Infoseek 楽天

「卒乳が遅いと歯並びが悪くなる」ってホント?祖父母世代の“ときに残酷な”育児のアドバイス

日刊SPA! 2024年8月7日 8時49分

 共働き世帯が増えるなか、両親だけでは子育てに手が回らないという家庭も増えている。それを受けて、近年、注目されるのが祖父母のサポートによる「孫育て」だ。企業側が「孫育て」の休暇制度を導入したり、地方自治体でも「祖父母手帳」の配布や孫育ての情報発信を積極的に行ったりする動きがみられる。
 一方で、祖父母が孫育てに参加する上で気を付けたいのが、子育て常識の変化について。現在、息子夫婦の孫育てを行う脳科学者の黒川伊保子氏は、「特に気を付けたいのが、子育て中の母に不安を感じさせないこと」だと指摘する。

 そこで、黒川氏の著書『孫のトリセツ』から、「祖父母が子育て中の母と接する際のポイント」を解説する。

(以下、同書より一部編集のうえ抜粋)

◆なぜ母親は、ママ友コミュニティを重要視するのか?

 若い母親は、人からとやかく言われることに過敏な傾向にある。人の目をとても気にするし、否定的なアドバイスにはキレるし、落ち込む。世の中、よく、騒ぐ子どもを放っておく無神経な母親を叩くけど、過敏な母親のほうが圧倒的に多いのである。

――これ、生存本能の一部だって、知ってました?

 何度も言うけど、人類の子育ては動物界最大リスクの子育てなので、森の熊や狼のように、単独の子育てはあり得ない。人類の授乳期間は、自然界の中では4年にも及ぶことがあるとされる。

 人工栄養のない時代、そんな長期にわたる授乳期間中に、母親がちょっと体調を崩しておっぱいが出にくかったら、もう子どもの命が危険にさらされるのではたまらない。

 コミュニティの中でおっぱいを融通し合い、互いに支え合って、人類の女性たちは何万年も子育てをしてきたのである。

◆女同士の“群れ”から外れる恐怖は本能によるもの

 そんな子育ての仕組みの中では、女同士のコミュニティの中でうまくやることこそが、生き残るためのキモなのである。このため、子育て中の女性たちには、群れから外れることが、命に関わることとして、本能的にとても恐ろしく感じるわけ。

 女同士の群れの中で優位に立つためには、自分が美しいこと、子どもがうまく育っていることが意外に大事。だから、女性たちは美しくあろうとし、子どもに世間並みの躾をしようと頑張るのである。

◆周囲の大人は、母親より先に不安を口にしてはいけない

 そんな若い母親に、「あそこの子はもう歩くのに、うちはつかまり立ちもまだなんて、大丈夫?」なんて言うなんて、想像を絶するくらい残酷なことだって、知っておいたほうがいい。

 祖父母は、母親をリラックスさせるためにいる。彼女の心配に「大丈夫、大丈夫」と言ってやる立場なのに、心配の種を作ってどうするの?

 もちろん、「絶対におかしい。なんとかしなければ」という事態ならアドバイスをすべきだけど、「ちょっと不安」程度なら口にしないこと。誰よりも、孫の母親自身が心配している。母親が心配を口にしたときは、親身になって聞いてあげよう。杞憂にすぎないと感じたら、経験談で安心させてやればいい。

◆卒乳は「自分か息子が嫌になったとき」

 私の子育て時代(息子は1991年生まれ)、「1歳で乳離れ」が、なぜか鉄則だった。1歳児検診のとき、まだ卒乳を始めてもいないと言ったら、小児科医と栄養士に、ひどく叱られることになった。「歯並びに問題が出るし、だらだら授乳していると犯罪者になるよ」とまで言われたのである。

 私は、事前に母乳学の本を読んで、卒乳を「私が嫌になるか、息子が嫌になるか、そのどちらかのとき」と決めていたので、結局4歳まで続けた。

◆卒乳が遅くても歯並びや人格形成には問題ない

 4歳のある日、息子が「ママ、たいへん」と言うので、「どうしたの?」と聞いたら、「ママのおっぱいだと思って飲んでたの、おいらの唾だったよ」と大笑い。

 私もつられて笑って、それが卒乳式になった。幸せな、幸せな卒乳だった。ちなみに息子の歯並びは完璧、大人になるまで、虫歯で歯を削ったこともない。今のところ、犯罪者になる気配もない。

◆乳離れしない息子に「大丈夫」と声をかけてくれた義母

 そんな私も、「犯罪者になる」という言いぶりは、かなりショックだったので、黒川の母に言いつけたら、母は、一笑に付してくれたのである。「昔は、末っ子は、いつまでも吸ってたものよ。末の弟なんて、学校から帰ってランドセルしょったまま吸ってたわ。面白いことに、そんな子ほど、出世するのよね」と。

 私は、そのときの母の表情と声音を今でも忘れない。黒川の母と一緒に息子を育てられたこと、今、自分が祖母の立場で、あらためてありがたく、胸が熱くなる。どれだけたくさんの「大丈夫」をもらったかわからないから。

文/黒川伊保子 構成/週刊SPA!編集部

【黒川伊保子】
(株)感性リサーチ代表取締役社長。1959年生まれ、奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に従事、2003年現職。『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』がベストセラーに。近著に『息子のトリセツ』『母のトリセツ』

この記事の関連ニュース