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「しゃぶ葉」がしゃぶしゃぶ食べ放題で“絶対的な存在感”を誇るワケ。グループ内でも筆頭成長株

日刊SPA! 2024年7月10日 8時52分

 すかいらーくグループの「しゃぶ葉」が人気だ。すかいらーくは、高度経済成長により生活水準が向上する中で、外食に対するニーズの高まりに対応するビジネスとして事業を拡大してきた。
 すかいらーくグループは、ロイヤルホスト、デニーズと並び、外食御三家として存在感を発揮し、外食を産業化した立役者でもある。フランチャイズ・システムなど、他人資源を活用して店舗数を拡大する外食チェーンが多いなか、あくまでも直営にこだわり、管理統制を厳格にする世界最大規模の直営ファミレスチェーンでもある。

 その傘下のブランドである「しゃぶ葉」は、今年1月において279店舗だったが、5月には9店舗出店し、現在は288店と、グループ内でも業績も著しい伸長度を見せており、経営資源の配分度合いを高めている。

◆人気急上昇で店舗拡大の「しゃぶ葉」

 すかいらーくグループの中ではガスト(1260店)、バーミヤン(357店)に次ぐ3番目の店舗数だ。しかし、中核ブランドのガストは1277店から1260店と17店舗減らし、バーミヤンは353店から357店と4店舗の微増だ。それだけにしゃぶ葉に力を入れているのが、店舗数の増減でも分かる。

【すかいらーくの業績(2021年~2023年)】
売上:3754億円→2646億円→3548億円
原価:1140億円→815億円→1149億円
粗利益:2613億円→1831億円→2399億円
原価率:30.4%→30.8%→32.4%
営業利益:2056億円→1821億円→1169億円
営業利益率:5.5%→6.9%→3.3%

 しゃぶ葉では平日ディナー限定で、豚しゃぶ+寿司の食べ放題+飲み放題のプランを1人3000円(税込)、しかも通常2時間が主流の中で3時間で提供している。若い男女のグループ客に人気で、店は賑やかになっている。このプランは、家族客にも最適で、就学前の子供は無料となっており、小さな子供連れの家族には最高だと思う。

 もちろん、宴会プランなので会社の宴会にも活用できる。筆者も実際に行き、飲食させてもらったが、サラダバーを見るとレタスやポテトサラダなどもあり、ドレッシングのカスタマイズ化も可能で、しゃぶしゃぶの薬味やタレ関係もバリエーション豊かに揃えてある。しかも、お肉たっぷりのカレーも食べ放題だ。

◆お得感いっぱいの3時間食べ飲み放題プラン

 アルコール飲み放題も自動生ビールサーバーや各種サーバーで多数用意され、お酒飲みのお父さん連中は大喜びだ。自分で入れるには大変だという人もいるが、この物価高のなか、これだけ安く食べて飲めるのはありがたい。

 もちろん、ゆったりと食事がしたいという高齢者の方々には向いていないかもしれない。だが、お子さんやお孫さんでご一緒に行く場合は、若い人が料理運びなどをやってくれるだろうし、賑やかでいいのではないかと思う。そういう大人数のファミリー向けにゆったりとした席も用意されている。

 肉と寿司は好きな商品をタッチパネルで注文し、その他の野菜関係やうどん・カレーは料理卓に各自が取りに行くようになっている。一方で店側は、安く提供するために肉や寿司の提供は配膳ロボットをフル稼働だ。厨房も含めて、少人数の店員で対応しているが、それでも利益を出すのは大変なのではと心配する。

 この一見、お客さんが得するだけの商品サービスの内容で、店側はやっていけるのかと思うが、そこはコロナ収束後、業績の回復が好調なすかいらーくの傘下だからできることだろう。

◆すかいらーく、営業利益は2倍以上に!

 すかいらーくグループの2024年1-3月期は、売上高956億円(前年比+110億円)、営業利益61億円(前年比+65億円)と好調だ。こういった外部環境の追い風である外食需要の順調な回復に加え、メニュー戦略、店舗オペレーション、店舗開発戦略、DX推進を中心とした今後の成長に向けた事業基盤が整いつつあるとのことだ。

 この食べ放題プランができるのは、やはりすかいらーくグループのスケールメリットとネットワークを活かし、効率的かつ安定的な調達を実現できているからだ。グループ約3100店のスケールメリットを活かし、世界中の生産者から厳選された高品質の食材を最適価格で調達するグローバルソーシングの仕組みを構築している。

 調達先は世界40か国におよび、為替変動のリスクを最低限に抑制している。相場が高騰した食材に関しては、世界中のサプライヤーとのネットワークを最大限に活用し、産地変更などフレキシブルに対応して、顧客提供価値を損なわないように仕組化している。

 また、すかいらーくはお客さんの利便性向上と従業員の生産性向上のために積極的にDXを推進している企業である。現金対応のセルフレジは約2400店舗に導入が完了し、お客の約70%がセルフレジやテーブル決済を使って会計を済ませている。お客の呼び出しや退店後の下げ物に着手する時間が短縮し、お待たせする時間の解消につなげている。

◆機械と人との分業システムを確立

 来店後のご案内(入口に案内板)~注文(タブレット)~料理提供(配膳ロボット+料理バーはセルフ)と人手があまり必要にならないようにシステム化されている。いずれはしゃぶ葉もガストのように、セルフレジになってくることが予想される。人がやる仕事、デジタル機器がやる仕事を合理的に使い分けた機械と人との分業システムを確立して人件費を抑制した分を原材料の負担に配分しているようだ。

 しゃぶ葉もクルー(アルバイト)中心の運営だが、すかいらーく傘下だけに厳格な管理がされている。飲食店経営は製造業と小売業の融合事業である。したがって、客数(新規客の誘致・既存顧客の来店促進)の伸び、客席回転率などの効率性、経費の大部分を占めるFLコスト(原価と人件費)、サービス評価などKPI(重要業績評価指数)の管理精度を高めることが重要だ。

 特に人件費管理においては、正社員とクルーの時間による総労働時間を予測時間帯別売上に応じて適正に投入し、人時生産性を徹底管理している。もちろんセントラルキッチンの稼働率を高めて生産性を向上させることも忘れてはいけない。そして店舗では、最小限の作業で料理提供できるように業務の効率化がされている。

 飲食店では60%以内に抑制することが重要になっているFLコスト(原価+人件費)。原価率をうまく低減させてもその分、人件費がかかっては利益が出ない。食材の共通化や半加工品をうまく活用し、食べられるメニュー数を増やして魅力度を向上させながら、原価と人件費を低下させているようだ。

◆昔、しゃぶしゃぶは高級料理

 昔、しゃぶしゃぶは、高級料理的な存在で、家庭で食べる機会はほぼなく、お店に行くとなれば富裕層しか行けなかった。1991年の牛肉輸入の自由化で安価で日本人の嗜好にあった米国産牛が大量に入ってきたことで、それらを扱う外食産業は大きく発展した。そして、以前は高級料理で食べる機会がなかったしゃぶしゃぶが、一般大衆でも食べられるようになったのである。

 そういった市場環境において、1995年、老舗焼肉店が始めた若者向けのしゃぶしゃぶ食べ放題が話題になった。しゃぶしゃぶ食べ放題が市場の広がりを見せつつあるなか、牛角を運営するレインズは2000年から「しゃぶしゃぶ温野菜」を、ワンカルビが運営する「きんのぶた」は2006年から営業を開始し、一気に市場が拡大した。

 しゃぶしゃぶ食べ放題の導入期頃はお肉の食べ放題のみだったが、新規に参入した競合他店は後から追随するために、先発者の提供内容に付加価値をつけて提供するのは当然で、何かしら先発者の内容に付加価値をつけて提供していた。野菜、ライスやうどんなど食べ放題の種類を増やしたり、価格を下げたりと仕掛けてきた。

 今は一品メニュー(揚げ物・焼き物・煮物など)、麺飯類、デザートなども食べ放題にするなど顧客サービスがより拡充されている。一品料理なども食べ放題にして魅力度を高め集客力を高めてはいるが、実はお肉ばかり食べられないように原価対策をしていることは否めない。

◆ここまで安く提供できる功績は大きい

 しかし、最近では輸入食材に依存している各店は円高による物価高騰に耐えきれなくなっており、価格が段階的に値上げされてきているのが実情だ。ワンランク上の食べ放題店の一品料理も食べ放題の店の中心価格は3500~5500円である。飲み放題1500円とのセット価格になれば、敷居が高くなっているのが実情だ。

 そういったしゃぶしゃぶの歴史の中で、極限まで安く提供できているしゃぶ葉の功績は大きい。自分でお肉以外の料理やドリンクを取りに行くという負担があっても、3時間の食べ・飲み放題が3000円とは通常では考えられない。

 和食さと、しゃぶしゃぶ温野菜、きんのぶたなど、ワンランク上の食べ放題店とは一線を画し、ポジショニングマップでも、棲み分けがされるだろう。しかし、しゃぶしゃぶ市場においての絶対的な存在感があり、さらに飛躍しそうな勢いだ。

◆フードロス削減を目指したプロジェクトも開始

 すかいらーくグループもブランド・ポートフォリオで成長ブランドと位置づけしていることが、積極的な出店から推察される。また、しゃぶ葉は、この4月から全店でフードロス削減を目指した「こまめどり プロジェクト」をスタートさせており、地球にやさしい店づくりに取り組んでいる。

 この食べ残しの撲滅活動による社会貢献はテレビでも広く紹介され社会的責任を全うする企業の姿勢がさらに評価されたようだ。外食産業が成熟化し、人々のニーズが多様化・個性化・高度化している中で、総ての人を満足させる業態の開発は困難を極めるもの。

 しかし、幅広いご家族連れを満足させる店であり、特にヤングファミリーにはお奨めの店である。

<TEXT/中村清志>

【中村清志】
飲食店支援専門の中小企業診断士・行政書士。自らも調理師免許を有し、過去には飲食店を経営。現在は中村コンサルタント事務所代表として後継者問題など、事業承継対策にも力を入れている。X(旧ツイッター):@kaisyasindan

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