が幾度となく逮捕となるなど、派手な店舗とは裏腹にダーティーなイメージがつきまとっていた。

 また、同社が特徴としていた価格政策に関しても特売偏重、イメージ先行型といえるものであり、生鮮惣菜に関しては価格相応、グロサリーに関しては競合他社と比べ総じて割高となっていた。大阪市中心部の繁華街・歓楽街への店舗展開に関しても、同業大手の店舗網拡大により、決して強みといえるものではなくなっており、2013年以降新規出店を凍結し、年1~2店舗程度の不採算店舗の整理を進めていた。

 2018年7月には新会社「フライフィッシュ」に運営を移行し、従来からの激安イメージを踏襲しつつ、旧体制下で欠落していた法令遵守意識の向上を始めとする改革を推進。

◆パチンコ店跡、老朽化など物件特有の課題も

 店舗自体に関しても、スマホ決済導入やインバウンド対応、公式Instagram/TikTokを始めとするSNS発信強化、ブランドを活かしたオリジナルグッズの開発、高級食品スーパー「F.Fマルシェ」事業に取組んだが、経営改善の遅れやコロナ禍を背景に、新体制後20店舗超を閉鎖、2024年6月20日には兵庫県内から完全撤退した。

 玉出は全国的な知名度に反して、看板商品は決して多くない。以前からの名物であった惣菜は物価高騰が進む昨今においても、大阪では競合他社を寄せ付けない低価格を維持。玉出のロゴを全面にあしらったPB商品を新たに発売するなど、玉出ならではの価値向上に取組んでいるが、これらの取組みは発展途上といえる。

 また、玉出は旧体制下における店舗網拡大の過程で、レジャービルやパチンコ店跡といった異業種にルーツをもつ物件、マンションのエレベーターが売場内にある物件、半世紀超の老朽物件といった特殊な物件を多数擁しており、物件特有の課題も顕著となっていた。

 既出の通り、競合各社は玉出の地盤である大阪市中心部での店舗拡大に加え、「ダイエーCoDeli」「ライフMiniel」といった新業態の開発を進めており、玉出というブランドに依存しない価格面・商品面での「差別化の鍵」の確保が急務だった。

◆玉出は西成周辺に店舗集約

 フライフィッシュ(スーパー玉出)と花正(肉のハナマサ)は、2023年より本格的な業務提携交渉を進め、譲渡対象店舗の選定や対価・PB商品の取引内容など細部を詰めていたという。

 両社間の業務提携にともない2024年秋以降、玉出は「中核エリアである西成区及びその周辺地域」に経営資源を集中、西成区外の8店舗の賃借権を花正に承継したうえで段階的に事業譲渡する。これにより、玉出の店舗は最盛期の「3分の1」となる西成区を中心とした15店舗まで減少、花正の関西店舗は10店舗(新規出店2店舗含む)となる見通しだ。

 また、玉出が開発中の「生鮮・総菜の新商品」と花正の自社PB商品「プロ仕様」を相互融通することで品揃えを拡充、店舗の譲渡益を「主に西成地区の店舗のリニューアルなど継続店舗拡充に要する費用に充てる」という。

 玉出が本拠地とする西成区内でも、徹底的なドミナント戦略で市場を独占した「あいりん地区」2店舗(天下茶屋店・今池店)から競合他社との競争が顕著な玉出店・岸里店まで店舗間で競争環境は大きく異なるが、いずれも花正の首都圏既存店と親和性の高い立地となっている。

◆西成区外の店舗はハナマサ転換も

 花正の「プロ仕様」はファンも多く、同社店舗への来店動機として機能しているため、玉出既存店で取扱実績のない「プロ仕様」を含む大容量業務用食品の導入は、近隣中小飲食事業者を始めとする新規客層の開拓に結びつくだろう。

 玉出との提携を機に、花正が過去に挫折した同業他社への「プロ仕様」の外販事業や「肉のハナマサ」全国展開に向けた取り組みが再び動き出す可能性もある。2020年9月に関西進出を果たした「ロピア」や2024年秋を目処に関西進出を果たす「オーケー」と同様、首都圏発のディスカウンターとして存在感を高めることとなりそうだ。

<取材・文・撮影/淡川雄太(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】
『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitter:@toshouken

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