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“ラーメン目当ての外国人観光客”対策として、「ラーメン税」を導入するべき理由

日刊SPA! 2024年8月19日 8時51分

筆者(田中謙伍)はAmazon日本法人に新卒入社し、現在はメーカー企業のEC戦略を支援する会社を経営しているが、さらに交通やまちづくりにかかわる事業も進めている。
本記事では年々増加するインバウンド観光客のニーズの現状から、日本経済復活に向けた施策について紹介する。

◆「安くておいしい食べ物」として認識されているラーメン

連日インバウンドニーズが高まっているが、彼らは何を目的に観光に訪れているかご存知だろうか。

その一つが「食」だ。GMOリサーチの調べによると、海外在住の20~69歳の男女3,000人の日本に行きたい理由の2位が食だった。

では、具体的にどのような料理が好まれているのか。実は、彼らは寿司、天ぷらと並んで意外にもラーメンを好んで食べている。

2024年に国土交通省・観光庁が発表した「訪日外国人の消費動向」の調査によると、外国人旅行客の方が日本で最も満足した食事は、1位が肉料理、2位がラーメン、3位が寿司となっている。

ラーメンは、「安くておいしい食べ物」として認識されている。なかにはラーメン店を一日で複数店まわる「Tokyo Ramen Tours」なるツアーも企画されているほどだ。

◆“ラーメン目当て”で福岡に訪れる観光客も

特に外国人観光客に人気があるのは、博多とんこつ系だ。秋葉原ならばコロナ前から行列をなしていた「九州じゃんがら」に加え、都内を中心に9店舗を展開するとんこつラーメン店「博多風龍」も人気。

先日筆者が訪れた博多風龍の場合、日中の客の半分ほどはインバウンド観光客に見えた。店内は券売機、張り紙など見えるものすべてが英語、中国語、韓国語など、複数言語に対応していることが強みである。

また新宿エリアならば、ラーメン二郎、蒙古タンメン中本などラーメン激戦区として知られる小滝橋通り沿いにある「龍の家」が有名である。

こちらの店舗も複数言語に対応した張り紙が店内に貼られている。また、東京以外では「一蘭」や「一風堂」など、世界的に有名なとんこつラーメン店の本店が集積する福岡にラーメン目当てで訪れる外国人観光客が絶えない。

さらに外国人客観光は「せっかくだから」と味玉やチャーシューなど「全部入り」の1,500〜2,000円台のメニューを注文することも珍しくなく、客単価アップに貢献している。

それだけニーズが高いとなると、ラーメン店が多ければ多いほど日本国内の経済効果がさらに期待できることは言うまでもないだろう。

とはいえ、「経済効果があるからラーメン店をもっと増やせ」と観光庁など国側が号令をあげることは非現実的であるため、的外れの提案だろう。

◆全国の「駅そば」を「駅ラーメン」へ

そこで筆者が提案したいのが、鉄道インフラを「ラーメンインフラ」にする政策だ。具体的には、全国の主要駅にある「駅そば」を「駅ラーメン」に変えるのである。

なぜならば、観光庁の調べによると、外国人観光客が日本滞在時に利用する交通手段として鉄道を利用する人が54.1%というデータがあるからだ。

限られた滞在時間内でできるだけ日本のコンテンツを楽しみたい観光客にとって、駅チカは間違いなくメリットになる。これは少し想像してみれば納得できるだろう。

われわれ日本人も、海外旅行に出かけた際に、駅や空港の中やその近くにある観光スポット、飲食店にはアクセスがよく、手間も感じにくいので足を運びやすいと思うのではないだろうか。これは万国共通である。

◆スペインのデモは「日本にとっても他人事ではない」

繰り返しになるが、日本ではラーメンを目的に訪れる外国人観光客が多く、また彼らは駅(鉄道)を利用する。そのため、駅ビル、駅ナカにラーメン屋があればアクセスがよいこともあり、彼らから高いニーズが見込めるのだ。

つまり、いま以上に駅や駅ビルにラーメン店を配置することでインバウンド向けの食のインフラが整うのである。

だがその一方、ラーメンは日本人の庶民食でもある。このままラーメン目当ての外国人観光客が増え続けると、混雑に巻き込まれ、不便を感じる日本人も増えるだろう(もちろん、そば屋が減って困るそば好きの日本人もいるが)。

加えて、ラーメン店の混雑だけでなく、年々避けられない値上げに不満を持つ人が増えるかもしれない。事実、スペインでは増え続ける観光客によって家賃の高騰、混雑が進んだ結果、住人の不満がたまり、観光客に水鉄砲をかけて抗議するデモも発生している。

これは日本にとっても他人事ではない。ラーメン店ですらオーバーツーリズムの対象になってしまうのは、多くのラーメン愛好家は避けたいのではないだろうか。

◆京都市は「宿泊税」で年間約100億円の税収が

こうしたインバウンドの負の波及効果「負の外部性」を取り除くために上手く活用されている施策の一つが、京都などの観光地に導入されている「宿泊税」だ。

この宿泊税、地方自治体が条例によって定められる法定外目的税に分類されており、たとえば京都市の場合、宿泊税で年間約100億円の税収がある。

この税収の使い道は、宿泊施設の充実化だけではない。宿泊者が増えること≒観光客が増えることによって、その地域において起きるさまざまな問題への対策に使われるのだ。

京都市のHPによると、宿泊税の税収は「市民・観光客双方にとって安心・安全な受入環境の整備や京都観光における、さらなる質・満足度の向上などに活用し、市民生活と調和した持続可能な観光の確立のため」に使われるという。

具体的には、修学旅行の受入環境整備、災害時等における市民・観光客等の安全対策、交通バリアフリー対策など地元住民にも恩恵をもたらす様々な整備に使われている。

◆「ラーメン税」を全国で導入するべき

そこで、この宿泊税と同様の効果を期待して、ラーメン店のオーバーツーリズム対策として提案したいのがラーメンの二重価格、いわば「ラーメン税」の導入だ。

外国人観光客が訪れる一部のラーメン店に日本人と外国人観光客で異なる価格、すなわち二重各区を導入するのである(ここからはラーメン税と呼ぶ)。

この税収の使い道は、宿泊税がそうであるように、ラーメン店そのものへの充実化だけでなく、外国語対応が難しいラーメン店のスタッフの語学コミュニケーション研修費、ラーメン店が密集している地域における観光ガイドの用意など、店舗以外にも求められるインバウンド向けのインフラ整備に使うのだ。

もちろん、ラーメン店前の道路の整備、地元客向けの座席の整備のほか、全国主要都市のラーメンマップアプリ、Google MapでのMEO(地図エンジン検索結果の最適化)やトリップアドバイザーなど口コミサイトの整備なども税収の使い道として考えられる。

つまり、ラーメン税は、ラーメン店だけではなく、地域住民の生活の質向上にも貢献するのだ。こうした施策に驚く人もいるかもしれないが、人気スポットに二重価格を持ち込むことは世界では極めてスタンダードな考えだ。

フランスのルーブル美術館、タイのワット・ポーはそれぞれの国の一大人気スポットだが、二重価格を導入している。具体的にはどちらも地元民の一部は無料、観光客はそれぞれ約3,700円と約1,250円となっている。

日本のラーメン店も、世界の観光スポットと同様のシステムで二重価格を導入すればよいのだ。これにより、オーバーツーリズムが解消し、日本人にとっての庶民食であるラーメンの文化が保たれるだろう。

筆者はこれまで、Amazonでさまざまな商品を販売してきており、マーケティング施策の一環として、商品価格を変動させることは当然のように行ってきた。

ネット通販はスーパーマーケットの野菜と同様に、ダイナミックプライシングが当然の業界である。そもそも、本来あらゆるサービスにおける価格は時期、ニーズによって変わるものであるはずだ。

そのため、ダイナミックプライシングや二重価格のように、値段が一律でない動きは今後さらに増えていくと考えられる。ただ、今回筆者が提案したラーメン税については、ホテルや航空券、サウナ、飲食店などのダイナミックプライシングとは異なる「税」だからこその利点がある。

◆税収は少なく見積もっても100億円に

前提として、ラーメンのようなインバウンド観光客に人気のコンテンツは地域に人を呼び込む送客装置であり、これによってその周辺地域や住民にも利益をもたらす経済学でいう正の外部性を伴う。

ただ、ダイナミックプライシングによって値付けられた商品・サービスの売上はその提供者(店舗)のみが利益を得る仕組みである。これに対し、ラーメン税の場合、税収の使い道は店舗以外にも地域住民など多岐にわたって還元できる。

よって、そのインパクトはラーメン店のみにとどまらないため、日本のインバウンド向け施策として大きな効果が期待できるのだ。

最後に、軽くその税収試算を試算してみよう。現在日本全国にラーメン店は約25,000店舗あり、全体で年間約6,000億円の売上となっている。仮にラーメン税が10%なら600億円の税収となる。

とはいえ、インバウンド観光客が全国すべてのラーメン店を訪れるわけではない。そのため、ラーメン税の税収がある店舗が15〜16%と見積もっても、先ほど紹介した京都市の宿泊税と同額の年間100億円の税収は期待できるだろう。

先述の通り、各自治体が法定外目的税の制度設計を活用すれば、その税収はインバウント観光客だけでなく、地域住民も恩恵を受けるインフラ整備に活用できる。

◆制度設計でオーバーツーリズム解消以上の効果も

念のため伝えると、筆者は増え続けるインバウンド観光客に対し、ラーメン税を導入することのみを主張したいわけではない。現在のオーバーツーリズムがもたらす負の外部性を、制度設計によって解決すべきだというのが本稿で伝えたいことだ。

外国人観光客から人気を集める商品・サービスに対しては、新たな収入源を確保し、それを当該商品・サービスのインフラ整備に投資することで、正の外部性を充実させること。これが長期的に日本のプレゼンスを高めるために得策であると筆者は考える。

<TEXT/田中謙伍>

【田中謙伍】
EC・D2Cコンサルタント、Amazon研究家、株式会社GROOVE CEO。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社、出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、同社大阪支社の立ち上げを経験。マーケティングマネージャーとしてAmazonスポンサープロダクト広告の立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。Youtubeチャンネル「たなけんのEC大学」を運営。紀州漆器(山家漆器店)など地方の伝統工芸の再生や、老舗刃物メーカー(貝印)のEC進出支援にも積極的に取り組む。幼少期からの鉄道好きの延長で月10日以上は日本全国を旅している

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