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「飛行機の機内エンタメ」“クラス別に違い”はある?JALの最新鋭機エアバスでは

日刊SPA! 2024年8月8日 15時52分

 機内エンターテインメント(IFE:インフライト エンターテインメント)とは、航空機の座席などに設置されたディスプレイや、オーディオ機器を通じて搭乗旅客に提供されるエンターテインメントサービスのことである。
 このシステムは、乗客の快適性を向上させ、フライト中の時間を有意義に過ごせるようにするために開発されている。IFEの誕生から未来に至るまでの進化と、その背後にあるエアラインのニーズについて探っていきたい。

◆機内エンターテインメントシステムの誕生

 世界のIFEシステムの歴史は1970年代に機材が大型化してワイドボディになり、多くの乗客が搭乗するようになってからのことだ。

 当初は、フライト中に上映される映画が主なコンテンツであり、乗客はコンパートメント前方壁に設置されたスクリーンで映像を楽しむことができた。この初期のシステムは限られた機能しか持たず、全ての乗客が同じコンテンツを同時に視聴する形式だった。

◆日系エアラインの歴史

「乗りものニュース」の記事(2024.05.06)によると、ANAの機内エンタメは1978年にロッキード「トライスター」機でプロジェクターを使った放映の「スカイサービス」が最初だと言う。筆者には音声を空気伝搬する青いプラスティックの管が付いたヘッドセットを使用した搭乗の記憶がある。JALに関してはどうか。同社広報に確認してみると、正確なデータが残されておらず「1970年代初頭に機内で映画上映をしたのが始まりです」と回答を寄せた。

 両社ともに、当時のシステムは同様で次のようものだ。機内では中央部天井部の手荷物収納棚下に設置された赤、青、黄の3つのレンズを持つプロジェクターから発せられる光を前方のスクリーンに投影していたのだ。

 使用しないときのスクリーンは折りたたんだり、巻き上げたりしていた。機内アナウンスで「お食事の後、免税品の販売を行ったあとに映画〇〇を放映致します」などと案内があった。全員が同じ番組を見ていたのだ。そのような状態であるので、通路に人が通るとスクリーンがさえぎられたり、映画は止められないために自身が手洗いに立つとストーリーはどんどん進んだりしてしまう不便さがあった。

◆現代の最新システム

 現在、我々が海外渡航する際に、長時間飛行ではほぼ全員がお世話になるインフライトエンターテインメント機器について、最新鋭機を運航するJALを例にクラス別のシステムを見て行こう。

 全てのクラスにおいて4K画質で提供されており、コンテンツはどのクラスでも同じだ。違いがあるとすれば、ディスプレイ画面の大きさや使用するヘッドセットの質になる。

 JALの羽田⇔ニューヨーク・ダラス線に使用されるエアバスA350-1000型機のエコノミークラスでは13インチ、プレミアムエコノミークラスで16インチ、ビジネスクラスで24インチ、ファーストクラスになると何と家庭のリビングにもありそうな43インチの画面が設置されているのだ。この数字は、定期便を運航するエアラインで設置される画面で世界最大になる。

◆IFE業界のガリバー

 パナソニックアビオニクスは、機内エンターテインメント(IFE)装置の製造で世界的なリーダーとして知られており、市場のトップシェアの位置にいる。日本は交通手段の中において、唯一航空機の製造ができていない。よって、航空機部品を製造する中で世界のトップシェアを取れる企業はほんの数社しかない。その中で健闘しているのだ。前述のJALの機体の設備も同社のものだ。

 機内エンターテインメントは進化し続けている。4K UHD(4K超高解像度)、対話型サービス、ライブTV、目的地サービス、3D統合地図アプリ、そして個人アクセスがトレンドとなっていくだろう。これらの技術は、乗客によりパーソナライズされた、より高品質なエンターテインメント体験を提供することを目的としている。名称もIFECとなり、CのコネクティビティはNET接続の可能性を考慮したものになりつつある。

 対話型サービスとライブTVは、乗客がリアルタイムでコンテンツにアクセスし、双方向のコミュニケーションを楽しむことを可能にする。さらに、目的地サービスや3D統合地図アプリは、旅行のプランニングや現地情報の取得を支援し、より充実した旅をサポートする。

◆パナソニックアビオニクスの最新技術

 パナソニックアビオニクスを傘下に持つパナソニック コネクト株式会社マーケティング部のレイノルズ ジュダさんに聞いた。同社は、生活インフラの中に航空部門としてパナソニックアビオニクスを置いている。

「最新型システム『アストローバ』は、ユナイテッド航空やエアカナダ等の航空会社が導入を決定している世界で最初の有機LED画面を備えたシステムになります。また、今年5月にコンセプトモデルとして『マヤ』※を発表しました。これは、45インチの曲線画面を特徴とするデザインで、乗客に没入型の視覚体験を提供します。この新しいデザインは、機内エンターテインメントの未来を予感させるものとして注目を浴びました」とのことだ。

※マヤとはMost Advanced Yet Achievable(最先端でありながら実現可能)との意味

◆プログラムは無限の可能性

 機内Wi-Fiの技術も進化しており、衛星受信を基本とし、これに地上基地の電波も利用して飛行中でも高速で安定したインターネット接続を利用できるようになる。一例では、イーロンマスク氏が代表を務めるスペースXのグループ会社でスターリンク社が航空機用の高速Wi-Fiを提供している。今後、急速に装備するエアラインが増える可能性がある。

 エンターテインメントを提供するハードの進化は目覚ましい。提供されるコンテンツはどうなるだろう。この先は、ネットフリックスやディズニープラスなど地上で視聴するストリーミングサービスと同等の内容が空の上で提供される可能性がある。

 バーチャルリアリティ(VR)と拡張現実(AR)で目的地の観光をいち早く体験できれば、行きたい場所が増えることも考えられる。また、規制さえクリアすれば機内でオンラインカジノなどもできるかも知れない。

 出張で利用する人々にとって機内でリモート会議ができる環境になるのは痛しかゆしといったところだが、技術はそれを可能にしつつある。乗客にとって、国際線の長距離フライトは苦痛ではなく、快適で楽しみなものになることが予想されている。

<TEXT/北島幸司>

【北島幸司】
航空会社勤務歴を活かし、雑誌やWEBメディアで航空や旅に関する連載コラムを執筆する航空ジャーナリスト。YouTube チャンネル「そらオヤジ組」のほか、ブログ「Avian Wing」も更新中。大阪府出身で航空ジャーナリスト協会に所属する。Facebook avian.wing instagram@kitajimaavianwing

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