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「おばちゃんになる覚悟はできたのか?」 久保みねヒャダ、6年のおしゃべりを振り返る

日刊SPA! 2024年7月27日 8時51分

マンガ家の久保ミツロウ、文筆業の能町みね子、音楽クリエイターのヒャダインによる、フジテレビのトークイベント『久保みねヒャダこじらせライブ』が人気です。そんな3人の約6年分のおしゃべりを記録したトーク集が『カウンセリングするつもりじゃなかった〜久保みねヒャダこじらせ雑談』。その出版記念に、久保みねヒャダの3人に、それぞれ気になる回を挙げていたただきました。
◆突然、演劇が始まるのは通常運転

久保 改めて読んだけど、どこから読んでも面白いなって。これは私らの感想であって、他の人もそう思ってくれればいいんだけど。でもトイレに置いておくのに最適ではある。

能町 トイレに置きましょう! 1トイレに1冊。

久保 どの回もけっこういいんだけど、私としてはコロナ禍の前、まだ自分がこじらせてない頃のスカッとした感じが読みやすかった。 みんなでうんこの話をしてた回があったじゃないですか。

──何回かしてると思います。

一同 (笑)

久保 「お前が話したいのは、どのうんこだい?」

能町 「うんこって素晴らしいですよね」と言わせるやつですか?

久保 そう、それ。「返事の追い越し」の話。

──ああ、相づちが形骸化してる人の話ですね。

——(引用はじめ)——

久保 理解のスピードが速すぎる人は疑わしい。「お前にわかるかよ!」って思う。(中略)ヒャダインさん、「うんこ」しか言わないで。私がさっきのお弟子さん筋の人やるから。

ヒャダ 「うんこって茶色いですよね」

久保 (頷きながら)「うーん、わかるわかるー、そっかそっかー」

ヒャダ 「うんこって臭いですしね」

久保 (頷きながら)「うーん、うーん」

能町 「でも私、うんこってきれいだと思います」

久保 (頷きながら)「そっかー、うーん」

能町 「うんこって、この世で一番美し……」

久保 (食い気味に頷きながら)「うんうんうんうーん!」

(TALK-09「どんな相づち打ってますか?」より)
——(引用終わり)——

久保 全体的にそうだけど、そういう話をするときに、途中で小芝居が入るときあるじゃん。あれをちゃんと再現してるんだよね。

能町 でもうんこである必要は、まったくないですよね(笑)。

久保 まったくないんだけど、でも私はいろいろ出てくるうんこの話がすごく……。

ヒャダ うんこは出てくるものですよ(笑)。

久保 ああいうとき、私はスカッとして……。

ヒャダ うんこはスカッとするものですよ(笑)。

久保 ああいう小芝居のくだりを見てると、朗読劇というか、演劇的に見えたんですよ。これを朗読劇として再現したらいいのでは……って誰もやらないだろうし、自分でもやらないんだけど。演劇的な終わり方だなと思ったのは、「助けてボタン、押せますか?」の回。最後に私が「消えるボタン」を押したら消えなくて、そのときの能町さんのセリフが良かったんだよね。

──いざというとき、人に助けを求める「助けてボタン」を押せるかという話をしていたら、久保さんが「消えるボタンのほうを押したい」と言い出して。

——(引用はじめ)——

久保 勝手に一人で逝くのはなしにしようと思ってます。思ってますけど、「消えるボタン」があったらそっちのほうを押しちゃいそう。

能町 ダメです。押すのは「助けてボタン」にしてください。

ヒャダ こうすればいいんですよ。「おばあちゃん、これが消えるボタンよ」って渡しておいて……。

久保 「消えたくなったら押してね」つって。「あいよ」ポチッ。

ヒャダ そしたら助けに駆けつけます。

久保 「あれ、消えない? 消えないよ?」

能町 消えさせませんよ。

(TALK-30「助けてボタン、押せますか?」より)
——(引用おわり)——

久保 私が「消えない? 消えないよ?」と言ってるところに、能町さんが「消えさせませんよ」と言って、このあと暗転ですよ(笑)。

一同 (笑)

ヒャダ 間は大切ですね。

久保 そう。私はここにすごく演劇を感じた。自分たちでも、この会話がどこに行くのかわからずにずっとしゃべってるから、「この会話の流れでそこに行けるんだ」というのは、グルーヴ感あるし、演劇的に面白いなと思った。脚本を考えるやり方だと、ここにはたどり着けないと思うから。

◆傷ついたときには円陣を

──ヒャダインさんはどの回が印象に残ってます?

ヒャダ イマジナリードッグの回(TALK-23「昭和の習慣、覚えてますか?」)ですね。りゅうちゃんを飼う前に、クッションを犬に見立てて、写真まで撮ってたじゃないですか。あれ、どうかしてましたよね(笑)。僕もそれに先んじてペットシーツをプレゼントしたんですけど。

久保 あれ、いいペットシーツだったんですよ。同じペットシーツでも吸水性がいいものと悪いものがあって。

ヒャダ それを犬に見立てたクッションと並べてね。なんかSFみたいな回でしたよ(笑)。

久保 いま振り返ると、あれをやった意味って全然なかったなって。

一同 (笑)

久保 「犬を飼い始める前に、 飼ったらどうなるのかのシミュレーションをしなきゃ」と思ってやり始めたんだけど、全然意味なかった(笑)。だいたい、身体の上にりゅうちゃんを乗せて一緒に寝るなんて、現実にはほぼないわけよ。だけど、添い寝の状態で寝るのは毎日やってるわけだから、あれに近いところには来てるかもしれない。でもシミュレーションとはまったく別のことですね。飼う前から想像するのはやっぱり無理。

ヒャダ そりゃ無理っすよ。しかもここまでラブいことになるなんて、飼い始めのころは想像もつかなかったわけじゃないですか。久保さん、最初のころ言ってましたよね。「人におびえて、スナイパーの目をした安室奈美恵が来た」つって。

能町 最初はお母さん的な存在には絶対ならないと思ってたはずなのに、今やお母さんじゃないですか。結局そうなっちゃいますよね。

久保 なっちゃった。やっぱり自分の親との会話が受け継がれるのかな、こないだ散歩させてるときに佐世保の方言が出ちゃって。

一同 へえええええええ!

久保 (佐世保なまりで)「もうおやつ持っとる人おらんって。帰るよ!」

能町 そうなっちゃうんだ。

──本当にお母さんじゃないですか。

久保  「もうおやついっぱいもろうたやろ!」みたいになっちゃう。自分でも「こうなっちゃうんだ!?」と思った。

ヒャダ そういった久保さんの変遷を、我々は見てきたわけです。この本で。

久保 時系列がしっかり書かれてあるのもいいんだよね。「初めてマッキー(槇原敬之)が来たのってこの回なんだ」とか。あと、6月に35度以上の猛暑日が連続した年があったのも、これを読んで思い出した。

ヒャダ 備忘録でもありますよね。注釈がとても助かります。

久保 うちらのうろ覚えの会話がこんなにしっかりと形になってて……。

ヒャダ 本当に覚えてないですからね。だから同じ話をするし(笑)。

──フレンチキスの話とか。

能町 それ私ですよね。つい同じ引き出し開けちゃうんですよ。

──能町さんはどの回が印象に残ってますか?

能町 この連載って、いつの間にかドキュメンタリーとしてうねり始めたじゃないですか。あれはどこからだろうと思ったら、やっぱり豊島豊島会の回(TALK-19「知らない人と仲良くなれますか?」)じゃないかと思うんですよね。

──当時まったく外出せず家にずっとこもっていた久保さんが、「豊島竜王(当時)のファンと交流してみたい」という気持ちを吐露して、みんなで後押しした回ですね。確かにあのへんで流れが変わりましたね。

——(引用はじめ)——

ヒャダ 「やる人生とやらない人生、どっちを選ぶか」って、僕らに最初に言ったのは久保さんですよ。

(中略)

久保 よしわかった。来年の目標は豊島ファンの人と話をする。

ヒャダ ツイートしてみましょうか。

(中略)

久保 「豊島将之竜王のファンの人と、ファミレスで楽しくお話しをする」。(中略)これはツイッターにアップしたほうがいいんですか?

ヒャダ しましょう。

──あの出発点から、まさかの着地点。

能町 いい目標ができた。こんな前向きな着地点になるとは。

ヒャダ さあ、行きましょう。

久保 行きますか。

ヒャダ お願いします!

久保 ううう怖い!

能町 押せーっ!

ヒャダ 押せーーっ!!

久保 (万感の思いを込め、送信ボタンを押す)

(TALK-19「知らない人と仲良くなれますか?」より)
——(引用おわり)——

能町 連載の途中から久保さんへのカウンセリングみたいになっていくんですけど、あれはあそこからだと思うんですよね。

久保 でも、あの人(ネット上で交流を始めた豊島ファン)とはまだ会えてない。同じ会場の大盤解説会にいたことはあるけど、まだ声をかけられてなくて。けど、その「大盤解説会に行った」というお互いの書き込みには、いいねを押し合う間柄ではある。

ヒャダ 離れてはないんですね。

久保 向こうは東京まで来て、 イベントが終わったらいろいろ行きたい場所があるんだろうし。あと、将棋ファンがたくさんいる会場で、「どうも初めまして〜」とかやってると、全部まわりに聞き耳立てられるわけよ。だからイベント会場で会話を発生させるのはちょっとデンジャラスかも、と思ってて。でもあのときは、私が迷ってるところに二人がエンジンかけてくれた感じはあったね。私がエンジンをかけられるパターンが多いけど、二人はどうなんだっけ。能町さんはみんなで円陣組まされたくらい?

能町 円陣は組みました。

久保 あの円陣も良かった。あれも演劇感があったね。

──能町さんが過去のつらい失敗を語って、泣いてしまった回ですね。

——(引用はじめ)——

久保 これ、3人で円陣組めばいいんじゃない?

ヒャダ 組みます?

能町 円陣組んだことない。

久保 円陣組もうよ。組んだことないじゃん、人生で。

(中略)

久保 かけ声何だっけ?

ヒャダ 「こじらせ、おー」じゃないですか。

(一瞬の沈黙)

久保 こじらせーーーーっ!!!

一同 おーーーーっ!!!

(なぜか拍手が巻き起こる)

久保 私がキャプテンになってしまった(笑)。

能町 久保さんがキャプテンだよ。

(TALK-24「取り返せない失敗はありますか?」より)
——(引用おわり)——

能町 その前にヒャッくんが「こういうときはハグすればいい」と言ったんですけど、私は拒否したんですよね。

久保 私も拒否したんだよね。

能町 私、さっきマッキーとめちゃくちゃスルッとハグしましたけどね(※この座談会を収録したのは『久保みねヒャダこじらせライブ』当日で、ゲストは槇原敬之さんでした)。

ヒャダ マッキーはハグ文化の人なんですよね。

能町 向こうがあまりにも自然にハグしてくる人だと、こっちもいけちゃいます。

ヒャダ ハグの拒否から円陣に至る、そのうねりも収録されてます。

◆おばちゃん/おばあちゃんになりたい

──読み返してみると、他人との距離感についてたびたび話が出てきますね。距離感の誤インストールの話とか。他人との距離感を間違えると傷つくから怖いんだけど、かといって踏み込まないままだと、いつまでも他人と触れ合うことができないというジレンマがある。それで、行き着くのが「早くおばちゃん/おばあちゃんになりたい」だという。

ヒャダ それ、いまだに思ってますよ。

久保 でもやっぱり私、おばちゃんやおばあちゃんになる覚悟がまだ全然足りないなって。私、近所のビール屋さんにけっこう飲みに行くんですよ。一人客で。最初のうちは、あんまり会話をしないように、大人しくしていたんだけど、酔っぱらったときに、ベラベラ話す自分が出ちゃうんです。「酔っぱらった図々しい人」になってしまう。

ヒャダ ということは翌日、酒うつ(反動で落ち込む)ですか?

久保 もう酒うつで。 この間、友達と飲んだ帰りに、一人でその店にビールを飲みに行ったんですよ。閉店間際に。 そしたら私が最後の客になってしまって、それで帰り際に、店員さんにおまんじゅう二つ渡しちゃった!

一同 (爆笑)

──立派におばちゃんじゃないですか(笑)。

久保 もう思い返すと、恥ずかしくて。でも本を読み返すと、「今は近所に一人で酒を飲みに行くビール屋さんがある」というのは画期的なことだよね。テラス席で犬と一緒にご飯を食べる犬友もできたし。

能町 完全に壁を破りましたね。

取材・文/前田隆弘

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