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激辛チップスで「病院送りの高校生」を責めるのはお門違い。「食を提供する側の責任」を問う

日刊SPA! 2024年7月21日 8時46分

外食産業専門コンサルタントの永田ラッパと申します。「日刊SPA!」では、これまで30年間のコンサルタント実績をもとに、独自の視点から「食にまつわる話題」を分析した記事をお届けしていきたいと思います。今回のテーマは、「激辛食」です。
7月16日、東京都大田区の高校で、「18禁カレーチップス」という激辛ポテトチップスを食べた高校生14人が体調不良を訴えて救急搬送される事故がありました。幸いにも皆さん軽症で、命に別状はないとのことですが、この報道に接したとき、私の中にいくつかの懸念が芽生えました。

◆辛さの適量は人それぞれだからこそ…

この事故がきっかけで、「辛いもの=危ないもの」というイメージが定着してしまうのは危険です。適度な辛さは健康にいいというエビデンスがあります。辛い料理の多くはトウガラシが使われています。トウガラシの辛みの主成分であるカプサイシンは、摂取することで発汗が促されてダイエットや血液循環がよくなるなどの効果が期待できます。また善玉コレステロールが増えるというデータもあるのです。

しかし辛いものに強い人もいれば、そうでない人もいます。辛さの適量は人それぞれで異なるのです。食べたときに「辛い!」と思いながらも次のひと口を求めてしまうものは、その人にとって適量の辛さと言えるでしょう。逆に食べたあと、噴き出すように汗が出たり水をガブガブ飲んでしまい、次のひと口に手がのびない場合は、その人の辛さの適量を超えていると言えます。

◆激辛食は「ハイリスク」であることを忘れてはいけない

「激辛」といわれるものは健康へのリスクも非常に高いのです。激辛食は、のど元過ぎれば安全というわけではありません。食道や胃や腸も一定のダメージを受けます。食道部分がヤケド状態になることもあれば、逆流性胃腸炎を発症してしまうケースや、喘息持ちの人のならばそれが悪化することもあります。

それでも数年前から「激辛ブーム」と呼ばれるものが続いています。「激辛女子」と呼ばれる女性も増えていますね。私は四川料理店やインド料理店、辛さを選べるカレーショップなどの存在を否定するつもりはまったくありません。辛いものが好きな人にとって、そんなお店は選択肢のひとつになっているでしょう。すでに述べた通り、辛さの適量は人それぞれです。自分の適量を把握して、辛い食べ物を楽しむというスタンスであれば問題はないのです。

◆激辛メニューを食べさせるテレビ番組の悪影響も?

激辛ブームの流れからか、テレビのバラエティ番組などで激辛メニューをタレントなどが食べてコメントしたり、演出としか思えないようなリアクションをするシーンも増えました。ブームがエスカレートし、今回のような事故が起きた背景には、このような番組の影響が大きいかと思います。私は以前からSNSなどで警鐘を鳴らしていました。

そのような番組に出演するタレントの中には、本当に激辛好きの人もいるでしょう。でも、そうでないタレントの場合、自身の露出のために我慢して食べた結果、体調を崩しているかもしれません。

私の根底にあるのは「食を提供することでお客さまに喜んでいただき、その人の人生を豊かにする」というものです。これは、ほとんどの飲食店でも飲食料品メーカーでも同じだと思います。ゲーム感覚で激辛メニューを食べさせるような番組に協力している飲食店は、自分たちのビジネスのプロモーションや利益を優先しているのではないでしょうか。健康を害してしまうレベルのものを提供する人たちは、食を扱う者としての知識も勉強も足りないのです。食べた人の命にかかわることもあるということを、食に携わる者はしっかりと認識しなければなりません。

◆食べる人のことを考えた仕事のやり方を考え直すべし

今回、問題のポテトチップスを持ち込んだ高校生が責められる向きもあるようですが、みんなに楽しんでもらいたかっただけであり、悪意があったわけではありません。また激辛食のリスクについて知識があったわけでもないのです。この高校生を責めるのはお門違いです。彼らはみな、間違いなく被害者なのです。

このポテトチップスを作ったメーカーに対しては、食を提供する者としての責任を感じて、仕事のあり方についても考え直してほしいと思っています。パウダー状の香辛料で辛さを調節できるという言い分はあるでしょう。しかし「18禁」などという訴求方法で、消費者がそれをどう扱うか、想像できたはずです。マーケティング上、激辛というワードで尖らせたかったという事情は理解できます。尖れば尖るほどSNSなどでバズり、他の自社製品の売り上げも伸び、流通上、店舗の商品棚を確保しやすくなるという事情もわかります。しかしそれはメーカー側の事情でしかない。それを口に入れる消費者のことを考えていないのです。当該商品はすぐに販売中止にすべきです。

飲食店でもメーカーでも、食を提供する人たちは自分たちのことばかりでなく、視野を広く持ってほしいと思います。今回のように食べた人を不幸にしてしまうような仕事のやり方はもってのほか。「どうすればお客さまに喜んでもらえるか」を考えた仕事のやり方を、この事故をきっかけにあらためて考え直してほしいのです。

<TEXT/永田ラッパ>

【永田ラッパ】
1993年創業の外食産業専門コンサルタント会社:株式会社ブグラーマネージメント代表取締役。これまで19か国延べ11,000店舗のコンサルタント実績。外食産業YouTube『永田ラッパ〜食事を楽しく幸せに〜』も好評配信中。

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