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1日400杯売った「元ビールの売り子」が裏側を暴露。真夏のデーゲームの“過酷すぎる舞台裏”

日刊SPA! 2024年7月23日 15時54分

 連日熱戦が繰り広げられているプロ野球。今月にはオールスターも控えており、ファンにとっては目が離せない戦いが続いていくことだろう。
 そして、野球観戦の醍醐味と言えば、球場に赴きビール片手に試合を楽しむ、そう考えている人も多いのでは? そんな時に欠かせないのが可愛らしい衣装と笑顔が目を引く「売り子」の存在。

 客は若い女性からお酒を買って楽しいひとときを過ごしている一方で、売り子たちは少しでも多く売るために客を奪い合い、現場では静かなる戦いが繰り広げられているようだ。

 今回は、以前某プロ野球の球場で売り子をしていた「はまのあんず」さんに、売り子の裏事情についてお話を聞いてみた。

◆ビールよりもサワーの方が多く売れるワケ

 まず最初に売り子を始めたきっかけについて聞いてみた。意外にも母の勧めがきっかけの一つになったという。

「私、昔ソフトボールをやっていたので体力には自信があったんです。数年前に仕事を探していたとき、母から『野球好きで体力もあるんだから、野球場の売り子さんが向いているんじゃない?』と勧められました。その母の一言をきっかけに売り子を始めることにしたんです。結果的には2年ほど売り子として働きました」

 お酒が入った樽を背負い球場内を歩き回る売り子。客席は階段状になっているだけに上り下りも多く、たしかに体力に自信がないと務まらないだろう。そんななかで、はまのさんはサワーを担当することが多かったそうだ。

「野球場の売り子といったら、やっぱりビールが花形なんですよね。だから、みんなビールを担当したがります。もちろん私もビールをやりたかったんですが、あまりやらせてもらえなくて、サワーを売っていた回数の方が多かったです。でも実は、杯数的にはビールよりサワーの方が多く売れる場合もあるんですよ。単純に値段が安いことが一番の理由だと思います。ビールであんまり売れなかった子と比べて、100杯くらい多く売ったこともありました」

◆ナイターよりデーゲームの方が売れる理由

 また、プロ野球にはデーゲームとナイターがあるが、それによって売り子が販売する際のルールも異なるという。はまのさん曰く、ナイターよりもデーゲームの方がたくさん売れる傾向があるようだ。

「ナイターの場合、販売できる時間が21時までという制限があるのですが、デーゲームだと8回裏ツーアウトまで。なので、デーゲームで試合が長引けば長引くほど、販売時間も長くなるので結果的に売れる数が増えます。最高で約400杯売ったことがあるのですが、それもデーゲームでした」

 ただ、売れる可能性が高くても、デーゲームにはナイターにはない辛さがあるという。

「私が働いていた球場はドームではなかったので、夏のデーゲームはめっちゃ暑かったですね。一応、帽子は被っているのですが、売り子独特の被り方があって、帽子を半分に折ってピンで止めるんです。見た目が可愛くなるので、みんなその被り方をしていたのですが、後ろは被っていない状態。しかも、お客さんに顔を覚えられると買ってもらえる可能性が高くなるので、顔がよく見えるようツバは上げていました。真夏の炎天下でも、帽子としての機能は全く果たしていませんでしたので、かなり暑かったですね……」

◆裏で支えるチェッカーの存在

 ドームではない球場の真夏の炎天下ともなれば相当な暑さ。なかには体調を崩す売り子もいるとのことだが、熱中症対策などはどうなっているのだろうか?

「裏方のスタッフとして“チェッカー”という役割のスタッフさんがいるんですが、その方が冷えたタオルや飲み物を常に用意してくれていました。あと、売り子が販売している間も見守ってくれているので、体調の悪そうな子がいたら声を掛けてくれたりするので安心して仕事ができていましたね」

 また、試合時間=勤務時間なだけに特に休憩時間はなく、試合の間はずっと販売しつづけているとのこと。

「休憩時間というものは特にありません。背負っている飲み物が空っぽになったらチェッカーさんに補充してもらうのですが、そのタイミングがちょっとした休憩タイムですね。もちろん、絶対に休憩をしてはいけないというワケではなく、上手く休憩を取りながら働いている売り子もいます。でも、やっぱり休憩するとその分売る時間が短くなるので、よほど体調が悪くならない限りは売り続けている人が多かったですね」

◆試合中はお客さんの顔しか見ない

 暑さ、寒さ、雨など日によっては非常に過酷な状況下で働くことになる売り子たち。だが、そんななかでも常に心掛けていることがあるそうだ。

「とにかく笑顔とフレンドリー感が大切ですね。意外と常連さんも多いので、顔見知りになったら私から声をかけたりします。飲んでいるお酒が減っていたら『おかわりどうですか?』って感じで。常連さんとはいえ毎回座っている席は違いますけど、試合中は常にお客さんの顔しか見ていないので簡単に見つけられます。そうやって常連になってくださったお客さんの席を把握して、飲み物がなくなりそうな頃に様子を見にいって勧める感じですね」

◆売り子はまさに時間との戦い

 プロ野球の試合は長くても4時間程度。その限られた時間の中で効率良く仕事をこなす為には「売る場所」も大事になるとはまのさんは語る。

「お酒を飲むお客さんはどこの席にもいるので、『ここがよく売れる!』っていう場所はないのですが、お酒を補給する場所近辺の席は効率良く売れるので、結果的に“稼げる場所”と言えます。単純に往復する時間を短縮できて客席にいる時間が長くなるので。ちなみに私が売っていたサワーは一回で16杯分しか入らないので、100杯売るとしたら7往復することになります。それだけ往復するので、やっぱり補充する時間の短縮は重要ですね」

◆売り子を辞めた後もスポーツ関連の仕事に

 はまのさんは、その明るいキャラとおしゃべり好きな性格が相まって、顔見知りの常連客も多数いたようだ。売り子の仕事は昨年の9月で辞めたそうだが、今は何をしているのだろうか?

「今はスポーツ関係のインフルエンサーをやっています。野球観戦をしている動画を発信したり、水球チームのマネージャーをやりつつ動画を作ってPRしたり。あとは、SNSのアカウントの運営代行ですね。自分一人でやっているわけではなくて仲間数名とやっているのですが、法人と個人合わせて代行しているアカウントは30以上あります」

 最後に「将来的には野球場の近くで、お母さんと一緒にお店をやりたい」と語ったはまのさん。彼女の売り子時代に身につけたコミニュケーション力と、SNSを活用したPR力は折り紙付き。そんな彼女のお店がオープンしたら人気店になる予感がするのは筆者だけではないだろう。

 今後の彼女の活躍にも注目していきたいところだ。

取材・文/サ行桜井

【サ行桜井】
パチンコ雑誌『パチンコ必勝ガイド』『パチンコオリジナル実戦術』の元編集者。四半世紀ほど勤めた会社を退社しフリーランスに。現在は主にパチンコや競輪の記事を執筆している。

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