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大手回転寿司チェーンが抱える“ジレンマ”。「ひと皿100円均一」からの脱却も、“強みを失う”結果に

日刊SPA! 2024年7月7日 8時53分

外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。「日刊SPA!」では、これまで30年間のコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。
今回のテーマは、「回転寿司チェーンの現在地」です。戦国時代の様相を呈している同業界、有名チェーンであっても決して安泰ではないのです。各社の動向について、“プロ目線”で斬っていきます。どうぞお付き合いくださいませ。

◆国内で飽和状態の大手4社

回転寿司は「大手系」「グルメ系」の2タイプに大別されます。この中でもとくに注目したいのが大手チェーン系の『スシロー』『くら寿司』『はま寿司』『かっぱ寿司』の4社。回転寿司業界について語る際は、この4社の動向がとても重要になってきます。

しかしこの4社、国内市場においてはすでに飽和状態になっています。これはいまに始まったことではありません。2010年ごろには、大手系回転寿司は国内市場で「一ブランド600店舗上限説」というものがデータで出ていたのです。事実、すでに各社とも600店舗を超えています。

◆100円均一から脱却するとグルメ系に勝てない?

大手系回転寿司が飽和状態を打開する方法として「ひと皿100円均一」からの脱却という仮説が以前からありました。これまで100円で提供していたものを120円、130円、200円などと価格を上げていき、多価格帯で勝負していくのです。しかしこれにはリスクがあります。『すし銚子丸』『がってん寿司』などのグルメ系回転寿司の存在です。

グルメ系回転寿司とは、産地直送など味や鮮度のいい素材を使い、高価格で寿司を提供している回転寿司のことです。大手系が「I型」の寿司レーンを使っているのに対し、グルメ系の多くは「O型(小判型)」のレーンを使います。大手系はシャリロボットや軍艦ロボットなどを使って寿司を作りますが、グルメ系はO型レーンの内側に寿司職人が入って握ります。

手間や労力という点で見ると、大手系はグルメ系と大きな差があります。「安くて美味しくてお腹いっぱいになれる」のが大手系の強みであったはずです。それが価格を上げていくとグルメ系との差が小さくなり、クオリティの面で太刀打ちできなくなってしまうのです。

◆堅調に推移するチェーンは「大手との差別化」に成功

大別すると先述した2タイプとなりますが、中別することで浮かび上がってくるのが、「ローカル系」という枠組。地域に根付いたチェーンを指すわけですが、実は明暗がはっきり分かれています。ここ数年で都心部に続々と進出する『トリトン』や『金沢まいもん寿司』は、高いクオリティが評判を呼び、すっかり市民権を得た印象があるでしょう。しかし、狭いエリアのなかで伸び悩み、右肩下がりで売上を落とすチェーンも存在するのです。

ポイントは「大手系との差別化」です。高価格帯の寿司を売ることとブランディングにしっかり取り組んできたところは伸びています。一方で大手系が「ひと皿100円」で伸びたときに、それに追随してしまったところは落ち込んでいます。

例えば大手系の場合、ネタの多くは業者で加工したものを仕入れて使用しています。店舗に握る技術、魚をさばく技術などの「職人力」を持ったスタッフがいるケースはほぼありません。一方でそんな職人力を担保できたところ、つまり大手ができないことをやってきたところは好調なのです。

◆仕入れの面でも小回りが利く

また仕入れについても、大手系とローカル系で差があります。大手系はスケールで仕入れますが、ローカル系は鮮度高く仕入れます。私たちの世界では、水揚げされたその日のうちに店頭に並ぶものを「DAYゼロ」と呼びます。水揚げからゼロ日という意味です。水揚げの翌日に並ぶものは「DAYワン」、さらにその翌日は「DAYツー」となります。

例えば水揚げ後に熟成させる必要があるマグロを除き、白身魚や青魚はやはりDAYゼロが強い。そうなると、市場などへ直接出向いて仕入れることのできるローカル系にとってはこの部分が強みになるのです。店内で魚をさばける、握れる、残ったアラなどをからとった出汁で味噌汁を作れる、こういった大手系ができないことで勝負するローカル系は今後も伸びていくでしょう。

◆『スシロー』『くら寿司』と『はま寿司』『かっぱ寿司』で異なる事情が

国内市場が飽和状態になったことで、大手系は今後、海外展開で状況を打開していくことになるでしょう。その場合、同じ大手系4社でも、寿司専門で展開してきた『スシロー』『くら寿司』と、コングロマリット企業(異なる業種の企業同士の合併や買収などで成長してきた企業)である『はま寿司』『かっぱ寿司』とでは、少し事情が異なります。

『スシロー』『くら寿司』は早くから海外展開に取り組んでいます。

『スシロー』は2012年ごろに韓国に進出し、その後は台湾と香港に出店して大成功をおさめます。1店舗あたりの売上が国内店舗よりも大きいところもあるほどです。これをきっかけに、現地では大型店舗で、寿司以外のサイドメニューを充実させ、寿司を軸とした「ファミリーレストラン」化に舵を切ることで中国本土やインドネシア、タイ、フィリピン、シンガポールなどで着実に伸びてきています。

『くら寿司』は2009年にアメリカ、2014年には台湾に出店。アメリカ・台湾という市場に集中して展開することで、こちらも着実に店舗を拡大させています。そして、2023年には中国本土にも1号店をオープン。中国では「10年で100店舗」を目標にしているようですが、巨大市場への進出が吉と出るか凶と出るか、興味深く見守りたいものです。

『はま寿司』『かっぱ寿司』は企業としては海外展開は進めているものの、回転寿司ではやや出遅れている印象があります。今後の動きに注目といったところです。

国内市場が飽和状態であれば、海外に目を向けるというのは自然な流れです。「売れる場所で店を出す」というごくシンプルな話なのです。売上比率において、海外が国内を上回るほどの状態を目指すべきでしょう。

◆“多ブランド化”に注力する『スシロー』

ちなみに、海外事業以外でいうならば、近年『スシロー』は“多ブランド化”にも注力しています。持ち帰り寿司の『京樽』、寿司居酒屋の『杉玉』などをM&Aで手に入れており、既存のチャンネルと重複しない事業展開によって、現状を打破したいのかもしれません。

回転寿司は私たちにとっては実用食であり、日常の飲食店。メニューも豊富で、エンタメ性のあるお店もあり、行けば食べること以外にも楽しさがあります。

“グルメ界の日本代表”として様々な国で人気を博してくれたら、こんなに嬉しいことはありません。海外を旅行した際、現地仕様にローカライズされたメニューを試してみるのも、きっと面白いと思います。

<TEXT/永田ラッパ>

【永田ラッパ】
1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜』も好評配信中。

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