Infoseek 楽天

一流アスリートが実践する猛暑対策。元ガールズ女王が語る「“真夏の競輪”の過酷すぎる舞台裏」

日刊SPA! 2024年8月15日 8時30分

 ガールズケイリンの人気筆頭格として、1つの時代を牽引してきた高木真備さんに、競輪にまつわる話を語ってもらう連載企画。高木さんは2021年の「ガールズケイリングランプリ」で見事に優勝。年間賞金女王の称号を獲得し、「やり切った!」という気持ちで選手を引退。現在は保護犬・保護猫活動、および競輪番組での解説者などの活動を行っている。
◆暑さでの体調管理とトレーニング

 今年、猛暑日の連続日数が国内最長記録を更新する地域も多く、全国的に記録的な暑さに見舞われている。夏場の厳しい暑さのなか、競輪選手はどのように練習をしているのだろうか。「夏は得意な季節でした」という高木さんに、夏場の練習やレースについての話を聞いてみた。

 高木さんにとって、夏は体の動きが良く、レースでも好調を保つことができる季節だったという。

「単純に寒いところよりも温かいところの方が筋肉や関節の動きがよくなる感覚がありました。ほとんどの選手が体の動きとしてはよくなると思います。でも夏バテや熱中症になってしまうと体が動かなくなるので、体調管理はなかなか大変でしたね。真夏の日中の練習は避けて室内トレーニングを行い、外での練習は早朝や夕方にやっていました」

◆競輪選手の“ピークの作り方”

 現役時代、年末に行われる「ガールズグランプリ」の常連だった高木さん。毎年グランプリ優勝を目指し、夏場も“冬にピークを持っていくこと”に心がけながらトレーニングを行っていたという。

「真夏の炎天下での練習は、内臓に負担をかけてしまう可能性があります。これは私の師匠的存在であった高木隆弘さんの考えなのですが、夏に無理な練習をすると、秋から冬にかけて、時差的に悪影響が出てくるとのことで……。グランプリを目標にやっていると、冬にピークを持っていかないといけないので、夏は調子を落とさないように気をつけながら、秋頃に調子が上向くように調整していました」

 また、冷房の効いた部屋と炎天下との温度差も、体に負担をかける要因となるため、高木さんはその点にも注意を払っていたようだ。

「バンクは日の照り返しもあるので、とにかく暑く、控え室は冷房でキンキンに冷えた部屋であることが多かったです。ただ、急な温度差がある場所に移動すると体に良くないので、控え室に行くときは多少暑くてもできるだけ一定の温度を保つように、長袖・長ズボンも用意していました。スポーツをやっている人でなくても、温度差のある場所に移動すると体に良くないという話は聞いたことあると思います。競輪選手をやっていると、そういった影響がパフォーマンスに出るので、冷やしすぎた部屋に行くときは注意していましたね」

 さらに、練習後の疲労回復のため、ラグビー選手などが行っている冷却療法を実践していたという。

「夏場の練習後には、激しいトレーニング後に行うと疲労回復効果がある『アイスバス』もやっていました。大きなバケツに水と氷を入れて、キンキンに冷やした水に腰まで浸かって体を冷やすことで、疲労回復などの効果があると言われています。出た後は本当に血流が良くなった感覚がありましたよ」

◆レース前の発走機でボーッとしてしまうことも…

 現在、平塚競輪場にてオールスター競輪が開催されているが、初日の最高気温は35度で猛暑日を記録。ファンとして観戦していても、金網越しからバンクの熱気を感じるが、その上を走っている選手はどのような感覚なのだろうか。

「レースも練習と同じで、直前控え室は涼しく、敢闘門を出たら暑いので、発走機についたときには少しボーッとしてしまうこともありまして……。そういったことを防ぐために、直前までヘルメットに氷のうを入れたり、冷却スプレーを体にかけたりしてからレースに臨んでいました。まぁでもレースは3分で終わるので、暑くてキツかったといえば練習の方を思い出します」

◆日焼け止めは海外製品を使う選手も

 また、女性にとって、夏場はメイク事情にも変化があるようだ。

「メイクをしても、夏場は汗でダラダラ落ちてきてしまいます。たとえばマスカラをしてしまうと、汗で落ちてきて目の周りが黒くなってしまうので、まつ毛エクステをしているガールズケイリン選手は多かったですね。もちろん日焼け止めは塗っているのですが、なかなか市販のものだと何度も塗り直さないといけなかったりして……。海外で販売されている商品を取り寄せている選手も多かったです。私も一度取り寄せましたけど、匂いが合わず、結果的には市販のなかでも強力なものを使っていました」

◆引退してから気づいたこと

 最後に高木さんは、引退してから気づいたことを話してくれた。

「引退してから気づいたことなんですけど、普通に生活していて、体を絶好調にする必要ってないじゃないですか。でも選手時代は、常に絶好調でいることを細かく考えていました。正直、今は冷たいものも食べちゃうし、冷房が効いている部屋に長時間いることもありますし……。そんななかでも、選手時代にやっていたことを少しでも実践できれば、より健康でいられると思います。つまり、現役時代にやっていたことは、『人が健康でいるためにやるべきことをやっていた』ってことかもしれませんね」

 競輪選手としての厳しいトレーニングや体調管理は、ただパフォーマンスを追求するためだけでなく、健康維持にも通じるものだったと語る高木さん。そう考えると、競輪選手のトレーニングや健康法には、健康維持のためのヒントが詰まっているのだろう。

 真夏のバンクで颯爽と駆け抜ける選手の裏には、こういった“灼熱の中で積み重ねている努力の日々がある”ということを忘れてはいけない。

文/セールス森田

【セールス森田】
Web編集者兼ライター。フリーライター・動画編集者を経て、現在は日刊SPA!編集・インタビュー記事の執筆を中心に活動中。全国各地の取材に出向くフットワークの軽さがセールスポイント

―[高木真備のガールズケイリントーク]―

この記事の関連ニュース