かつては対応店マップが作られるほど米ドル大歓迎だった、海軍の街「横須賀」と空軍の街「福生」。円安需要で盛り上がっているのかと思いきや、米ドルOKの店はほとんどなくなっているのが現状だ。
◆2015年頃から「ドル払いが可能な街」をアピール
まず、2019年には「ドル街横須賀」として米ドルを使って買い物や食事ができる店舗をまとめたマップを発行するほど、市を上げて“米ドル歓迎”を打ち出していた横須賀。発行元の横須賀集客促進実行委員会に電話で話を聞いてみたところ、「国外客に目を向けていることは間違いない」との回答はあったものの、マップの更新等は行っていない様子だった。
同じく横須賀でスカジャンの発祥地として有名な「ドブ板商店街」の横地広海知氏によれば、もともと米兵向けにドル支払いが可能な街ではあったが、2015年頃からそれを魅力の一つとしてプッシュし始めたという。
「以前はバーを中心にドル払い対応しているお店が多くありましたが、近年で為替が円安に転じたことや、コロナ禍により米兵の外出やインバウンド流入がゼロになったことで実施店舗は減少してしまいました。現在では旅行客はクレジットカード支払いが中心ですし、日本に長期滞在する米兵であれば円を持っています」
インバウンドの回復、円安需要の恩恵はまだ見えてきてはいないものの、今後の盛り上がりに期待もしていると話す。
「この夏リニューアルする街のフラッグにスカジャン柄のARを実装するなど、海外の方にも言語を超えて訴えられるような魅力をプラスオンするように工夫していきます」
古くから軍港として栄え、アメリカ文化と融合した独自の街づくりをし続けている横須賀。時代の流れは厳しいが、街もまた粘り強く変化を続けているようだ。
◆移り行く時代の波に空軍の街「福生」は
では、福生ではどうなのであろうか。昭和43年創業の「福生ラーメン ポロ春」の女将である櫻澤喜美子氏に話を聞いた。
「スマホ決済対応の店も増えたので、福生でもドルを扱っているところはごく僅かだと思いますよ」
櫻澤氏は少しばかり申し訳なさそうにそう言った。やはり横須賀と同様に福生も時代の移り変わりの波に圧されているのが現状らしい。
「ポロ春」は夫婦二人きりで営む小さな個人店のため、今後もキャッシュレス化を進める気はなく現金オンリーを貫いていくそうで、今でもホームページには「ドルでのお支払いもできます」と謳っている。
しかし、来店する外国人は駅前のコンビニでドルは円に両替してくることがほとんどで、実際にドルで支払う客はゼロに等しいという。
「開店当初の外国人のお客様は、ほとんどがドル支払いでした。1ドル=360円の円安時代、1ドルあればうちでならラーメン、餃子、白ごはんまで食べられたんですよ。今では客層もだいぶ変わって日本人の率が圧倒的に高くなりましたし、外国人も出張組がかなり増えています」
◆ベトナム戦争の頃に溜まった米ドルで買ったビル
さらに櫻澤氏は、ドル支払いの恩恵を受けていた当時のことも懐かしそうに語ってくれた。
「ベトナム戦争の頃なんかは、続々と米兵が来るものだから、ドルがもう貯まって貯まって仕方ありませんでしたよ(笑)。店を構えているこのビルも、言ってしまえばあの頃のドルで買ったようなものですからね」
せっかくなので、ボリューム満点だという「ポロ春」自慢のラーメンをいただくことにした。オリジナリティ溢れるたくさんのメニューの中から、注文したのは味噌粕坦々メン(900円)。酒粕の深いコクが感じられる、とても美味しい一品であった。
櫻澤氏は何度も「時代が変わった」と口にしながらも、「うちの量がアメリカンサイズなのは、昔のままなんですけどね」と笑った。
ポロ春の取材からの帰り道、街を歩いていると海外のお客さんで賑わっている一軒のタトゥーショップを発見した。調べてみるとメニューは英語表記で、価格は米ドル表記であった。米ドル文化は場所を変えながらも生き続けてはいるようだ。
<取材・文/もちづき千代子>
◆2015年頃から「ドル払いが可能な街」をアピール
まず、2019年には「ドル街横須賀」として米ドルを使って買い物や食事ができる店舗をまとめたマップを発行するほど、市を上げて“米ドル歓迎”を打ち出していた横須賀。発行元の横須賀集客促進実行委員会に電話で話を聞いてみたところ、「国外客に目を向けていることは間違いない」との回答はあったものの、マップの更新等は行っていない様子だった。
同じく横須賀でスカジャンの発祥地として有名な「ドブ板商店街」の横地広海知氏によれば、もともと米兵向けにドル支払いが可能な街ではあったが、2015年頃からそれを魅力の一つとしてプッシュし始めたという。
「以前はバーを中心にドル払い対応しているお店が多くありましたが、近年で為替が円安に転じたことや、コロナ禍により米兵の外出やインバウンド流入がゼロになったことで実施店舗は減少してしまいました。現在では旅行客はクレジットカード支払いが中心ですし、日本に長期滞在する米兵であれば円を持っています」
インバウンドの回復、円安需要の恩恵はまだ見えてきてはいないものの、今後の盛り上がりに期待もしていると話す。
「この夏リニューアルする街のフラッグにスカジャン柄のARを実装するなど、海外の方にも言語を超えて訴えられるような魅力をプラスオンするように工夫していきます」
古くから軍港として栄え、アメリカ文化と融合した独自の街づくりをし続けている横須賀。時代の流れは厳しいが、街もまた粘り強く変化を続けているようだ。
◆移り行く時代の波に空軍の街「福生」は
では、福生ではどうなのであろうか。昭和43年創業の「福生ラーメン ポロ春」の女将である櫻澤喜美子氏に話を聞いた。
「スマホ決済対応の店も増えたので、福生でもドルを扱っているところはごく僅かだと思いますよ」
櫻澤氏は少しばかり申し訳なさそうにそう言った。やはり横須賀と同様に福生も時代の移り変わりの波に圧されているのが現状らしい。
「ポロ春」は夫婦二人きりで営む小さな個人店のため、今後もキャッシュレス化を進める気はなく現金オンリーを貫いていくそうで、今でもホームページには「ドルでのお支払いもできます」と謳っている。
しかし、来店する外国人は駅前のコンビニでドルは円に両替してくることがほとんどで、実際にドルで支払う客はゼロに等しいという。
「開店当初の外国人のお客様は、ほとんどがドル支払いでした。1ドル=360円の円安時代、1ドルあればうちでならラーメン、餃子、白ごはんまで食べられたんですよ。今では客層もだいぶ変わって日本人の率が圧倒的に高くなりましたし、外国人も出張組がかなり増えています」
◆ベトナム戦争の頃に溜まった米ドルで買ったビル
さらに櫻澤氏は、ドル支払いの恩恵を受けていた当時のことも懐かしそうに語ってくれた。
「ベトナム戦争の頃なんかは、続々と米兵が来るものだから、ドルがもう貯まって貯まって仕方ありませんでしたよ(笑)。店を構えているこのビルも、言ってしまえばあの頃のドルで買ったようなものですからね」
せっかくなので、ボリューム満点だという「ポロ春」自慢のラーメンをいただくことにした。オリジナリティ溢れるたくさんのメニューの中から、注文したのは味噌粕坦々メン(900円)。酒粕の深いコクが感じられる、とても美味しい一品であった。
櫻澤氏は何度も「時代が変わった」と口にしながらも、「うちの量がアメリカンサイズなのは、昔のままなんですけどね」と笑った。
ポロ春の取材からの帰り道、街を歩いていると海外のお客さんで賑わっている一軒のタトゥーショップを発見した。調べてみるとメニューは英語表記で、価格は米ドル表記であった。米ドル文化は場所を変えながらも生き続けてはいるようだ。
<取材・文/もちづき千代子>