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結婚披露宴では「他人の友人スピーチ」も…サクラ歴10年のベテランバイトが語る“知られざる修羅場”の数々

日刊SPA! 2024年7月24日 15時51分

 サクラバイト歴10年以上のキャリアを持つ筆者。赤の他人の結婚式での友人、プロレスの観客、会社の販売部長など、様々なシチュエーションでサクラとして潜入してきた。
◆結婚式で新郎の同僚役。「君の会社は…」と親族に話しかけられ…

 サクラ業(代理出席業)のなかでイージーな現場の部類に入るのが、結婚式のサクラである。

 何らかの事情で空いた結婚披露宴の席を埋めるため新郎新婦いずれかの関係者のフリをする。ハレの場を荒らすことさえしなければ、フルコースの料理とアルコールを楽しみながらプログラムがただ過ぎるのを待っていればいい。終わればギャラに引き出物まで付いてくるんだからこんなラクな仕事はない。

 ただし、その他大勢ではなく、役つきの特別ミッションが下った場合は別だ。結婚披露宴につきものの、乾杯発生、友人代表のスピーチ、余興などである。筆者はサクラとしてそのすべてをこなした経験がある。

 北関東にサクラ4人で結婚式に出席した時は、クライアントは某大手自動車メーカーに勤める新郎だった。我々サクラには新郎の同僚として、乾杯発生、祝辞、代表スピーチという大役が振られた。サクラ全員が同僚役ということは、新郎側の勤め先からの出席者は実質ゼロ。新郎は勤め先のシフト上の理由からサクラ起用に至ったようだ。

 披露宴では筆者を含めて皆ベテランのサクラとあってそつなく大役をこなし、タダ酒とタダ飯を楽しんでいると、新郎の父親がお酌に回ってきた。

「今、○○(新郎が勤める某自動車メーカー)では新車を作っているらしいけど、どんな車なの?」

 下手なことは言えないので、「まだ詳細は発表になっていないので詳しいことはお父さんにも言えないのですが、ヒントはエコです」と絞り出してことなきを得た。

 このように、式にサクラが出席していることを知っているのはクライアントのみというケースがほとんどなため、事情を知らないクライアントの肉親からのコンタクトが最も危険なのだ。

◆某プロレス団体「今日初めて来た人?」→ほぼ全員が挙手

 筆者がサクラのバイトを始めたばかりの10年ほど前は、サクラといえば結婚式出席の仕事がほとんどだった。ある年の6月には赤の他人の結婚式に2日連続で出席し、1日目には新郎友人として余興でウルフルズの「バンザイ」を歌い、次の日には友人代表スピーチをしたこともある。

 しかし、コロナ禍によって結婚式の仕事は皆無となり、入れ替わるように増えたのが、音楽ライブや演劇などのエンタメ系のサクラである。つまりお客のフリをしてライブなり演劇なりに参加するわけである。

 チケット代はおろか、ギャラを払ってまでお客を集めなければならない事情--。それにはエンタメ界の慣例となっている「チケットバック制」が大きく影響しているようだ。チケットバック制は出演者のギャラの管理だけではなく、出演者1人ひとりの集客力を測る目安にもなっているらしい。そこでサクラの出番となるわけである。

 エンタメ系のサクラで印象深いのが、某プロレス団体の興行を観に行ったときである。会場のある新木場の駅前に集められたサクラはその数30人以上。登録スタッフだけでは足りず、サクラの友人、知人にまで参加の呼びかけが行われた。

 メインイベント前、リングアナウンサーも務める団体代表が客席に問いかける場面があった。

「本日、当団体の大会を初めて見に来たというお客さん、手を挙げてくれますか?」

 ほとんどすべての客が手を挙げたのは言うまでもない。

◆企業の「社運を賭けた一日」に思い入れもなく参加

 サクラ業のなかで難易度の高いのがビジネス関係の仕事だ。

 たとえば、筆者は某ゲームアプリ会社から依頼が来た「スポンサーとなってくれそうな企業の内見の場で社員に扮し、会社を実際より大きく見せる」という現場に立ち会ったことある。

 サクラとして与えられた業務は内見の現場でパソコンのモニターを眺めているだけでよかったが、クライアントであるゲームアプリ会社にしてみれば会社の命運を賭けた一日だったろう。その心中を察し、おのずと筆者のモニターを見る目にも力が入った。

 また、コロナ禍には、とある飲料メーカーによる元有名スポーツ選手を招いたオンライン講演会の撮影にサクラ2人のうちのひとりとして立ち会ったことがある。

 筆者は飲料メーカーと契約している大手小売店の販売部長という肩書。もうひとりのサクラは上役の取締役だったのだが、事件はこの上役が引き起こした。

 仕事を終え一緒に帰っていると、「クライアントが用意した元スポーツ選手との挨拶原稿を現場に置き忘れた!」と言うのだ。事情を知らない人間の手に渡ったら一大事である。すぐに引き返して事なきを得たようだが、同じサクラとして冷汗が出た瞬間だった。

 ちなみに、この講演会は双方の会社の担当者が契約を続けるために仕組んだダミーで、撮影されたビデオは永遠に闇に葬られるという。

◆「ブスを10人以上集めるの大変なんだよ」

 このように、サクラと一口に言っても誰もが務まるわけではない。以前、遠方に結婚披露宴の仕事で出かけた際、帰りの車中でサクラを束ねる代理出席業者がこぼした言葉が深く記憶に残っている。

 なんでも、近々、都内のとある自治体が主催する街コンの手助けを頼まれたらしいのだが、女性のサクラを10人以上集めなければならないという。

「男の参加者から連絡先も訊かれないようなブスを10人以上集めなければならないんだから大変なんだよ」

 シビアな世界である。

<文/ボニー・アイドル>

【ボニー・アイドル】
ライター。体験・潜入ルポ、B級グルメ、芸能・アイドル評などを中心に手掛ける。X(旧Twitter):@bonnieidol

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