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時価総額で世界一「エヌビディア」は半導体バブルなのか?“今が買い時なのか”を検証する

日刊SPA! 2024年7月8日 8時51分

 AI向け半導体開発・販売の「エヌビディア」の株価が高騰している現在、多くの投資家が半導体の明るい未来を見据えて投資をしており、株価にも人気が反映されています。
 実際、エヌビディアの時価総額を見てみると、2023年6月時点で約1.05兆ドルでしたが、2024円6月には約3.33兆ドルまで到達し、1年で3倍以上も時価総額が大きくなり、一時的に世界一の時価総額企業になるほどの大きな飛躍を遂げています。

 こうした好調が続くエヌビディアの現在の状況は「バブル」と呼ぶべきなのでしょうか。本記事では、その現状と今後の見通しについて、検証していきたいと思います。

◆半導体業界の歴史的背景

 そもそも半導体業界は常に変動の波にさらされており、下記のような過去の変遷を知ることで未来を予測する足掛かりとなるはずです。

【1980年代:日本の半導体メーカーの台頭】

 1980年代、日本の半導体メーカーが世界の半導体市場の約50%を占めていました。特にNEC、東芝、日立製作所などが業界をリードし、絶対的な地位を築いていたのです。この時期、日本はメモリ市場で特に強く、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)の生産で世界を席巻した、日本経済が最も強い時期がありました。

【1990年代:韓国と台湾の台頭】

 1990年代に入ると韓国や台湾の企業が急成長し、日本のシェアは次第に低下しました。サムスンやSKハイニックス(旧ハイニックス半導体)がDRAM市場で急速にシェアを拡大し、日本企業を追い越すようになったからです。また、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)が受注生産を請け負うファウンドリ市場でリーダーシップを発揮し、グローバルな半導体供給チェーンにおいて重要な役割を果たすようになっていきます。

◆業界のトップ企業は入れ替わり続けている

【2000年代:インテルの躍進】

 2000年代に入ると、インテルがCPU市場で圧倒的なシェアを占めるようになりました。インテルはPCおよびサーバー市場での高性能プロセッサの供給において他を圧倒し、その技術力とマーケティング戦略により市場をリードしました。

【2024年現在:エヌビディアが君臨】

 2024年現在では、エヌビディアがGPU市場で優位に立っています。主にAI(人工知能)やディープラーニング、データセンター向けの高性能GPUを提供し、その市場でのシェアを拡大して、一時的にマイクロソフトやアップルを抜いて世界一の時価総額企業になるほどの躍進を遂げています。

 こうした半導体の歴史を振り返るだけでも、常に業界のトップ企業は入れ替わり続けていることが分かります。つまり、エヌビディアも今後どこまでそのシェアをキープし続けるかは分からないことを意味していると筆者は考えます。

◆エヌビディアに想定されるリスクとは

 現在、エヌビディアはAIブームの中心であり、そのGPUはAIトレーニングと推論において不可欠な存在となっていますが、エヌビディアの最新決算報告書によると、データセンター収益の約40%が推論需要、約60%がトレーニング需要を占めています。この数字を見れば、企業の生成AI導入はまだテスト段階であり、トレーニング需要が大きい状況にあることが見えてきます。

 そもそもAIモデルの開発において、大規模化と効率化の2つのトレンドがあり、一部の企業はモデルの大規模化を追求し続けていますが、他の企業は効率性を重視し始めています。

 これにより、特にトレーニング需要が今後減少する可能性があります。またオープンソースのAIモデルの台頭により、APIの価格競争が激化し、エヌビディアの市場シェアに影響を及ぼす可能性もあるでしょう。

 さらに、エヌビディアの競合となるAMDやインテルもAI市場でのシェア拡大を狙っています。AMDは最新のMI200シリーズGPUでエヌビディアに対抗し、インテルも生成AI学習に向けたAIアクセラレーターの強化を続けています。これにより、将来的にエヌビディアの市場シェアが奪われる可能性もゼロではないのです。

◆海外アナリストの見解もバラバラ

 2024年の世界のAI市場規模は5000億ドルに達することが予想されています。しかし、この成長は一部の大手企業に集中する可能性が高く、市場全体の成長が鈍化するリスクも存在します。

 エヌビディアのトレーニング需要が減少すれば、大手クラウドプロバイダーの設備過剰が発生し、AI投資が凍結される可能性もあります。これにより、エヌビディアの売上が減少して株価が下落するリスクが考えられるでしょう。

 その一方、エヌビディアはAIトレーニング需要の減少に備えて、エッジAIや自動運転車、ヘルスケア分野への進出を強化しています。また最新のGPUアーキテクチャ「Hopper」を2022年に発表し、性能向上と効率化を図っています。これにより、新たな市場での成長を虎視眈々と狙っているのも事実です。

 エヌビディアのCEOであるジェンスン・フアン氏は「我々はAIの未来を見据え、新たな市場への投資を続ける」(GTC 2024での発言)と語っているように、エヌビディアが今後もさらに事業成長を続ける可能性もあるでしょう。

 その一方、市場アナリストによっては「エヌビディアは短期的には成長を続ける可能性が高いが、競合の台頭や市場の変動に注意が必要」という趣旨の発言したり、反対に「エヌビディアは新たな市場への進出を強化しており、長期的な成長が期待される」という趣旨の意見を持つアナリストも存在します(ブルームバーグ「エヌビディア、ばらつく成長予想が将来の不安材料-カイザー」2024年6月25日)。

 つまり、現段階ではエヌビディアの将来性について、海外アナリストの意見が分かれていること知っておくことが、とても重要ではないでしょうか。なぜなら、保有株の中でも多くの利益をもたらしている株に対しては、誰もが反対意見を軽視しがちになるからです。

◆エヌビディアだけでなくTSMCにも注目の理由

 エヌビディアの成功は、その製品の性能だけでなく、半導体製造のパートナーであるTSMCの製造能力にあることも注目です。TSMCは、エヌビディアの最新GPUの製造を担当しており、その高度な製造技術がエヌビディアの競争力を支えています。

 熊本にも進出して日本でも有名になったTSMCは、世界最大の半導体製造ファウンドリであり、その技術力と生産能力は業界をリードしています。エヌビディアのGPUだけでなく、アップルやAMDなど、多くの主要な半導体企業がTSMCの製造技術に依存しています。このため、エヌビディアに投資する際には、TSMCの動向にも注目することも重要になるでしょう。

 またTSMCは、5nmや3nmなどの先進的な製造プロセスを開発し、エヌビディアのGPUに高性能と省電力性をもたらしています。これにより、エヌビディアは他の競合製品と比べて優れた性能を提供できるのです。

 またTSMCは投資という観点からも安定感があります。なぜなら複数のメーカーから受注しているため、1社の事業成績に左右されにくいビジネスモデルを持っているからです。特に投資家の場合、半導体の明るい未来に投資はしたいけれど、個別株に依存したくない場合、TSMCは面白い存在となるでしょう。

◆おわりに:バブルの渦中にいるとバブルに気づかない

 誰もがバブルの最中にいるとき、その状態がバブルであると気づくことは難しいものです。歴史を振り返ると、1980年代の日本のバブル経済や2000年代初頭のドットコムバブルの際も、投資家たちはその熱狂の渦中にあり、後から振り返って初めてバブルだったと認識しました。

 つまり、エヌビディアの現在の株価上昇も同様に、多くの投資家がAIの未来に対する過度な期待を持っている可能性があります。この期待が現実と乖離している場合、バブルの崩壊が起きるリスクは高くなるのです。

 終わらない上昇相場というものが存在しないことを踏まえて、今こそさまざまなシナリオを想定しておくことが投資家として重要な態度ではないでしょうか。少なくとも、エヌビディアホルダーである筆者自身はこのように考えています。

<TEXT/鈴木林太郎>

【鈴木林太郎】
金融ライター、個人投資家。資産運用とアーティスト作品の収集がライフワーク。どちらも長期投資を前提に、成長していく過程を眺めるのがモットー。 米国株投資がメインなので、主に米国経済や米国企業の最新情報のお届けを心掛けています。Webメディアを中心に米国株にまつわる記事の執筆多数
X(旧ツイッター):@usjp_economist

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