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子供の塾を勝手に決めてきたパートナーへの怒り。しかし「相談できない状態」を作ったのは自分だった

日刊SPA! 2024年7月25日 15時51分

―[モラハラ夫の反省文]―

 DV・モラハラ加害者が、愛と配慮のある関係を作る力を身につけるための学びのコミュニティ「GADHA」を主宰しているえいなかと申します。コミュニティではさまざまなグチや悩みなども共有されるのですが、共通するものがたくさんあります。
◆「大事なこと」を勝手に決めたパートナーに怒り

「今回のケンカのきっかけは、パートナーが子どもの塾のことを勝手に決めてきたことでした。『大事なことは一緒に決めよう』って約束しているのに、事前に何の相談も断りもないなんて……ひどいと思いませんか?」(Aさん)

 今回はこのセリフの背景に迫りたいと思います。

 パートナーとの関係の危機を迎え、GADHAに参加することを決意したAさん。最初は、自分の行為がモラハラだとは夢にも思わなかったそうです。それでも、当事者会に参加したり、Slackの書き込みを読み漁っていくうちに、自分の認識のズレや甘さに気づかされたと言います。

 それ以降、Aさんは、パートナーとのコミュニケーションに心を砕いてきたので、余計に今回のことがショックだったようです。

「パートナーが『大事なこと』を勝手に決めてきたのは、これが初めてのことではないんです。その度に『大事なことは一緒に決めたい』『事前に相談してほしい』って、こちらのニーズをパートナーには何度も伝えているんですよ!それなのにあんまりじゃないですか」

◆Aさんのパートナーは、当初からそのような身勝手な人だったのか?

  Aさんは、そんなふうに小さな怒りや悲しみを抱えて、最後にはこう言いました。

「夫婦なんだから『助け合って一緒にやっていきたい』と自分は考えているんです。自分としては『事前に相談してほしい』だけなんですが、加害者にはそれすら高望みなのでしょうか……」

 一見「加害者(Aさん)」が普通の人で、「被害者(パートナー)」の行動こそが加害なのではと思う人も多いでしょう。DV・モラハラを知らない人が素直に聞けばそう思うのも自然な内容です。

 しかし、GADHAでは、加害者自身からは見えていない視点があるかもしれない、と想像しながら相手の話を聴きます。

 そこで、僕はAさんに聞いてみました。

「Aさんのパートナーは、付き合っていた頃や結婚した当初から、Aさんに事前に相談や断りもなく何でも勝手に決めていくような人だったんですか?」

 すると、Aさんは次のように答えてくれました。

「いいえ。明るくて話好きで、どちらかというとこちらの意見を尊重してくれているようなところがありました。お気に入りのアニメの話とか、むしろ、自分にとってはどうでもいいようなことまでよく話してくれました。残念ながら、何が言いたいのか、自分にはよくわからないことも多かったので、『整理してから話をしてほしい』と言ったことも、一度や二度ではありません」

 Aさんは続けます。

「せっかく話をする時間を取るなら、お互いのためにも、ちゃんと言語化してほしいんですよね……」

◆「相談してほしい」と言いながら、一方的に相手に負担をかけていたAさん

 一口に「話をする」と言っても、趣味嗜好など単なるおしゃべりもあれば、悩みや困っていることなどの共有もあります。

 悩みや困っていることなどは、そもそも何が問題なのかが自分でもよくわかっておらず、人と話をしているうちに整理されていく場合も少なくありません。

 それなのに、思い切って相手に話すと「何を言いたいのかわからない」「整理してから話をしてほしい」と一蹴されたら、皆さんはどう感じますか?

 自分としては精一杯努力し整理して話をしているつもりなのに、そのように言われ続けたとしたらどうでしょうか?

 自分自身が一方的にジャッジされるばかりなのであれば、だんだんと相手に話したり相談したりするのが億劫になるであろうことは想像に難くありません。

 つまり、Aさんは「大事なことは一緒に決めたい」「事前に相談してほしい」と口にしてはいるものの、

 1. 自分が興味・関心のないことについては「どうでもいいこと」として、パートナーのニーズや価値観を蔑ろにし、
 2. 「お互いのため」と言いつつ(自分自身の理解責任を放棄し)相手に説明責任や負担を一方的に押し付けている状態、

 すなわち、(Aさんが意図している/していないに関わらず)「俺の意見やルールに従え!」とパートナーに上下関係を強要してしまっている可能性が非常に高いのです。

◆Aさんのパートナー視点からは、まったく別の姿が見えていた?

 そのため、この相談はAさんのパートナーの視点からは、次のように見えている可能性があります。

「『大事なことは一緒に決めたい』って言うから、子どもの塾のこととか事前に相談しようと話しかけているのに、いつも『忙しい』とか『時間がない』とか言うばかりで、そもそも相談するための時間を取ってくれないんです。たまに話ができても『何が言いたいのかわからない』『整理してから話をしてほしい』って……失礼ですよね! 

 それなのに、私が整理してから話をすると、『勝手に決めてくるな』と怒り出したり、『いつも君は相談しないよね』とか嫌味を言い出したりしてくるんです。ひどいと思いませんか? こちらのことを理解しようとしないで、自分の感じ方や考え方を一方的に押し付けてくるような人とは一緒に暮らしていけません」

 僕は、Aさんの言動に違和感を感じたので、確認してみました。

「なるほど。Aさんとしては、パートナーと一緒に子どもの塾のことを決めたかったんですね?」

「はい。そうです」とAさんは答えてくれました。

「普段は仕事で忙しく、家のことや子どものこともあるので、お互い自分の時間もなかなか取れないんです。だから、子どもの塾のことを相談し決めるのにかかる時間を少しでも減らせるように、事前にポイントを絞って相談してもらえる方がお互いにメリットがあると思うんです」

僕は、Aさんに質問してみました。

「そうでしたか。では、今回、Aさんのパートナーが子どもの塾のことを決めるにあたり、Aさんに事前に相談しなかったのはなぜだと思いますか?」

「え……うーん……」

 Aさんの表情が少し曇りました。

◆相談は、最初から答えが決まっているとは限らない

 僕は、続けて「Aさんのパートナーがご自分のニーズをAさんに教えてくれないのは、なぜだと思いますか?」と質問してみました。

「Aさんのパートナーは、子どもの塾のことで相談したかったポイントを言語化できているけれど、Aさんに話したくなかったのでしょうか? そもそも相談したいこと自体をうまく言語化できていないとか、相談のポイントが何なのかをご自身でもわかっていなかったという可能性はありませんか?」

 Aさんは、ハッとした様子で答えてくれました。

「そうか……私はパートナーから相談してもらえなかったことを『自分を軽んじている』とか『自分を信頼してくれていないからだ』とばかり思い込んでいましたが、確かにそういう時だけではないですよね」

 通常、悩みや相談したいことなどは、何でも言語化されていたり、論点整理できているようなことばかりではありません。

「相手は何を伝えようとしているのか、こういうことだろうか?」と相手の意図やニーズを想像しながらコミュニケーションを重ねることで、相手自身でさえも気づいていなかったことが明らかになってくる場合も多々あります。

 そうしたプロセスにこそ、相手の悩みやニーズを知り、ケアをする機会へとつながるヒントが潜んでいるのです。

◆パートナーが相談できない状況に追い込んでいたのはAさん自身だった

 後日、Aさんは、パートナーとのやり取りについて次のように話してくれました。

「最近特に仕事が忙しくて自分の時間を満足に取れていなかったので、私はパートナーとの雑談時間を極力削ろうとしていました。でも、それは、自分から『相手のニーズや価値観、状況などを知る貴重な機会』を放棄することに他ならなかったんです。

 結局、私は、パートナーが一人で子どもの塾のことを決めざるをえない状況に自分で追い込んでおきながら、それを自分勝手にパートナーのせいにして、あまつさえ自分が被害者ぶってパートナーを責めていたんです……つくづく自分が嫌になりました」

 そしてAさんは一呼吸置いて話を続けてくれました。

「でも、勇気を振り絞って、えいなかさんやGADHAの仲間に相談したり、弱音を吐いたりしているうちに、どうにかこうにか自分の気持ちの整理もできてきました。

 おかげさまで、最近はパートナーとの雑談を意識するようになり、自分の感じていることや状況などを、気軽に、日常的に相手と共有していくことが少しずつできるようになってきました。

 すると、相手も普段どんなことを感じているのか、大切にしているのかといった話もできるようになり、子どもの塾のことに限らず、パートナーがどうしてそう考えたり行動したりしているのか、その背景が自分にも垣間見えるようになってきました。

 そのおかげで、自分の認識を少しずつ修正したり、アップデートできるようになり、ケンカすることがだんだん減ってきたように思います。えいなかさんやGADHAの仲間に思い切って相談してみて、本当に良かったです」

 Aさんのどこか晴れ晴れした表情が印象的でした。

◆相手があなたを理解する姿勢がなければ、関係を終了してもいい

<被害者かもしれないあなたへ>

 相手の基準や価値観を一方的に押し付けてくる(=あなたの基準や価値観を尊重しない)のは、典型的なモラハラです。
 
 いくら相手にも事情があるとは言え、あなたの話を理解しようとする姿勢が一向に見られないのであれば、あなたには「相手との関係を終了する」という選択肢もあります。

 さまざまな専門機関や相談窓口がありますので、ぜひ「パワハラ 被害」「モラハラ 被害」などで検索してみてください。あなたの愛が搾取され尽くし枯渇してしまう前に、(できれば身近な常識人よりも)まずは専門家へ相談してみることをおすすめします。

<加害者かもしれないあなたへ>

 人の価値観や感じ方・考え方は多種多様です。人の数だけあると言っても過言ではありません。自分の価値観からはムダとしか思えないようなことの中にこそ、相手にとっては、とても大切なニーズや、ケアの機会へとつながるタネがあるかもしれません。

 それを発見するためには、あなたなりの解釈やジャッジメントを挟まずに、まずは相手の話を徹底的に「聴く」ことが重要です。たとえ、自分には理解できないものだとしても、あなたの大切な人が「大切だ」と言うなら、まずはそれをいったん受け止め、寄り添うところから始めてみてください。

 相手が話しかけてくれているうちにしか、これはできません。相手が関係の終了を決意した場合、言葉を交わすことさえできなくなってしまうことは本当によくあるのです。

【えいなか】
DV・モラハラなど、人を傷つけておきながら自分は悪くないと考える「悪意のない加害者」の変容を目指すコミュニティ「GADHA」代表。自身もDV・モラハラ加害を行い、妻と離婚の危機を迎えた経験を持つ。加害者としての自覚を持ってカウンセリングを受け、自身もさまざまな関連知識を学習し、妻との気遣いあえる関係を再構築した。現在はそこで得られた知識を加害者変容理論としてまとめ、多くの加害者に届け、被害者が減ることを目指し活動中。大切な人を大切にする方法は学べる、人は変われると信じています。賛同下さる方は、ぜひGADHAの当事者会やプログラムにご参加ください。ツイッター:えいなか

―[モラハラ夫の反省文]―

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