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83歳、“架空”のおじいちゃんカメラマン「月3000万インプレッションの稼ぎは?」中の人を直撃

日刊SPA! 2024年7月16日 8時52分

 生成AIについての議論が加熱するなかで昨年6月頃、Xに登場して話題になったアカウント「會田与作」(@aidayosaku_)がある。83歳のおじいちゃんカメラマンが撮影したという写真を掲載しているが、よく見るとどこか違和感が……。
 じつは、生成AIで作成された“架空”の人物と写真なのだとか。しかしフォロワー数は伸び続け、現在は5万弱。なんと今年の8月には有楽町の阪急メンズで写真展まで開催予定だ。SNSでバズっているのなら、かなり儲かっているのではないか? 「中の人」に話を聞いてみた。

◆現れたのは「マネージャー」の30代男性

「會田与作」とコンタクトを取り、オンラインでの取材を受けてもらうことに。当初は「本当に80代の男性ではないか?」「いやいや、実は10代の高校生だったりするのでは?」などと編集担当者と想像を膨らませていたが、パソコンの画面上に現れたのは30代の男性。

 彼は自らを「會田与作のマネージャーの長橋です」と名乗った。本業はグラビアをメインに活躍するカメラマン。カメラマンならば最も生成AIの登場に脅威を感じている立場なのではないか?

「実はそこまででもなくて……すごい話題になってるなぁという程度でした。周りのカメラマンも生成AIを触りだして、高品質なものが簡単にできるらしいと聞いて自分もチャレンジしてみました。

 そこで、改めて人間のカメラマンの役割が明確になった感じがしましたね。たとえば、ちょっとした写真は生成AIに取って代わられてしまうかもしれませんが、まだまだ人間が勝てる要素があると確信したんです」(長橋さん、以下同)

 実際に生成AIを体験し、むしろ現時点での限界が見えてきた。「すぐに仕事がなくなってしまうことはないだろう」と感じた長橋さんは、AIで様々な実験を始めた。

◆アカウント名「aidayosaku_」は「AIだよ」

 生成AIが登場した頃、ネット上でやたらと目にしたのは露出度の高い美女の画像だった。

「当初は多くの人が可愛い女の子たちをいかに作れるかみたいなコンテンツにしのぎを削っていた印象です。でも自分は興味がなかったので、おじいちゃんが現実でありえないことをしている画像をふざけて作っていました。結構面白い画像ができて、SNS上でアカウントを作ったら面白いかも……と始めたのがきっかけです。こんなに注目されるとは思っていませんでしたね」

 Xのアカウント名は「aidayosaku_」。「AIだよ」から「あいだよさく」へと着想したと話す。遊びで始めたとはいえ、コンセプトは初期からしっかりと構想されていたようだ。投稿する画像はどのように作っているのだろうか。 

「生成AIには大きく分けると『Stable Diffusion』と『Midjourney』の2つのソフトがあります。『Stable Diffusion』は少し知識が必要ですが、僕が使っているのは『Midjourney』で、文章を翻訳サイトとかで英文にしてから入力するだけで高品質な画像できあがるんです。

 おばあちゃんの『果実でチャック』の画像なら、『おばあちゃんがジップのついた衣装を着ていて、頭に果物が生えている』みたいな文章を入力しました。最初はクオリティの低いものが出てくることもあるので、少しずつ修正して完成させますね」

 生成AIは人工知能が自動で画像を作ってくれるものの、ソフトに入力する文章は人間が考える必要がある。長橋さん自身のクリエイティブな発想も重要なのではないか。

「僕は大したことはやっていません。こんな画像を作りたい、というよりは“画像大喜利”みたいな感じです。出てきた画像に対してこういう文章を載せたらSNSでは面白いんじゃないかな、と考えています。見てくださっている方も画像単体よりも文章込みで楽しんでくれている気がしますね」

◆月3,000万インプレッションも「そこまで稼いでいない」

 今も「會田与作」のアカウントは伸び続けており、現在では4.7万フォロワー。インプレッション数は最大で月3,000万を叩き出したそうだ。X上では「投稿がバズったらPRしたいものを宣伝する」という“お決まり”の流れがあるが……。

「宣伝投稿風の画像もAIで作りました(笑)。まぁ、自分にはPRするものが特にないというだけなんですが、若干、SNSの“お決まり”への皮肉みたいなところもあります。一瞬、『なんだ、PRかよ』って思った人に心をザワつかせてほしいなと思いました」
 ある意味で「そんな小銭は稼がない」矜持にも見えるが、3,000万インプレッションもあったのなら、実際はさぞかし儲かっているのではないだろうか。

「いいえ。たとえば、Xの投稿でいいねを約30万も得た月に頂いたお金は2621円でした(笑)。別に會田与作で稼ごうとは全く思っていなかったので、逆に投稿するネタになって全然よかったんですけど……。X上でよく見る“インプレゾンビ”たちって、実は割りに合わないんじゃないかなぁとは思いました」

 とはいえ、8月には阪急メンズ東京で写真展が開催される。これはさすがに大金が舞い込むのではないか……と思ったが、「入場無料なので儲けるどころか、下手したら赤字になる可能性もあるかも」とのこと。それでは會田与作の活動に限界を感じているのだろうか。

「実は會田与作をきっかけに『生成AIに詳しい人』として企業さんへのコンサルのようなお仕事を頂いています。カメラマンの仕事と並行してやっているので、ありがたいことに忙しくさせてもらっています」

◆「バズった」からこそ分かる生成AIの限界

 本業のカメラマンの仕事に加え、生成AI関連の仕事も増えた長橋さん。それならば今後も「會田与作」とともに時代を突き進むのか? と思いきや「どこかのタイミングで辞める可能性はある」と話す。
「生成AIはまだまだグレーな部分があります。ネット上にあがっている様々な画像を無作為に集め、ごちゃまぜにして出力する構造上、ポルノ画像が含まれてしまったり肖像権を犯してしまったりする恐れもあります。誰かの顔がそのまま出るわけではありませんが、著作権の許可を取らずに何百億もの画像を組み合わせて出力されてしまい、どういうデータを使ってその画像ができたのか確認するすべがない。投稿前には似たような画像がないか地道に画像検索をかけて確認していますが、厳密には確認できないのが怖いですね」

 そうした怖さに加え、生成AIへの嫌悪感が根強いのも理由のひとつだ。企業が広告で生成AIを使用すると炎上するケースも多く、世の中としてはアンチが多いのだそう。會田与作にもDMがたくさん届くそうだが……。

「僕はそういったDMを送ってくる方の主張はものすごく理解できるし共感もできるので、“そうだよね”っていう感じで受け止めてはいます。生成AI自体は非常に進化が早く、数ヶ月経ったら新しいツールが出てきて革命が起きることもありますので、今は最前線で動向を見ながら、AIにできることを模索したいと思っています。

 ただ、生成AIに触れ、『人間ってやっぱ面白い』と強く感じました。本気のクリエイティブが試されているというか。そのうえでは、人間のユーモアにAIはまだまだ追いつけないと思います」

 生成AIの最前線で、冷静にその動向を見守っている様子。果たして、今後はどんな“変化”が起きるのだろうか。

<取材・文/松本果歩>

【松本果歩】
恋愛・就職・食レポ記事を数多く執筆し、社長インタビューから芸能取材までジャンル問わず興味の赴くままに執筆するフリーランスライター。コンビニを愛しすぎるあまり、OLから某コンビニ本部員となり、店長を務めた経験あり。X(旧Twitter):@KA_HO_MA

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