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どれが「鯛(タイ)」か分かりますか?今さら聞けない「刺身の種類」の見分け方

日刊SPA! 2024年7月29日 8時53分

居酒屋で刺身の盛り合わせを頼んだ場合、店員から「どれがなんの魚か」をざっと説明されるはずだ。しかし、覚えているのは序盤のうちで、徐々に自分がどの魚を食べているのか怪しくなってくることはなかろうか。いっぱしの大人であれば、「これはイサキで、それはタイだね。今の季節は脂がのって最高!」といった会話をしてみたい。そこで、本記事では専門家に聞いた「刺身を見分ける方法」を紹介していきたい。
◆刺身の魚種を見分けるコツは?

刺身はなじみ深い料理だが、「魚種」を正確に識別できる人は多くないかもしれない。特に、白身魚(身の白い魚)や青魚(背の青い魚)は、切り身になると非常に似ているものがある。とはいえ、魚が違えば、血合いの入り方や脂ののり、時期なども異なるはずだ。

そういうことなら! と、羽田市場の創業者・社長の野本良平氏が思い当たった。

野本氏は外食産業などで経験を積んだ後、2014年に羽田市場を創業。鮮魚の独自流通システムを構築し、朝に漁獲された鮮魚をその日のうちに空輸する「超速鮮魚」というビジネスモデルで注目を集めている人物だ。なんといっても自ら漁船を操業し、本気で魚を狙い続ける釣り人であるのも最高だ。事業を起こし社長となった野本氏は今も板場に立ち、寿司も握る。

「ととけん」(日本さかな検定)1級を持っているのも、野本氏の知識が信頼に値する証左である。ととけんは、魚に関する知識を、魚の生態から調理法、流通まで幅広く問うものだ。最難関の1級合格者は、トップクラスのエキスパートであることを意味する。

◆タイ、イサキ、スズキ、ヒラメの判別

銀座の喧騒から離れたエリアに位置する「羽田市場銀座直売店」で、野本氏に会った。さっそく用意してもらったのが、白身魚の盛り合わせ。

魚は見た目や栄養の特徴などにより、慣習的に「白身魚」「赤身魚」「青魚」と分類されることがある。その中で、白身魚は総じて脂肪分が少なめで、繊細で上品な味わいであるのが特徴だ。どれも似ていて、判別はとっても難しい!

当然のことながら、野本氏の判別は“100発100中”である。判別ポイントを教えてもらいざっくりとまとめると、以下のようになる。季節ごとの変動、年齢や分布地などによる個体差、調理方法や部位による見た目の差異はあるが、以下を覚えておくと良いだろう。

タイ:ごく淡いピンク系の白色。
イサキ:血合いは鮮やかな赤色をしている。
スズキ:マダイなどと比べて筋が少なめ。
ヒラメ:透明感がある。薄切りで提供されることが多い。

◆それぞれの魚の特徴は?

タイは、魚の王様と呼ばれるマダイである。

野本氏は「ここ数年の傾向として、養殖物の価格が高値安定していて味も良好です。昔は浅いいけすを使ったため日焼けの問題がありました。最近は深いいけすを使うので、赤く美しい魚が養殖できるようになりました。ここ10年ではるかに品質が上がり、筋肉の弾力で見分けはつかないと感じます。ただ、高級寿司店では天然タイしか使わないところもまだ少なくありません。刺身では、身が飴色っぽく透明感があるものが味が良く、白っぽく濁った物は避けた方が良いです」と教えてくれた。

血合いが赤々と目立っているのは、イサキである。梅雨時期は脂が乗り非常に美味。

残りの2種は、スズキとヒラメ。

ヒラメは厚切りにすると筋が目立ってしまうため、薄切りで提供されるのが一般的であるので、切り方が判別ポイントとなる。

冬の白身魚の代表格だが、春から初夏にかけて産卵期となり身が痩せ、「夏のヒラメは猫またぎ(猫も食べない)」ともいわれる。この取材は7月で青森の水揚げも終盤となっていたため、脂ののりは控えめであったが独特の歯ごたえがあった。厚切りにすると、風味がさらに強く感じられた。

最後に残ったのがスズキ。身質が他の魚よりざらっと粗い印象で、筋の入る間隔が広め。クセがなくさっぱりとした食感だが、もちもちとした特有の歯ごたえがある。

◆わかりにくい青魚カンパチ、ブリ、ハマチの判別

続いて、背の青い青魚の判別ポイントは以下である。

カンパチ(養殖):身は透明感のある白色。白身魚っぽいが血合いでカンパチとわかる。養殖もののため、皮下脂肪のような薄い脂の層があり、脂が染み出している!

ブリ(天然):ブリが大きくなったもの。身はピンクから赤色。

ハマチ(養殖):ブリの若魚。身はやや白っぽい。若いのでブリより血合いが多い。こちらも養殖ものなので皮の下に脂の層がある。

カンパチ、ブリ、ハマチは、スズキ目アジ科の同じ仲間です。ブリは成長段階によって名前が変わる出世魚で、若魚はハマチと呼ばれる。大きさによる呼び名はさらに分かれており、ワカシ→イナダ→ワラサ(関西ではハマチと呼ぶことも)→ブリとなる。

ブリはかなり大きな魚であり、野本氏によると「天然のブリは自分が見た限りで最大のものは20キロです」とのこと。最近はまとまって大漁に獲れることがあるため比較的安価であるが、養殖地域はどんどん拡大しているとのこと。

「1980年代、ブリの稚魚であるモジャコの採捕も盛んに行われ、エサのイワシも安価に使えました」と、野本氏。

◆「魚食文化」を次世代に繋いでいくには…

余談だが、カンパチ、プリ、ハマチの集合写真を知人の料理人などに見せたところ、ブリとハマチはさすがの的中率であった。しかし、カンパチを「シマアジ……?」と2名が回答した。惜しい! 確かに、カンパチとシマアジは切り身になると見分けがつきにくい。どちらも身が引き締まっており、断面がくっきりとし、断面の「エッジ感」が似ている。

日本はかつて豊富な魚介類を自給していた国であったが、現在では多くの水産物を輸入に頼っている。背景には、気候変動や国内の漁獲量の減少や漁業者の高齢化など、さまざまな問題がある。

魚離れも進む一方だが、刺身や寿司を見ると、魚の個性や魅力は格別と思わずにいられない。伝統的な食文化をあらためて見直し、次世代に引き継いでいきたいものだ。

<取材・文/木村悦子 取材協力・羽田市場>

【木村悦子】
フリーの編集者・ライター。出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」を創業。実用書やガイドブックの企画・編集を行う傍らで、Webライターとしても活動。飲食・日本文化・占い・農業など、あらゆることに興味があるが、生き物が大好きすぎて本も書く。『日本で会えるペンギン全12種パーフェクトBOOK』2刷、『ラッコBOOK』3刷を執筆。

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