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“スマホの失敗”が痛かったバルミューダ。「トースター」に代わるヒット作が“生まれにくい”理由

日刊SPA! 2024年7月27日 8時53分

 経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター・山口伸です。『日刊SPA!』では「かゆい所に手が届く」ような企業分析記事を担当しています。さて、今回はバルミューダ株式会社の業績について紹介したいと思います。
 高級家電メーカーとして知られ、そのシンプルなデザイン性も消費者を惹きつけてきたバルミューダですが、「BALMUDA The Toaster」の発売以降、ヒット作を生み出せてはいません。そして、満を持して発売したスマホも1台10万円超の機能に見合わず国内外で酷評され、結局はスマホ事業から撤退の憂き目に。近年は固定費削減に努めていますが、これは開発力をそぎ落とすような手法です。次のヒット作を生み出せる確率も低下し、今後の状況が懸念されます。

◆もともとは「パソコン周辺機器メーカー」だった

 バルミューダはトースターや扇風機、掃除機など様々な家電を開発するファブレスメーカーです。製品は直営店のほか家電量販店でも販売されています。同社の特徴はシンプルなデザインと、高めの価格設定です。製品デザインは黒や白など一色のモノトーン調でシックな印象があり、「BALMUDA」の文字が記載されているのみでイラストはありません。価格に関してはトースターが3万円前後、扇風機が4万円前後と強気に設定されています。さほどメジャーではありませんが、根強いファンがいるメーカーです。

 もともとはパソコン周辺機器メーカーとして2003年に創業しました。世に知られるようになったのは2015年に「BALMUDA The Toaster」を発売して以降のことです。当時は相場の4倍以上となる22,900円(税抜)で発売されました。同製品はスチーム機能がついたトースターで、家電量販店やECではよく、「外はサクサクでも中はふんわり焼ける」といった謳い文句で販売されています。特にコロナ禍では高級家電需要が高まり、後述の通りBALMUDA The Toasterは爆売れしました。品質もさることながら高い価格自体が高級感を印象づけ、ブランド力につながったと考えられます。

◆近年の業績は乱高下…

 近年の業績を見てみましょう。2019年12月期から23年12月期までの業績は次の通りです。

【バルミューダ株式会社 2019年12月期~23年12月期】
売上高:108億円→126億円→184億円→176億円→130億円
営業利益:10.7億円→13.2億円→15.2億円→7500万円→▲13.8億円
カテゴリー別売上高(キッチン関連):52.6億円→69.6億円→96.3億円→108.4億円→92.8億円
カテゴリー別売上高(スマホ関連):無し→無し→28.5億円→8.7億円→200万円

 もともと30億円程度だった同社の売上高はトースターの発売以降伸び、19年12月期には108億円となりました。特に21年12月期は巣ごもり需要によるトースターの爆売れが影響しています。売上のメインは国内ですが韓国や北米市場も開拓しており、22年度は韓国の売上高が43億円となりました。韓国ではインフルエンサーの起用や百貨店での陳列などの施策が成功につながり、日本と同じくデザイン性が評価されたようです。家電においてシンプルな“ロゴ無し”デザインが増える昨今、シンプルさを求める消費者の心理にマッチしたといえます。

 しかし一転、22年度以降は業績が急に悪化しました。キッチン関連は堅調なものの、上記の通り21年度から売り始めたスマホ関連製品が急に売れなくなっていることが分かります。

◆「ただ高いだけのスマホ」と酷評されてしまい…

 バルミューダはイケイケだった21年11月に初のスマホ「BALMUDA Phone」を発売しました。価格は堂々の10万4,800円。手のひらサイズ、丸みのあるボディが特徴です。10万円越えならハイスペックが予想されますが、これが価格に見合わない低スペックであり、国内外でかなり酷評されました。OSはAndroidでオクタコア、メモリ(RAM)は6GBです。データを記憶するメモリ(ROM)は外部SD非対応のスマホであるにもかかわらず128GBしかありません。スペックを見るだけでも10万円は高く、半分以下の価格設定が適正です。

 21年度はバルミューダの認知度やファンの存在もあり、スマホ関連では28.5億円の売上を記録しました。しかしその性能が明らかになると売上は伸びず、翌年度は8.7億円にまで減少しています。そしてついに昨年度、バルミューダはスマホ事業からの撤退を決めました。スマホ事業は売れなかったばかりか、「バルミューダ」のブランド力も傷つけたように思えます。

◆改善策は開発力を落とす方向に

 その後はホットプレートなど新商品を販売し、一定の評価を受けていますが、BALMUDA The Toasterに代わるヒット作を出せていないのが現状です。今年2月に発売した新型トースターの「ReBaker」はスチーム機能をカットしたうえで24,200円と従来品より安く、一見客を集めたい狙いが伺えます。

 一方で近年の業績改善策は商品開発力を落とす方向に走っています。デザイナー数は変わらないもののエンジニアはピーク時の約90人から今期1Q時点で57人となり、今年度の試験研究費も21年度と比較して3分の1以下となる3.4億円を予定しています。業績改善策として仕方ないと思われますが、開発力の低下は将来の稼ぎをじわじわと削ぐことになります。今後、同社からは目新しい商品が生まれにくく、似たような機能でデザインだけを変えた類似品が頻発されることになるかもしれません。

<TEXT/山口伸>

【山口伸】
経済本や決算書を読み漁ることが趣味のマネーライター。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー Twitter:@shin_yamaguchi_

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