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“強力なファン”不在のドトールとサンマルク。明暗を分ける「直営店か否か」の違い

日刊SPA! 2024年7月18日 8時53分

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 コーヒー豆の価格が高騰しています。コンビニのコーヒーやペットボトル入りのコーヒー製品、家庭用レギュラーコーヒーまでもが次々と値上げに踏み切っています。

 スターバックスも2月に価格改定を行いました。日本のカフェチェーンにも打撃を与えそうです。

◆円安が重なって価格が高騰するコーヒー豆

 世界的にカフェ需要が回復。その一方で、コーヒー豆の産地は高温、干ばつなどの天候不順に襲われ、需給バランスが崩れました。そこに円安が進行。輸入コストの増加を招いてコーヒー価格は高まり続けています。

 総務省の消費者物価指数の「コーヒー・ココア」の物価変動では、2024年4月が117.6。基準年は2020年の1年間。過去10年を振り返ってもこれほどまでに上昇したことはありません。2024年3月4日に「セブンカフェ ホットコーヒーR」は、102円から112円に値上げされています。

 アルバイトの時給や光熱費も高騰していることを考えると、カフェチェーンも値上げが視野に入るでしょう。スターバックスは2024年2月に早くも価格改定に動きました。

◆価格改定の影響を受けそうな「ドトールとサンマルク」

 値上げで怖いのが客数への影響。しかし、スターバックスのようにブランドの強力なファンに支えられているカフェチェーンは、あまり影響を受けません。手頃な価格がセールスポイントにはなっていないためです。コメダ珈琲もスターバックスと近いところにあると言えるでしょう。

 国内で価格改定の影響を受けそうなのが、ドトールとサンマルクカフェ。ドトールはブレンドコーヒーのSサイズが250円。サンマルクが300円。この2社は客単価を低めに設定する一方で、席数を多く確保。繁華街などの人が集まりやすい場所に出店して高回転の店舗を運営するという特徴があります。

 低価格路線のブランドは価格改定の影響を受けやすく、値上げによって客数の減少を招くことがあります。この2社の客数と売上高の推移を比べると、将来的な値上げ耐性の有無が見えてきます。

◆「売上高が1.4倍に拡大した」サンマルク

 サンマルクから見てみましょう。

 2019年度の既存店の売上高、客数を100とした場合の各年度の推移です。既存店はオープンから一定期間をおいた店舗のことを示します。新規オープン効果がないために、店舗の本質的な集客効果が分かります。2023年度の客数はコロナ前の8割ほどしか回復していません。しかし、売上高はおよそ1.4倍に上昇しています。つまり、客単価が上がったのです。

 サンマルクは2023年6月、9月に価格改定を実施しています。2017年のブレンドコーヒーSサイズの価格は200円でした。現在は300円。

 サンマルクには、単純に価格を上げるだけではない強みがあります。「チョコクロ」をはじめとしたパンやサンドイッチ、パスタ、デザートなどの豊富なメニューがあるため。新商品の開発やセットメニューで客単価を引き上げられる素地を持っているのです。

 サンマルクは巧みに客単価を引き上げ、客数が戻り切らない厳しい現状をカバーしています。

◆客数は9割近くまで回復したドトール

 同じくドトールも客数は戻り切ってはいません。しかし、2019年度を100とすると、2023年度は89まで回復しています。しかし、売上は115。1.4倍近くまで増加していたサンマルクとは大きな開きがあります。つまり客単価の上昇が抑制されているのです。

 ドトールがドリンクの値上げをしたのは2022年12月。ブレンドコーヒーのSサイズは224円から250円となりました。わずかな価格改定に留めています。

 2023年度の客数は2019年度比で9割近くまで回復しており、値上げが集客には大きく影響していないことが分かります。

 サンマルクはドトールよりも客数の回復が遅れている一方で、価格改定効果が大きく、売上高を大幅に伸ばすことができました。ドトールはその反対で売上の回復ペースは緩やかなものの、客数はかつてと近いところまで戻しています。

 2社を比較すると、ドトールの方が将来的な値上げ余地が残されているように見えます。コーヒーの単価は依然として安く、客数の回復が順調であるためです。

◆フランチャイズ加盟店への配慮が必要な難しいビジネス

 ただし、ドトールには簡単に価格改定に踏み込めない事情もあるでしょう。FC比率が高いのです。2024年6月末時点のFC加盟店は808で、全体の8割ほどを占めています。一方のサンマルクは大部分が直営店。

 フランチャイズ主体のビジネスは、フランチャイザー(本部)が経営ノウハウや食材などを提供し、フランチャイジー(加盟店)が利益を出すことでウィンウィンの関係が成立します。加盟店を儲からせることが一番のポイントで、客離れを引き起こす事態は何とでも避けたいのです。

 日本は賃金が物価上昇に追いつかず、実質賃金は2年連続でマイナスとなっています。そうした中で、原材料高という理由だけで値上げを行うのは難しい経営判断が問われます。

“手軽さ”をセールスポイントにしてきたサンマルクとドトール。2社はデフレ下で隆盛を誇りました。サンマルクは次のステージへの移行をすでに遂げており、ドトールはかつての体制から脱却できていないと見ることもできます。

 ドトールは高付加価値の商品を開発するなど、単なる値上げではない方法で客単価を引き上げるような、ビジネスモデルの変革が求められているのかもしれません。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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