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いつも閉院ギリギリに「お風呂に入ってから」来る女性患者にイライラ…“予想もしていなかった事情”に反省

日刊SPA! 2024年7月19日 15時52分

 勝手な思い込みや決めつけで、他人を傷つけてはいないだろうか。SNS炎上が起こる原因のひとつとして問題視されることもある想像力の低下や欠如は、リアルな日常生活でも起きているようだ。今回はそんな体験をした水川玲奈さん(仮名・20代前半)に話を聞いた。
◆整形外科にやってくる30代女性

 整形外科でリハビリを担当することになった玲奈さんは、自分だけが新人という職場環境に早く馴染みたいと考えて頑張っていたとか。リハビリを受けにやってくる患者も多かったが、閉院時間の30分ほど前にはガランとしていた。

「患者さんが帰ってから、掃除機をかけて帰る感じです。一応、18時半までの勤務にはなっていて、患者さんがいて遅くなる場合は残業手当がつく仕組み。ただ、その頃は自宅でリハビリに関する本や資料を読み漁って勉強していたので、早く家に帰りたかったです」

 そのようななか、交通事故に遭ったという30代の女性Sさんが治療のため週3~4回やってくるようになった。ただ、やってくるのはいつも受付時間のギリギリ。そんな女性に、玲奈さんは「少し嫌気が差していた」と話す。

◆髪の毛がほんのり濡れているので…

「しかもそのSさん、いつも髪の毛がほんのり濡れている。入浴剤やシャンプーの香りもするので、『お風呂に入るぐらいなら、さっさと来いよ』と思っていたのです。でも、愚痴を言う相手は誰もいません。職場のスタッフ同士で患者さんのことを話すのはNGでした」

 もちろん、症状など状況について話すのはOKだったが、患者が誤解して嫌な気持ちにならないよう配慮するようにといった細かい決まりも。そして、玲奈さん以外のスタッフ3人もそれを守っていた。新人の玲奈さんが文句や愚痴を言うわけにはいかない。

「言葉として吐き出せない分、余計に鬱憤が溜まっていきました。ただ、Sさんも愛想がよく、悪い人間ではないようにも感じます。それでもお互い、とくに話しかけることもなかったため、それ以上のことはわからずにいました」

 そのため病院がイレギュラーで休みになるとき事前に渡すお知らせの用紙には、特別に閉院時間を書き込んで、マーカーペンで線まで引いて渡していたと玲奈さん。「自分でも嫌味っぽいとは思っていましたが、改善してほしかったのです」とも続ける。

◆「調子に乗るじゃない!」と思っていたが…

 そんなある日、閉院時間ギリギリにSさん以外の患者がひとりやってきて、玲奈さんが担当になり、すぐ近くで治療を受けていたSさんとベテランスタッフの会話が丸聞こえ。弾む会話の途中で、「すみません、いつも閉院ギリギリで……」とSさんの謝罪が聞こえてきた。

「すると、ベテランスタッフが『何をおっしゃいます? 時間内に来ていただいているので、まったく問題ないですよ』と驚いた様子で返したのです。私は『そんなこと言ったら、調子に乗るじゃない!』とイライラしながら、2人の会話に耳を澄ましていました」

 そして玲奈さんは、このあと予想もしていなかったSさんの事情を耳にすることになる。Sさんは、ベテランスタッフの言葉に「そう言っていただけると、救われます。私たち肉体労働者は仕事のあと、自分でも嫌になるぐらい汗臭くなるんですよね」と返したのだ。

「続けて、『とくに、この暑い季節は気を遣います。だから、時間的にお風呂に入ってからでも通院できるこの病院は、すごくありがたいです』とも言ったのです。そこではじめて、Sさんが私たちスタッフに配慮してくれていたことを知りました」

◆申し訳ない気持ちでいっぱい

 頸椎捻挫と診断されていたSさんの治療では、肩にも治療用の電気をセットする。お風呂に入ってからの来院は、そのためだったのだ。その事実を知った玲奈さんは、申し訳ない気持ちでいっぱいになったとか。

「これこそ、想像力の欠如だと反省しました。自分の帰宅時間のことばかりを考え、もしかしたらSさんに何らかの事情があるかもしれないと想像できなかった自分が恥ずかしいです。このことがあってから、想像力を働かせるよう意識するようになりました」

 そのように意識するようになってから、「他人の言動にイライラすることが減った」と話す玲奈さん。想像力を働かせて他人の事情に配慮する人が増えれば、“お互いをやさしく思いやる”そんな好循環にもつながるかもしれない。

<TEXT/夏川夏実>

【夏川夏実】
ワクワクを求めて全国徘徊中。幽霊と宇宙人の存在に怯えながらも、都市伝説には興味津々。さまざまな分野を取材したいと考え、常にネタを探し続けるフリーライター。Twitter:@natukawanatumi5

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