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フワちゃんの“誤爆投稿”で明るみになった「天然コメディアンの裏側と芸能界の恐怖」

日刊SPA! 2024年8月17日 8時51分

文/椎名基樹
◆「天然の素人コメディアン」という逸材たち

 昨今のバラエティー番組では、「素人」の「天然ぶり」が一番の笑いどころになっている。お笑いの素人の「素」が、「ボケ」の役目になっていて、プロのお笑い芸人がそれに「ツッコむ」という構造をしている。

 笑いを生み出すこの天然の素人は、一朝一夕に見つけることはできない。まず「お試し」で番組に出演して、そこで爪痕を残し、再び番組に呼ばれ、徐々に出演が増えるうちに天然ぶりが本物だと認識されると、超売れっ子になっていく。

 この人たちは、おばかさんの役目を担っているが、実は何度もフルイにかけられて発見された宝石のような天才達なのだ。

 この構造は、日本のテレビバラエティーが、先鋭的であることの一端だと私は思う。テレビバラエティーの笑いは、ドキュメンタリーの要素が必須なのだ。日本のバラエティーは、その部分を長年突き詰めてきた。

 また同時に残酷な部分だとも思う。この天才たちは、あっという間に、消費されてしまうケースが多々あるからだ。

 この天然の素人コメディアンは、鈴木奈々、滝沢カレン、生見愛瑠など、なぜか雑誌モデルの女の子たちに多い。可憐なルックスとのギャップも、その人気の理由の一つになっているのかもしれない。

◆共通点があるのに真逆のキャラクターである2人

 そんな中、珍しく芸人枠で一気に超売れっ子になったのが、フワちゃんとやす子だった。もちろん売れている女芸人は大勢いる。しかし、劇場で芸を磨いていく以前に、バラエティータレントとしての才能が先に認められて、テレビ界で1、2を争うの売れっ子になった点において、この2人は特筆すべき存在だと思う。

 若くして売れっ子になったので、芸人の匂いがしないところが、バラエティー番組の世界で彼女たちが新鮮に映っている理由かもしれない。彼女たち2人は、今時の、そしてこれから増えていくであろうバラエティータレント像を象徴しているように感じる。

 テレビタレントとしての出自において、共通する部分を持つ2人であるが、キャラクターは、まるで真逆であるのがおもしろい。フワちゃんは、いたずら者の小鬼。やす子は、無垢な心のゆるキャラだ。

 出自が類似していながら、まったく真逆のキャラクターであり、現在テレビの世界で、もっとも売れている2人が絡み合ってしまった今回の事件は、なんだか必然だったようにも感じてしまう。フワちゃんにとって、やす子はなんとなく、気になる存在だったのかもしれない。

 それにしても、フワちゃんがSNSに「死んでくださーい」と、書いてしまったことには、とても驚かされた。そんなこと書いたら、大問題になることなどわかりきっているのに……。

◆誤爆投稿で明るみになった、フワちゃんの“視野の狭さ”

 しかし、この投稿は「偶然目にしたやす子さんの投稿に、“これにアンチコメントがつくなら。”といった趣旨で、本件の投稿の内容を記載し、その場にいた方に表示した画面を見せたところ、操作を誤って実際に投稿してしまった」らしい。

 最初、私はこの釈明を聞いたときに、にわかに信じられなかった。しかし、フワちゃんのその後のSNSの投稿を見ると、どうもそれが真実らしい。たしかに「死んでくださーい」は、誤爆投稿としか説明できない。

 逆に私が、このいきさつを聞いて驚いてしまった事は、フワちゃんの視野の狭小ぶりだ。彼女は、こんなにも仕事や自分を取り巻く状況のことで頭がいっぱいなのか。こんなにもSNSにべったりと張り付き、振り回されているのか。ネット民に対する皮肉に満ちた大喜利をして溜飲を下げているなんて、あまりにも暗すぎる。

 例えば渡辺直美のように、仕事以外の自分の世界を持って、泰然としているように見えたところがフワちゃんの魅力であり、若者の支持を得た部分だと思っていたのだけれど。

 SNSとそのリアクションが、あたかも世界のすべてのような、彼女の近視ぶりを見ると、今回の一件は超売れっ子のテレビスターという過酷で特異な日常を、若い女の子が一身に背負っているがゆえに、自分を見失って起きた事故だったように思える。

◆誤爆は最大の悲劇である

 ただ1つ言える事は、恐ろしきは「誤爆投稿」ということだ。「遅れは最大の悲劇である」という格言がある。時間を守れなかったいう、実に些細なことで、莫大な損害を被ることがあるという意味である。失敗の理由が、些細であれば些細であるほど悲劇的だ。

 しかし、メール社会、インターネット社会においては「誤爆は最大の悲劇である」と言い換えたい。今回、フワちゃんが失ったものの大きさを考えると、まったく関係ない私まで怖くなって身震いがする。こんなホラーはない。

 それにしても昨今の芸能界は、番組という制作されたコンテンツと、タレントの墜落する現実のニュースが、2つ合わさって成り立つショーのようだな。怖い世界だな。

【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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