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20年前に330万円だった「ホンダNSX」は現在858万円〜。中古車は“投資対象”となり得るのか?

日刊SPA! 2024年8月18日 15時53分

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

◆価値が上がる車に長年乗り続けたらどうなるか?
 腕時計投資家の斉藤由貴生です。私が免許を取ったのは今から20年前でありますが、免許を取ってから何年かの間、「腕時計投資」のようなことをクルマでもできるのではないか、と実験したことがあります。

 高級腕時計は「買って⇒使って⇒高く売る」ということが可能であるわけですが、クルマでもそれと同じことができると思ったのです。

 しかしながら、その結論は「クルマ投資は不可能」でありました。というのも、クルマは腕時計のように「上がったり下がったり」という値動きがなく、基本「下がり続ける一方」だからであります。

 とはいえ、昨今では「以前では考えられないほど値上がりした」といった車種が多数出現。例えば、空冷ポルシェなどはその代表格だといえます。

 また、私は今から19年前にホンダNSX(NA1)を所有していたのですが、こちらも空冷ポルシェに負けないぐらいの値上がりとなっています。ということで今回は、元NSXオーナーの私が、「価値が上がる車に長年乗り続けたらどうなるか?」ということを考えてみたいと思います。

◆2005年のNSX価格

 私は、2005年にNSXを中古で購入したのですが、その際の価格(総額)は約330万円でした。買った車両の条件は『1992年式、約6万キロ、修復歴なし、AT、色:カイザーシルバー』であります。

 では、現在同じ条件のNSXを買おうと思ったら、いくらかなのかというと、最も安価な車両が858万円、次が1004万円であります(色指定なしの同条件)。

 2005年時点において、330万円で購入できたNSXは、今や858万円以上という状態。つまり私は、現在価格に対して520万円以上も安く買ったことになるわけです。

 腕時計の場合、この520万円という過去価格との差額が「ほぼリターンとなる」可能性があるわけですが、クルマの場合はどうなるでしょう。

 ということで今回は、安かった時期に購入したクルマを長期間乗り続けていたならば、金銭的に、どういった「得」がもたらされるか、ということを考えてみたいと思います。結論から先に申し上げると、私がNSXに乗り続けていたとしても金銭的な「儲け」はなかったという結果となりました。

◆使って楽しむことを前提とした場合

 私は、クルマも腕時計も「使いたい」という気持ちがあるわけですが、特にクルマの場合、使わないと痛むため、「日常的に使用する」ということが重要だと思います。

 私の年間走行距離は、ざっと2万キロ程度と、都内に住んでいる人間としては、かなり多めだといえます。ただ、NSXを持ち続けていたとしても、NSXだけに乗るわけではないため、NSXの想定年間走行距離は1万キロ程度だといえます。

 私は、2005年に約6万キロでNSXを購入したわけですが、それから今に至るまで19年乗り続けていたならば、その個体は今頃約25万キロに達していることになります。

 冒頭では、2005年に私が買ったのと“同じ条件”で現在のNSX相場を見たわけですが、19年乗ったならばその距離は約25万キロ。6万キロと25万キロのNSXでは価値が全く異なります。

 ただ、それでもNSXの価値は2005年と2024年現在とでは、大きく異なるため、走行距離が25万キロといってもそれなりの価値があるといえます。

 私が調査した買取価格(業者オークション取引相場)では、25万キロ程度のNSX(AT)は350万円~450万円といったところ。

 仮に高いほうの「450万円」を例とした場合、ざっくり100万円高く売れるということになります。

 しかしながら、100万円という額では、クルマの維持費を考えた場合「余裕」があまりありません。

 どこまでを維持費に計上するかにもよりますが、駐車場代までを含んだならば、都内の2万円程度の月極駐車場を借りた場合、4年程度で100万円を消費してしまいます。

 ただ、駐車場代はどんなクルマに乗ってもかかる部分ですので、『クルマに乗る』限り、絶対にかかってしまう経費だといえます。それと同様に、ガソリン代や車両保険代、車検に必要な費用も「必要経費」だといえるでしょう。

 NSXの場合、スーパーカー的キャラクターでありながら、排気量が3.0L(AT車)のため、税金は驚くほど高いというわけでもありません。そのため、自動車税も通常のクルマとさほど変わらないため、そこまでを「必要経費」として良いと思います。

 そうなると、残るは整備代。つまり、約19年、19万キロという所有期間の中でNSXに対する整備代が100万円かかるか否か。それが、「金銭的に“得”となるか否か」の分かれ目だといえるのです。

◆20万キロ程度の維持費は100万円で済むか?

 NSXはスーパーカーといったキャラクターながら、特殊な機構が使われているわけではないといえます。もちろん、ボディはフルアルミのスペシャル仕様ですが、それは消耗品ではありません。

 例えば、メルセデス・ベンツの場合、AMGの7ATは特別な仕立てとなっており、通常の整備工場には部品が出ず、安価なオーバーホールができないという難点があります。ですから、そういった車両の場合、なにかあったら「1発で100万円の整備代」という可能性があるわけですが、NSXの場合、そうなる確率は低いといえます。

 ただ、20万キロ近くも乗るとなると、ショックアブソーバーといった足回り部品などを替える必要があるでしょうし、タイミングベルトだって2回交換する必要があります。そういった各パーツをきちんと交換した場合、100万円という予算では「ギリギリ」となるかもしれません。

 また、NSXの場合、エアコンパネルがよく壊れ、温度調節が効かなくなるのですが、その部分の修理代はそれなり高値だった記憶があります。

 整備するポイントや部品代は、通常の国産車とそこまで大きく変わらないといえるNSXでありますが、19年19万キロ分の必要整備、及びウィークポイントのちょっとした修理をしたならば、値上がりした分の100万円を使い切ってしまう可能性があるといえます。

◆投資としてクルマを捉えた場合

 1年1万キロ使う前提では、走行距離が増え価値が下がると同時に、整備代もかさみます。ならば、「乗らなかった」らどうなるのか。ここからは、乗らずに保管しておいた想定をしたいと思います。

 走行距離6万キロ、修復歴なしという条件のNSXは、現在、買取価格で700万円以上という金額を余裕に狙えるといえます。私が19年前に330万円で買っていますから、仮に買取額を700万円とした場合でも「370万円ほど高く売れる」ということになります。

 ただ、乗らずに保管するという場合では、保管場所の費用を考えなくてはなりません。私が調べたところ、四方が壁に囲まれているという好条件の車庫でも探せば月2万円で借りられる物件があります。

 そうなると、約19年に渡って乗らないNSXのための駐車場を借りた場合、370万円という値上がり額を下回るのでしょうか。

 2万円の駐車場を228ヶ月借りたときの金額を計算すると456万円となります。同じ条件のNSXの上昇額は、19年で370万円と高額ですが、月2万円の駐車場に保管していた場合86万円の赤字となります。

 この場合の計算だと、「乗って楽しんだほうが“精神的には遥かに得”」となるかと思います。

 もちろん、家に保管場所があるという方は、駐車場代はかからないでしょう。ただ、それでも「乗らずに保管しておく」ということには、違うマイナス面があります。

◆長期保管は、愛車を“痛ませ続ける”結果にも

 クルマは、乗らずに長期保管すると、どっかしらが傷んでしまうのです。

 青空駐車で炎天下にさらされ続けていたならば、10年後には塗装はだめになっていることだと思いますし、サビも発生するかもしれません。

 また、屋内保管なら大丈夫と思いきや、湿度をきちんと管理しないと、内装がカビだらけになってしまうかもしれません。

 つまり、乗らない状態で長期保管するとクルマが痛む可能性が大きいため、クルマ好きという観点では「痛む愛車」を自らが生み出してしまうということになりかねません。

 クルマは、乗らないと「痛む」。その一方、乗ったら「距離がかさむ」ため、価値が下がってしまうというある種の矛盾を抱えています。腕時計の場合、使っても「走行距離」のような概念がないため、価値に大きな影響を及ぼさないのですが、クルマを“普通に使ってしまう”と自動的に価値が下がってしまうわけです。

 つまり、クルマの場合「乗って⇒金銭的な得をする」という難易度はかなり高く、今回のNSXのような結構な値上がり事例でも「利益を出すのは至難の技」といえるのです。

 ただ、クルマの「値上がり事例」がまったくないわけではありません。私の知っている人は、新車で日産スカイラインGT-R(R34)を購入して、車庫に眠らせていますが、その価値は今や2000万円程度(修復歴なし、走行距離1万キロ程度の推定買取価格)であります。34GT-Rの新車価格は600万円程度。仮に新車で総額700万円だったとしても、『1300万円の値上がり』となるわけです。これぐらいの上昇幅があると余裕が生まれるため、維持費を含めても利益が出る可能性があるでしょう。

【斉藤由貴生】
1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

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