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一時は国内2店舗…崖っぷち「コールド・ストーン」が徐々に復活。「歌の店」イメージからの脱却がカギに

日刊SPA! 2024年8月1日 8時53分

 中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
 アイスクリーム業界が活況に沸いています。2023年度の販売金額が過去最高を記録したのです。しかも、前年比で1割近い増加となりました。

 市場拡大の恩恵を受けているのが、B-Rサーティワンアイスクリーム。そして一度は沈みかけたコールド・ストーン・クリーマリーが、再び勢力を拡大しています。

◆インフレで単価1割増も消費量は横ばい

 アイスクリームの販売額は気温と密接な関係があります。

 気象庁によると、2023年の日本の平均気温の基準値(1991年~2020年の30年平均値)からの偏差は+1.29℃。1898年の統計開始以来、2020年を上回って過去最高となりました(「日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2023年)」より)。

 2023年のアイスクリームの販売額は前年比9.9%増の6082億円。前年から550億円近く積み増したのです。

 インフレが進行していることからもわかる通り、アイスクリームの単価は上がっています。2023年の1リッター当たりのアイスクリーム単価は670円。10.8%増加しました。しかし、販売物量は前年比0.8%減と、消費量の著しい減退は起こっていません。多少高くてもこの暑さには耐えられない、という消費者意識が浮かび上がってきます。

 2024年の7月と8月の気温は全国的に平年より高く、厳しい暑さが続く見込みです。ウェザーニュースは2024年の夏の暑さの見通しを発表しており、過去最高を記録した2023年に匹敵する暑さではないかと予想しています。35℃以上の猛暑日が続き、地域によっては40℃前後の酷暑になることもあるでしょう。

 アイスクリーム業界に追い風が吹いています。

◆「低空飛行」から見事な大復活

 サーティワンの業績は好調そのもの。

 2023年12月期の売上高は前期比12.4%増の247億6000万円でした。3期連続で2桁増収を続けています。

 2019年12月期の営業利益率は2.7%でしたが、2023年12月期は7.4%まで上昇しました。サーティワンは一時期業績が停滞しており、2015年12月期の赤字転落以降はしばらく営業利益率2%台の低空飛行が続いていました。見事な大復活を遂げています。

 2024年12月期の売上高は前期比7.0%増の265億円を予想。しかし、上半期の売上高は141億9800万円で、予想に対する進捗率は53.6%。すでに半分を超過しています。

 2023年12月期は期首の通期売上高を221億円と予想しており、上半期の進捗率51.0%でした。この期の通期売上高は247億6000万円で、予想よりも12.0%高い数字でした。

 なお、2023年12月期通期実績に対する上半期の進捗率は45.5%。サーティワンは真夏を挟む下半期の方が売上は伸びやすい傾向にあります。

◆4期連続2桁増収は現実のものとなるか?

 夏の暑さが昨年なみであれば、という条件つきではありますが、2024年12月期も売上予想を超過して着地し、4期連続の2桁増収というポテンシャルを十分持っているように見えます。

 サーティワンの既存店は34か月連続で売上増を達成。1店舗当たりの上半期平均売上は2800万円。過去最高を記録しています。デジタル化も進んでおり、アプリの会員数は830万人を突破。売上のおよそ4割を会員が占めており、リピーターやファンから支持されている様子もうかがえます。

 サーティワンは店舗網を拡充しているうえ、テイクアウトを強化して多角化するアイスクリーム需要を巧みに拾い上げようとしています。

◆「国内2店舗」から反転攻勢に出たコールド・ストーン

 歌うアイスクリームショップでおなじみのコールド・ストーン・クリーマリーは、「築地銀だこ」のホットランドが運営しています。2014年1月、アメリカのCOLD STONE CREAMERYのマスターフランチャイズ権を保有するコールド・ストーン・クリーマリー・ジャパンを完全子会社化しました。

 コールド・ストーンは、スタッフが歌をうたってアイスクリームを作るという独特の接客方式を採りました。2005年に日本に上陸して以来、その真新しさから注目を集める存在となります。スタッフは3時間ほどかけてグループ面接を行い、面接会場でチームを組んでオリジナルソングを作るなど、意識の高い人が集まることでもよく知られていました。

 しかし、肝心の業績はホットランドの子会社化以降、パッとしなくなります。コールド・ストーンは2018年12月期に3800万円の純損失を計上。債務超過となりました。

 経営合理化を進めるため、ホットランドは2019年12月1日に吸収合併しました。これによってコールド・ストーン・クリーマリー・ジャパンは消滅します。

 更にコロナ禍に襲われてセールスポイントの歌が封じられる事態に。2022年12月末時点で店舗数はわずか2店舗。かつては30を超えていました。ショップも消滅寸前まで追い込まれたのです。

 しかし、2023年6月に旗艦店となる「コールド・ストーン・クリーマリー 原宿店」をオープン。この年は「築地銀だこ」併設型の店舗を2つ出店しています。反転攻勢に出たのです。

◆サーティワンの客層とは被りづらい?

 原宿店限定で販売されている「焼さつまいも」や「宇治抹茶あずき」、「宇治抹茶金時」はどれも税込864円。通常のレギュラーサイズが639円。サーティワンのレギュラーシングルが420円.スモールダブルが510円。

 コールド・ストーンは高単価で、サーティワンの客層とは被りづらいでしょう。

 サーティワンはショッピングモールへの出店が中心で、子供連れのファミリー層がメイン。コールド・ストーンは原宿に旗艦店を出店していることから、流行感度の高い若年層を狙っているのは明らか。ターゲットの棲み分けができているため、両社が顧客を食い合う可能性は低いと考えられます。

 コールド・ストーンは現在、歌を全面に出すことはしていません。希望や要望に合わせて対応するとしています。コロナ禍を経てターニングポイントを迎えました。

◆「高品質の商品」を消費者にアピールできるか

 もともとこのアイスクリームショップは、エンタメを軸に構築されたわけではありません。店内調理のフレッシュな品質と、顧客の好みに合わせて作られるオリジナリティを両立させることが重要だという発見から出発しています。

 そこで、-9℃に冷やした石板の上で、アイスクリームにナッツやフルーツをミックス。顧客の目の前でオリジナルのアイスを作り、提供するというスタイルを生み出しました。

 コールド・ストーンのアイスクリームは毎日店内で手作りし、ワッフルなども店内で焼いています。品質にはこだわっているのです。

 ただ、提供するアイスクリームよりも、体験型店舗としての高い認知を獲得してしまいます。それによってもてはやされましたが、奇抜なものは一過性で終わることがほとんど。国内の店舗は消滅しかけました。

 コールド・ストーンのアイスクリーム本来の価値を消費者に伝えることで、逆転する可能性は十分あるように見えます。

 気がかりなのは吸収合併によって会社が消滅していること。これはいわばホットランドの一部署になったということであり、出店や広告宣伝の承認プロセスが硬直的なものとなっているのであれば、自由度が制限される可能性があります。独立した会社に比べ、意志決定のスピードも落ちるでしょう。

 気温上昇という最大の追い風を利用できるかどうかが、再成長のカギになるでしょう。

<TEXT/不破聡>

【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界

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