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「ドラッグストア業界1位と2位の統合」で超大型チェーンが誕生。浮上する商売敵の“意外な正体”とは

日刊SPA! 2024年7月6日 8時53分

 経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回はドラッグストア業界各社について紹介したいと思います。
 ウエルシアやマツモトキヨシ、ツルハなど、同じ業界としてひとくくりにされるドラッグストア業界ですが、ビジネスモデルはかなり異なります。それぞれの立地や商品構成に違いがあり、まるで片方は食品、もう一方は化粧品に力を入れるなど別業種のような印象です。この違いは業績にも現れています。業界再編が進んでいますが、ライバルは同業種というより他業態にあるといえます。

◆「なんでも屋」として伸び続けてきたドラッグストア市場

 ドラッグストア市場は店舗数の増加とともに長期にわたって伸び続けてきました。23年度の市場規模は8.3兆円です。医薬品需要の増加も背景にありますが、食品やトイレットペーパー・洗剤などの消耗品、化粧品を扱う「なんでも屋」としての利便性が主な要因です。

 多くの場合、安価な食品・消耗品で集客しつつ、利幅の大きい医薬品で儲けるビジネスモデルをとっているため、ディスカウントストアとしても機能しています。よく訪れるけど薬はほぼ買わないという方も多いのではないでしょうか。

 処方薬を提供できる調剤機能に至っては、「全店舗の95%以上が対応していない」チェーンもあります。2023年度における各社売上高ランキングは次の通りです。(※コスモス薬品は24年5月期3Q時における予想値を記載)

1位:ウエルシアホールディングス:1兆2,173億円
2位:ツルハホールディングス:1兆275億円
3位:マツキヨココカラ&カンパニー:1兆225億円
4位:コスモス薬品:9,160億円
5位:サンドラッグ:7,518億円

◆業界トップのウエルシアは「薬で儲けるビジネスモデル」

 業界トップのウエルシアHDは24年2月期末時点で2,763店舗を展開し、そのうち「ウエルシア薬局」は2,145店舗を占めます。グリーンクロス・コア薬局を前身とし、2000年に当時のジャスコ(イオン)と資本業務提携を結びました。2002年に店名をウエルシアに統一。店舗数増加とともに拡大し、2014年にはイオンが株の過半を握ったことで、イオンの連結子会社となりました。

 同社の売上高は食品と家庭用雑貨合わせて36%を占めるのに対し、医薬品と調剤による収入はそれぞれ20%です。一方で各品目の粗利率は家庭用雑貨が29%、食品に至っては19%程度しかないのに対し、医薬品や調剤はおよそ4割です。安く設定した食品と消耗品で集客し、薬で儲けるビジネスモデルであることが分かります。また、北関東地盤の「マルエドラッグ」や、関西地盤の「コクミン」など、M&Aを次々に行っています。会計基準変更の関係から単純比較はできませんが、2020年2月期から24年2月期にかけて次のように拡大しました。

売上高:8,683億円→1兆2,174億円
営業利益:378億円→432億円
全社店舗数:2,012店→2,825店

◆「ウエルシアとの統合」を目指すツルハドラッグ

 ツルハホールディングスは売上高でウエルシアに次ぐ2位の規模です。「ツルハドラッグ」や「くすりの福太郎」など全社で2,653店舗を展開しています。1929年に北海道の旭川で開業した薬局をルーツとし、北海道を起点に全国へと出店しました。そのため23年度末における地域別店舗数は北海道432・東北604であるのに対し、関東甲信越は533、中部・関西は269と少なめです。

 近年でも新規出店を継続し、2020年5月期から24年5月期にかけて事業規模は次のように拡大しました。特に21年5月期は九州・沖縄で展開する「ドラッグイレブン」を子会社化し、同地域で202店舗を取得しました。しかし、地方に店舗数が多いため不採算店も多く、ツルハHD全体で年間50~70店舗を閉鎖し続けています。

売上高:8,410億円→1兆275億円
営業利益:450億円→492億円
全社店舗数:2,150店→2,653店

 ちなみにツルハとウエルシアの両者は2027年までに経営統合する方針です。すでに両者とイオンを含めた3社間で合意しています。ツルハの傘下にウエルシアを置く形ですが、イオンが主導する経営統合です。統合後は5,000店舗・売上高2兆円超の超大型チェーンとなります。ツルハの調剤比率は低いですが、それを除いて考えると、「食品・消耗品の安売りで集客し、薬で利益を出す」構造はウエルシアと同じです。立地も似ており、共通化によるメリットも大きいとみられます。

◆「駅前立地、化粧品比率」が特徴のマツキヨココカラ

 マツキヨココカラ&カンパニーは2021年10月にマツモトキヨシHDとココカラファインが統合し誕生しました。両者とも首都圏・近畿の駅前立地の店舗が多く、化粧品比率が高いという特徴があり、統合のメリットが大きいと考えられます。統合にあたり「美と健康の分野でアジアNo.1を目指す」を標榜していました。23年度末の店舗数は3,464店舗で、マツキヨグループは1,904、ココカラファイングループは1,560店舗です。

 ウエルシアと比較すると同社の商品構成は大きく異なります。売上高に対する化粧品の構成比は34%であり、15%のウエルシアの2倍です。食品に関してはウエルシアが2割以上を占めるのに対し、マツキヨココカラ&カンパニーは9%しかありません。化粧品の依存度が高く、同じドラッグストアとはいえ別業態のような構成です。また、マツキヨココカラ&カンパニーにおける医薬品の粗利はおよそ4割ですが、化粧品の粗利も35%であり、両者とも重要な収益源となっています。自社で化粧品のPB商品も開発しています。ウエルシアのように安い食品で客を釣るモデルではないことが分かります。

 統合前のマツキヨとココカラファインは駅前立地・化粧品偏重という特徴もあり、コロナ禍ではむしろ業績が悪化しました。20年3月期と21年3月期の売上高を比較するとマツキヨは5,906億円→5,569億円と減少し、ココカラファインも同様に4,039億円→3,664億円と減少しました。インバウンドがほぼ無くなったことも影響しています。しかし統合後は人流回復のほか新規出店もあり、23年3月期から24年3月期にかけて売上高は9,512億円→1兆225億円と伸びました。

◆コンビニとは違い、立地別で棲み分けが進む?

 地方に地盤を置くチェーンの状況は厳しく、ドラッグストア業界は市場規模が伸び続けるなかでも業界再編を進めてきました。医薬品需要が伸びているため今後も市場は伸びる見込みですが、再編は今後も進みそうです。そのうえでコンビニのように3社が全国で勝負するという形よりは、立地別に分かれていく形になると考えられます。

 地方はイオン主導のもと、ウエルシア・ツルハ系列が勢力を伸ばしそうですが、関西以西は九州地盤のコスモス薬品が抑えています。また、首都圏や近畿の駅前立地はマツキヨココカラ&カンパニーが抑えており、上記のように化粧品という強みを持っています。各社にとって同じ業界内ではなくスーパーやコンビニなどが強力なライバルになるかもしれません。ドラッグストア業界の今後に注目です。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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