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8割の顧客を黒字化する税理士が実践している「数字に強くなる6つの習慣」

日刊SPA! 2024年8月2日 8時50分

 社会人になると「会社の数字に強くなれ」「簿記くらいできないといけない」と言われることも増えてくる。ところが、会社の財務諸表を読もうと思っても、膨大な数字と専門用語ばかり……。「そもそも学生のころから数学が苦手だった」なんて人も多いかもしれない。
 このような「簿記や会計は必須知識」という風潮に対し、「社会人だからといって、簿記や会計を勉強しなければいけない、と敷居を高くする必要はありません」と話すのは、『Deep Accounting 「未来予測会計」の数字が経営に革命をもたらす!』などの著書を持ち、税理士法人SHIPを経営する税理士の鈴木克欣さんだ。

「いきなり最初から会計の専門書や解説書を勉強したり、小難しい専門知識をつけたりする必要はありません。会社に関する数字は、感覚的に把握できていればまずは合格です。

 そのために心がけていただきたいのが、数字と仲良くなる、つまり会社の数字と接する頻度を上げることです。

 たとえば飲食店であれば、客単価はどれくらいが目標か、1日の客数はどれくらいが目標か、新規顧客をつかまえるためにどんなことをしているか。まずは、こういった感覚的な数字の把握ができるようになるといいでしょう」

 日本の企業のうち黒字経営をしているのは全体の約3割と言われるなか、税理士法人SHIPのクライアントは84%が黒字を叩き出しているという。どうやって数字に対する感覚を磨き、会社の業績を上げられるのか? 「数字に強くなる思考と習慣」を税理士・鈴木さんに聞いた。

◆①1日10分! 毎日会社の数字を眺める

「会社の数字をじっくり眺めるのは月に一度だけ、あるいは四半期ごとの決算時だけという経営者も少なくないと思います。それでは経営を安定させることも難しくなります。会社を大きく変革させるためにも、まずは『数字は毎日追うべきもの』という意識に変えてください。

 最新の生きた数字を知り、毎日の変化に気づくために、はじめは1日10分でかまいません。小難しい会計の専門知識などは、この段階では必要ありません。本当に数字をただ眺めるだけで大丈夫です」(鈴木さん)

 1日10分程度で会社が変わるのだろうか?

「企業活動の結果は、数字にはっきりと表れます。たとえば社会保険料が急激に増えていたり、サブスクの年間経費の請求がきていたり、毎日数字を追うことで、会社の小さな変化に気づくようになります。

 そういった“生きた数字”をつかめば、わずかな変化を見逃さず迅速に改善策を打つことができるようになります」(鈴木さん)

 1日10分、毎日会社の数字を見続けることから始めてみたい。

◆②経費トップ10をダイエットする

「たとえば、ダイエットで体重計に毎日乗っているだけで自然と体重が減っていく、という話を聞いたことはないでしょうか。その秘密は、体重を意識するようになったことで、太るような行動を自然と避けるようになるからです。

 会社の経費を減らしたい場合にも、同じことが言えます。経費の詳細を毎日チェックすることで、無意識のうちにコスト削減の意識が芽生えるわけです。

 毎日眺めていれば、不自然に増えた数字に対して自然と意識が向くようになるし、何より比較的大きな金額を占める経費を順番に見ていくことで、『なぜ◯◯が増えているのか?』『△△にこんなに使っていたっけ?』という気づきが出てきます」(鈴木さん)

 経費の管理が不十分だと、たとえば「5年前から毎月支払っていて、今はまったく使っていないサブスクがそのまま放置されていた」なんてこともよくある。

「明らかに優先順位が低いのに経費トップ10にランクインしているような項目を発見した場合は、さっさとカットして経費のスリム化を図ってください。

 経費の詳細な数字を見ていると、コスト意識が高まりコスト削減につながるだけでなく、『この勘定科目にはこういう経費が入っているんだ』と、会計の知識やスキルも身につけることができるようになるでしょう」(鈴木さん)

◆③利益は最初に確保する

 必要経費がかさむせいで、利益がなかなか手元に残らない……。鈴木さんによると、そう嘆く経営者は少なくないという。

「このような足し算方式の経営思考をいつまでも続けていては利益が安定することはなく、それどころか、いずれ会社を大きなリスクにさらすことにつながりかねません。

 常に安定した利益を生むためにも、売上の数字が出た時点で、まずその10%を経常利益として確保すると宣言してください。

 逆転の発想です。すると、残りの90%に収まるようにするにはどうすればよいか、という逆算思考が働くようになります。

 ダイエットでも『痩せたらいいなあ』と漠然と考えるのではなく、『体重70kgから65kgまで痩せる』と決めて、周りに宣言する。そのためには食事、運動はどんなことをするか、どうやって痩せるかを計画して実行していく。

 経営でも同じように、最初から『ここまでを利益にする』と宣言してから経費をコントロールすると、利益体質の会社に生まれ変わります」(鈴木さん)

 家計でも、貯金をしたいなら収入から先に貯金額を確保して、残りのお金でやり繰りする「先取り貯蓄」というやり方がよく知られている。会社も家計も同じく、先に確保するのが大事なようだ。

◆④KPIを設定して目標を“見える化”する

 KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」と訳し、業績の管理・評価には欠かせない数字だ。

「会社の業績目標を数値に置き換えたものがKPIです。KPIによる可視化の基本的な流れは、まず会社の数字をもとに課題を抽出し、目標を数値で設定するところから始めます。

 飲食店を例にとると、客単価やリピート率、新規顧客の数などのデータをもとに、客単価の向上、リピート率の改善、新規顧客の獲得などの目標数値を、それぞれ具体的な数字で計画します。

 たとえば、『月間の客単価を6,000円に上げる』『3か月に1回の来店を、2か月に1回に増やす』『粗利を現在の2,000万円から3,000万円に増加』といったイメージです。

 この作業を行うことによって、その時点での経営課題が明らかになるとともに、全従業員がKPIから逆算した具体的な目標を持つことができるようになります」(鈴木さん)

 業績目標を数値で“見える化”することこそが、KPIの本質だというのだ。

◆⑤数字を「線」で追って“変化”をつかむ

 数字を眺める際に大切なのは、数字を「点」ではなく、「線」で見ること、と鈴木さんはアドバイスする。

「点とは、ある瞬間のピンポイントで見る数字。線とは、一定期間の変化とともに見る数字です。たとえば先月と今月、昨年同月から現在までといったように、数字がどう変わっていったか、その推移を見るということです。

 試算表や決算書の数字は、その時点の数字であって、どういう経緯でそうなったのかまではわかりませんよね。

 たとえば、期末に現金が1,000万円あったとしても、実は期首には2,000万円あったのに大幅に減ったのか、500万円から増えたのかわかりません。増えたのか、減ったのか、それは『線』で追わない限り見えてきません。

 単に年度末の決算書を見るだけでは、経営の全体像や具体的な動きを理解することはできません。定期的に財務状況をチェックすることで初めて、会社のパフォーマンスの変動、問題の早期発見、早期対策など、より詳細かつ効果的な経営判断が可能になります。

 ちなみに、どうしても『額』に目が行きがちですが、そこにとらわれすぎると全体が見えづらくなってしまいます。数字を追うときは必ず『率』、すなわち『増減率』とセットで把握しておきましょう」(鈴木さん)

◆⑥月に一度は会計のプロと雑談する

 鈴木さんは「会計用語を知らなくても気にしなくていい」とアドバイスする。

「経営者の方々にとって、会計は『数字が読めない』とか『会計に出てくる専門用語がよくわからない』といった負い目からか、必要以上に敷居を高く感じている人が多い気がします。大事なのは数字の読み方や専門用語よりも、『大きな視点で会社を捉えること』です。

 まずは会計事務所の担当者など、会計のプロフェッショナルと定期的に会って話す機会を設けてください。オンライン会議ももちろん有効です。

 その際、打ち合わせのテーマを決めたり、会議に成果を求めたりなど、必要以上に堅苦しく考える必要はありません。『リラックスして雑談を楽しもう』くらいの気持ちでちょうどいいでしょう」(鈴木さん)

 ただし、経営者も含めて、会計事務所や会計のプロと話す機会がない人も多いはず。

「その場合は、書籍を読んだり、YouTubeを見るのもいいでしょう。近年はYouTubeでわかりやすく解説している税理士も増えています。

 まずは会社の財務状況や計画を数字ベースで把握し、経営者は自分の考えや会社の将来的なビジョンを明確に伝え、社員の理解を深めるように努めてください。

 そうすれば、社員は経営者の考えや会社の状況を理解しやすくなりますし、社内の意思決定や計画立案がスムーズに進むようになります。そして何より、共有された数字が社員一人ひとりのなかで意味を持ち、生きた数字となってそれぞれの場所で成果を生んでくれるはずです」(鈴木さん)

 以上の6つの習慣を続ければ、数字に強くなり、「会計思考」が身につくはずだ。

鈴木克欣(すずき・かつよし)
税理士。税理士法人SHIP 代表社員税理士(愛知県豊橋市)
株式会社SHIP 代表取締役(東京都渋谷区)
1970年8月31日生まれ。立命館大学経営学部卒業・名古屋商科大学大学院修了(経営学修士)・京都大学上級経営会計専門家(EMBA)プログラム修了。
愛知県を中心に全国を対応エリアとしているMBA 税理士。1976年から続く鈴木今朝由税理士事務所の二代目として20年以上、月次決算・経営計画による中小企業支援を行う。
これまで延べ1,000社以上の経営計画を作成。本業の税務会計業務を遂行する一方、最新の経営支援クラウド(bixid)を駆使した伴走コンサルで数々の成功実績をあげる。その手法を日本全国の同志の税理士に広め、新時代の企業業績に貢献する新しい会計人を創る会計業界のエバンジェリスト。
最新刊『Deep Accounting 「未来予測会計」の数字が経営に革命をもたらす!』(著・鈴木克欣、岡本辰徳 サンライズパブリッシング)が発売中

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